競歩って知ってる?
陸上競技の一つで、名前の通り「歩く速さ」を競います。
はい、そこのあなた。チマチマと早歩きをする地味ぃ~な集団を思い浮かべましたね?
「面白く無さそ~」って思いましたよね?
いやいや、ちょっとお待ちください。
実は競歩って「面白い」んです。
本記事では「競歩」についてその魅力を伝えていきます。
スピード
「歩く速さを競う」と聞いてあなたはどれくらいのスピード感を想像しましたか?
遅刻しそうで廊下を全力早歩きする高校生?近所の健康志向おじさんのウォーキング?
いやいや、そんな程度じゃありません。
第18回世界陸上 男子20km競歩の優勝者、山西利和さんの記録は1時間19分7秒です。
簡単のために1時間20分として計算すると、なんと時速15km。
日常にあるもので例えると「ママチャリで通学する学生」くらいです。
「自転車」に匹敵する速度の「歩き」です。とんでもないことですよこれは。
ぶつかったらワンチャン死ねます。
「走っても追いつけねえ…」となった人も多いでしょう。
「いやいや、「歩いてる」って言っても実際のとこ走ってるんでしょ?」
「さすがに自転車に歩きで追いつける訳ないし~」
と思った人もいるでしょう。そんなことはありません。
競歩は「非常に厳格なルール」で「歩いている」かそうでないかを判定しています。
「歩いている」とは?
競歩では一定の間隔で審判員がつき、選手のフォームが「歩き」に該当するか常にチェックし続けます。
競歩における「歩き」の定義は以下の2つです。
1.常にどちらか片方の足が地面についている。
2.足を地面に付けてから、足が地面と垂直になるまで膝を曲げてはいけない。
両足が地面から離れることを「ロスオブコンタクト」、
曲げてはいけない範囲で膝が曲がることを「ベント・ニー」といいます。
これらの反則を審判が確認すると、一度黄色の「注意」の札が自身に提示されます。
「注意」を受けてなお改善が見られない場合、赤色の「警告」の札が提示されます。
この赤色の「警告」を計3つ受けるとその場で数分間停止させられるペナルティを受けます。
そして4つの警告を受けたとき「失格」となります。
「失格」になれば記録はつかず、即座にコースから出なくてはなりません。
たとえゴール直前であったとしても、です。例外はありません。
また、ラストスパートにいきなりダッシュすることを防ぐためのルールもあります。
残り100mからゴールまでの間にどちらかの反則をすると、それまでの「警告」の数に関わらず即失格とされてしまいます。
最後の最後まで気を抜かずに「歩く」ことを徹底する必要があります。
競歩は長距離の陸上競技において、唯一「失格」が現実的な種目です。
どれだけ序盤に圧倒的なリードを築いても、「失格」ひとつで最下位へと転落します。
競歩の「戦略」
フォームに非常に大きな「制約」のある競歩だからこその「戦略」があります。
警告4つで即「失格」の競歩において、現在の自分の「警告」の数は非常に重要です。
残り一つで失格となる選手は、思い切ったスパートを切れなくなってしまいます。
例えば、警告無しと警告3つの選手がラスト1000mを競う場合、前者が圧倒的に有利です。
よって序盤、中盤はいかに「体力を温存し」「警告が無いように」歩くかが重要です。
競歩はマラソンと同じように、大人数で同時にスタートします。
序盤から中盤にかけては選手が団子状態になることも多くあります。
さて、このとき選手たちはどのような「戦略」をとるでしょうか?
ひとつは団子の中央に位置取り、「審判から身を隠す」ことです。
審判は人間なので、一度に見れる選手の数には限界があります。
団子状態の中心に陣取れば、他の選手の影に隠れて警告を受けにくくなります。
しかし、団子の中心というのはそれだけ「交錯が多い」場所でもあります。
足や腕がぶつかると転倒のリスクがありますし、体力も多く使います。
「位置取り」がうまい選手は絶妙に審判の目を躱しながら、交錯を抑えて体力を温存します。
序盤にはまったく存在感の無かった選手が最後の最後で大逆転、というのは競歩では非常によく見る展開のひとつです。
また、終盤のスパートにまつわる駆け引きも注目のポイントです。
「走る」競技と違い、競歩はガムシャラにスピードを出せばよいという訳ではありません。
勝ちたい一心でフォームが崩れ、最後の最後で一発失格、という展開もよくあります。
実際に筆者が高校3年の時、全国出場を賭けた大会のスパート合戦で上位5人中3人が失格となり、6位でゴールした私が繰り上げで全国出場権を得ました。
明らかに無理のあるフォームで上位勢がスパート合戦に入った場合、それにつられずに冷静にゴールするというのも戦略の一つです。
他にも警告数に余裕のある選手が急なペースアップで他選手の脱落を狙うなど、レース中には細かな戦略がひしめいています。
まとめ
見た目は地味。しかし戦略は興味深い。これが競歩の魅力です。
競歩は今日本人が非常につよく、世界陸上ではテレビ中継もされています。
もし興味があれば観戦してみると楽しいかと思います。