はじめに
前回までは総合数理アドベントカレンダーをやるために記事を書いていましたが、それだけのために記事を書くのも寂しいので、今後は趣味として自分が楽しいと思った科学現象を書きます。今回は現在放送中である「仮面ライダービルド」第17話に登場したスクラッシュゼリーについてです。
そもそもの疑問 (という名のただの番組紹介)
主人公の桐生戦兎が変身する仮面ライダービルドと万丈龍我が変身する仮面ライダークローズはベルトである「ビルドドライバー」と「フルボトル」というさまざまな成分が入ったボトルを用いて敵と戦います。フルボトルの組み合わせによってフォームチェンジができ、相性のいいボトルの組み合わせは「ベストマッチ」として強力な力を発揮します。
図1:フルボトルとビルドドライバー
第17話からは新展開が訪れ、強力な敵であるハードスマッシュが登場します。彼らに対抗するにはビルドドライバーでは勝つことが出来ません。そこで戦兎が完成させたスクラッシュドライバーとスクラッシュゼリーを使い、龍我を仮面ライダークローズチャージへとパワーアップさせハザードレベルを上昇させました。
このスクラッシュゼリーは「液体にして入れているフルボトルのさまざまな成分を、ゲル状化させてパワーを最大限に発揮できるようにしている」というのが劇中の設定なのですが、「液体をゲル状にするとエネルギーが増大するというのは本当にあるのだろうか?」という疑問が出てきたので真面目に調べました。
図2:スクラッシュゼリーとスクラッシュドライバー
液体をゲル状化した時の変化
そもそもゲルは液体にある流動性が失われ、固体になったものです。高い粘性を持ち、成分の中でネットワークとして繋がる架橋構造を持つという性質もあります。多くの物質の流動は構成物質の性質や様子が異なったとしてもマクロな視点で見ると全てNavier-Stokes方程式
$\frac{Dv}{Dt}=-\frac{1}{\rho}gradp+\frac{\mu}{\rho}\Delta v+\frac{\lambda+\mu}{\rho}grad\theta+\theta+\frac{\theta}{\rho}grad(\lambda+\mu)+\frac{1}{\rho}grad(v・grad\mu)+\frac{1}{\rho}rot(v×grad\mu)-\frac{1}{\rho}v\Delta \mu+g$
($v$:流れの流速場、$\rho$:密度場、$g$:加速度場、$p$:圧力、$\mu$:剪断粘性率、$\theta$:速度場の発散)
に従っています。この方程式はミクロから導かれていますが、多糖類をたくさん集めて合成させた高分子ゲルの流動方程式は複雑な挙動のためこの方程式には従いません。流動性を失ったゲルは巨大な網目状のネットワークを形成するのです。
ゲルの種類と形成
ゲルの形成方法は高分子の種類によってさまざまです。澱粉や寒天など均一な分散媒を固めたものは高温の状態から低温にすることで分子間の相互作用度が上昇し架橋点ができることで網目構造が完成します。それに対して低温状態では液体でも高温化させることでゲル化する物質も存在します。これは水溶液中では水と結合することで溶解していますが、高温度になると熱運動のために水和状態が減り、疎水基の結合が起きることでゲル化するといわれています。加熱によって分子構造の変化が起こり、分子間にネットワークを形成することで起きると考えられているからです。
物質によってさまざまですが
<エッグボックスモデルに多い性質>
・加熱して溶解することでイオン化させたゲル→耐熱性に優れやすい
図3:エッグボックスモデルの可視化
<分子間相互作用に多い性質>
・加熱や冷却などの温度変化で生成された固体の高分子ゲル→耐酸性に優れやすい
といった優れた点があります。
架橋の立場から
物理的架橋の数や強度は合成する物質の重合度とゲルに転移するまでの時間が関係します。物質の重合度は架橋剤という架橋構造を作りやすい物質を投与したり、二重結合や三重結合を切り離して、開環重合によってくっつけることで強度が増します(重合度がますということはエネルギーも当然高くなる)。ゲルへの転移の時間はゲル中に占める反応物質の量子数と反応度が関係していて、これもエネルギーの変動を考慮するために分子のネットワークを為す結合の長さで判定します。
終わりに
ざっくりと液体のゲル化について見てきたわけではありますが、まだ本質的な(というか自分の興味ある)ところまでは到達していません。ゲル化を語る上で大事な性質で「熱可逆ゲルのレオロジー」という固体と液体の両方の性質を見せるゲルのネットワーク構造を調べるものがあります。
今回は期末試験前日の1.5時間で書き上げた記事なので導入で内容が薄いですが、今後はこのゲルのネットワーク構造を学んでいこうと思います。