シカゴに拠点を置く法律事務所ベーカー・マッケンジーが発表したレポート『Risky Business: Identifying Blind Spots in Corporate Oversight of Artificial Intelligence』によると、64%の企業が専任のAI最高責任者を置いていないことが(米国在住のCレベル幹部500人の回答による)判明しました。AI最高責任者がいない場合、AIの監視は通常、CTOまたはCIOの領域となります。さらに、レポートによると、企業の取締役会のうち、AIの専門家がいるのはわずか41%であることを挙げています。では、AI最高責任者の役割の何が人々の話題になっているのでしょうか?それとも、まだ数年先の話なのでしょうか?最高AI責任者という重要な役割と責任とは何なのでしょうか?この記事では、それを紐解いていきます。
AIのリスク管理
デロイトの最新レポート「State of AI in the Enterprise」によると、AIプロジェクトを長期的にスケールしようとしている組織の50%が、AIへの取り組みの拡大を妨げる主な阻害要因として「AI関連のリスク管理」と「経営幹部の支持不足」の両方を挙げています。AIへの取り組みに対して明確なリーダーシップがない状態では、AIの導入と拡大は、現実的ではないことは明らかです。
数年前、私たちは理論的な最高AI責任者の役割にどのような方向性があり得るかを想像しましたが、今日最も頭を悩ませているのが、AIと法務/リスクの関係性です。急速に変化する法律やIT環境を考慮すると、この最高AI責任者は会社のガバナンスとデータプライバシー基準の所有者となり、会社のすべての部門・部署でガバナンスが遵守されているかどうかを確認すると同時に、新たなリスクに配慮する必要が出てきます。セルフサービス・アナリティクスがビジネスの現場でも定着する中、機械学習の解釈可能性、信頼、そして倫理についてのオーナーシップを維持しながら、適切なガバナンス・ポリシーを確立する任務を負うことになるでしょう。
Dataiku Product Daysのセッションのブログ概要で、英国Deloitte ConsultingのチーフAIオフィサーであるSulabh Soral氏は次のように述べています。
「AIの言語を理解し、この技術のより大きな意味を研究できるエグゼクティブは、非常に貴重な存在になるでしょう。組織全体に浸透するビジネス・プロセスの観点から、定義された戦略とAIの概念化が鍵になります。誰もが、AIプロジェクトを最初から最後までサポートするために、評価基準を見て、どのように積み上げるべきかを判断できるようになる必要があります。このような理解と知識欲は、トップダウンを通じてもたらされることが必要です。」
リーダー層に対するエバンジェリスト活動
組織のリーダーや経営陣は、AIとそのビジネスへの潜在的な影響を理解するための時間を取る必要があります。AI最高責任者は、経営陣向けの一連のワークショップの機会を設け、AIや分析に関する重要な概念などのコーチングを行い、経営陣が抱えていた誤った考え方を排除することによって、成功へ導くことができます。そこで、経営層に対して下記のような質問をします。
- AIや高度なアナリティクスを追求することは、企業にとって脅威となるのか?
- これらのテクノロジーを使って、既存のプロセスを改善できるのか?
- 新しいビジネスチャンスを生み出すために、これらの技術はどのように活用できるのか?
- 社内で、あるいは特定の部署でAIを活用しない場合のリスクは何か?
AIに支えられたテクノロジーが重要な役割を担うとしても、テクノロジー優先の役割ではない他の経営幹部(CFO、CHROなど)との関係をスムーズに構築・維持し、事業部門や ファンクショナルチームと横断的に仕事ができる人が適任と言えるでしょう。
技術+ビジネスの橋渡し役として、別の役割から進化する
HBRの記事で、AI専門家のアンドリューNGは、「データはあるが、深いAIの知識がないような大多数の企業には、AI最高責任者やAI担当副社長を雇うことを勧める」と述べている。一部の最高データ責任者や先進的なCIOは、この役割を効果的に担っている。"と述べています。多くの組織では、すでに最高データ責任者、最高データ科学責任者、最高分析責任者を置いているかもしれないので、これらの既存の役割のどれかが、最高AI責任者のポジションに拡大・成長し、元々の専門性を活かし、企業全体にAIを取り入れたテクノロジーを導入・拡大させるために、さらに一歩踏み出すことができると言ってよいでしょう。Ngは同記事で、AI最高責任者を採用する際に理解すべき特徴を下記のように推奨しています。
- AIとデータインフラに関する強い技術的理解
- 強力なイントラプレナーシップのスキル
- AIの人材を引きつけ、維持する能力(そしてAIチームをうまく管理する能力)
AI最高責任者は、サイロを超えてAIを導入し、中核となるデータチームだけでなく、業務にも浸透させることができるため、ITやテクニカルデータサイエンスのバックグラウンドを持つCDOとは異なるかもしれません。
チーフ・データ・オフィサーへのギアチェンジ
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原文はこちら:What Is a Chief AI Officer?