電力の消費量が増加している昨今、エネルギーの生産者と供給者は需要を的確に予測する必要に迫られています。エネルギーが化石燃料だけでなく原子力、再生可能エネルギーなど多様化し、同時に気候変動への対応を求められている現在、その必要性はこれまで以上に増しています。そんななか、もはやデータサイエンスを使わずに複雑なエネルギーエコシステムを設計することは限りなく不可能に近くなっています。
2050年に100億人に達する地球人口。これまで以上に豊富な技術の時代が到来し、電力への需要は止まることを知りません。今後人類はよりエネルギー集約度の高い大都市やメガロポリスの発展を見ることになるでしょう。
地球温暖化により、私たちはエネルギー消費の削減を余儀なくされています。2021年の7月15日、国際エネルギー機関(IEA)は世界の電力需要が2021年に5%、2022年に4%増加すると発表しました。これらの数値が逆転することはほぼありえないでしょう。このような状況のなか、エネルギー業界の企業はより環境に優しいエネルギーを生産・貯蔵する技術を展開するべく、常に技術革新に取り組んでいます。
完全な移行期にある産業
再生可能エネルギーが登場し、競争が激化し、地球温暖化が深刻化する…。エネルギーセクターは大きな変革期を迎えています。脱炭素社会を実現するためには、化石燃料(石炭、石油、ガス)から再生可能エネルギー(太陽光、風力、バイオマス)による電力へと移行していくことになります。再生可能エネルギーの割合が増えると、主に2つの影響があります。ひとつには、将来の電力システムが、出力の不安定な発電機からの電力を多く受け入れるようになること。もうひとつは、分散化が進むことです。送電網がダイナミックになると、それぞれの家庭で発電して送電網に売ることができるようになります。逆に、誰もが一斉に電気自動車を充電するようになり、需要が急増することも考えられます。このような状況下で、電力網を効率的に運用し、停電を回避することは、今後も困難を極めるでしょう。
分散して生産される特性の異なるエネルギーを、組織としてどのように管理するか。また、太陽光や風力などの不安定なエネルギーを、使用量の削減が求められる化石燃料とどのように統合するのか。よりダイナミックなエネルギーシステムにどう対応していくか。こうした問いに答えていく必要があります。
ソーラーパネルの配置からプロセスの最適化まで
こうした複雑な問題に直面したエネルギー業界の企業は、数多くのAIプロジェクトを展開し始めました。例えば、ソーラーパネルの最適な設置場所や、最も効率的な風力タービンのレイアウトを決めるためのソリューションを開発しました。また、既存設備の運用を改善したり、生産現場やネットワークの故障を予測して異常を検知したり、従業員の安全性を高めるためにもAIを活用しています。また、温室効果ガスの排出量やその他の環境・社会的影響をより適切に定量化し、削減するためにもAIを活用しています。さらに、さまざまなエネルギーの生産量をより正確に推定し、顧客のさまざまな消費量を予測するためにも、これらの技術を利用しています。
企業は多くの風力発電や太陽光発電のプロジェクトを開発しています。エネルギー業界の企業は、生産性能を比較・最適化し、異常を検出したり、メンテナンスが必要な時期を予測したりするために、非常に多くの設備で動作を分析し、視覚化する必要に迫られています。これらの取り組みを成功させるには、データをリアルタイムに収集し、アナリストたちが簡単にアクセスできるようにし、クラウド上の演算エンジンを活用して大規模なプロセスを管理できるようにする必要があります。
エネルギー転換を成功させるには、生産から消費まで、エネルギーのバリューチェーンのすべてでAIが必要になります。そのためには、すべての人がAIを使ったシステムの構築に貢献しなければなりません。実際、AIはデータサイエンスの専門家だけのものであってはならず、エネルギー分野に詳しいステークホルダーと共同で設計し、この業界の課題や問題により良く対応していかなければなりません。
経済的利益
純粋に経済的な観点から見ると、AIがエネルギー節約の源になるという研究結果が出ています。例えばIEAの報告書によると、スマート照明システムなどを使ってリアルタイムで収集したデータにより、建物のエネルギー消費量を10%削減できるそうです。またこの報告書では、2040年までに110億台のスマートデバイスが相互に接続されることで、住民が送電網からの電力消費をより適切にコントロールできるようになるとのこと。その結果、185GWの柔軟性が得られ、新たな電気インフラへの投資を2,700億ドル回避できると試算しています。
このようなマルチエネルギーの生産から、工場の管理や生産チェーンの運営を含む流通まで、生産面でも消費面でも、エネルギーチェーン全体を最適化するために、AIは中心的な要素となっています。地球温暖化に直面し、エネルギーの世界は変貌し、改革されつつあります。この複雑で流動的な世界では、この移行をサポートするために、AIがもたらす機会を捉え、大きな俊敏性を発揮することが必要になります。
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