はじめに
本投稿はデータラーニングギルドのアドベントカレンダーの5日目の投稿になります。
今日は、データサイエンティスト(*1)として、ビジネスとテクノロジーの間にあるであろうポジションを目指して1.5年間奮闘してきた私個人の経験から、そこを目指す意図や取り組んだ結果見えてきたことを綴っていきます。
データ分析人材のキャリアの幅が広がるきっかけとなるような記事になると大変うれしいです。
なお、同様の方向性で今年7月にデータラーニングギルド内のLT企画にて発表していますので、よろしければそちらもどうぞ。本投稿はLT内で話尽くせなかったこと、発表後の約半年で新たに見えてきたことの内容になります。
*1 : 厳密には数理最適化エンジニアなので、広義の意味でのデータサイエンティストになります。
2020年7月発表内容
本記事の内容を3行でまとめると
- データ分析領域において、ビジネスとテクノロジーを繋ぐ役割の重要性は他技術領域よりも高いにも関わらず、それを担える人材はデータサイエンティスト以上に不足しているという仮説
- 上記の人材は自分がなりうるキャリアが拓けると考え、思い切って転職してみた
- 実際にやってみて、課題は多くあるものの上記仮説の正しさを感じ始めている点についてシェアしたい
目次
- 経歴紹介
- 「ビジネスとテクノロジーを繋ぐポジション」とは?
- 取り組んでいる内容
- 取り組んだ結果として得た知見
- おわりに
経歴紹介
このようなキャリアのお話をする際に、前提となるそれまでの経歴や経験が大事だと思いますので、簡単に紹介。
詳細はこちらを御覧ください。要点としては下記の通り。
- 理学部大学院卒(自然科学分野)
- 数理最適化エンジニア:新卒から約3年
- 新規事業企画:約1年半@バンコク
- 新規事業企画として入社したものの、そもそも新規事業の仕組み・体制を構築するため、より事業企画・経営企画よりな活動も兼務で実施する方向でシフト中
※本投稿の内容は、厳密にはすべて「在タイ日系企業で現地採用として実施」という但し書きが付きますが、話がややこしくなるので外国であることには触れずに進めていきます。
「ビジネスとテクノロジーを繋ぐポジション」とは?
上記経歴のとおり、一度エンジニアとして働き始めたものの、ビジネスサイドの職種となるBusiness developerへの転職をしました。まずは**どうしてその転職を決断したのか?**つぎに、**実際取り組んでみてどうだったのか?**という点をお伝えしていきます。
目指したい姿
なるべく簡単にまとめると下記のような人材を目指しています。
- 「事業がわかるデータサイエンティスト」または「事業もできるデータサイエンティスト」
- 軸足はエンジニアリングにおきつつ、ビジネス側へ足を伸ばしてテクノロジーとのリンクを担える人材になる
- データサイエンティスト協会が定義する「ビジネス・データサイエンス・エンジニアリング」の枠(*2)とは異なる次元・レイヤーから見て、ビジネスそのものをデータサイエンスやテクノロジーへ繋げられるポジションを目指す。(*3)
*2: データサイエンティスト協会の定義では、ビジネス力が強いデータサイエンス人材はデータアナリストとして定義されています。しかし、ここで目指したいのは分析を実施する人材そのものではなく、そもそもどういう分析の仕事(データサイエンティストやデータアナリストの業務)を創り出せば価値に繋げられるのか?を企画できるような人材
*3: そしておそらくこのような業務はデータサイエンティスト全体の枠を超えていて、まだ名前がない職種
データサイエンティスト協会が定義する、データサイエンティストに必要なスキル
引用元:データサイエンティストのためのスキルチェックリスト/タスクリスト概説
なぜ同ポジションを目指そうと思ったのか?
新卒からエンジニアを初めて3年間たち、転職を考えるタイミングが訪れたときに「そのままエンジニア職を続けていくべきか?」それとも「他の職種を経験して幅を広げるべきか?」という点についてすごく悩みました。最終的には新規事業企画の職として決断しますが、その時のロジックとしては下記のような流れでした。
- AIエンジニア・数理最適化エンジニアは個人の知恵・知識・スキル・経験の違いによるバリューの差がものすごく大きい
- 特に数学がすごく得意なわけではない自分が逆立ちしても勝てないスーパーエンジニアはたくさんいる
(現実問題、職場にも複数人いた)
- スーパーエンジニアになることを目指して彼らと競争するよりも、「彼らの素晴らしい能力を最大限発揮できる仕事をつくる仕事できないか?」と思うようになった。
(ビジネススキル/ソフトスキル面が足りないがばかりに社内で評価されないスーパーエンジニアを何人か見てきてこのように考えるようになってきた)
- 同時に数理最適化を学んできたものの、それをどう社会へ応用していくのか?という思考力・創造力が自分に不足していることに対する課題感を持っていた
- 新規事業企画という仕事は「スーパーエンジニアが活躍できるような新しい仕事を開発する」ことで3.の課題を解決し、「データサイエンス・機械学習・数理最適化のテクノロジーを新しいビジネスに繋げる」ことで4.の課題を解決できる仕事なのではないかと考えた(*4)
- 同ポジションはまだデータサイエンティストほど大きく取り上げられてはいないけれども、将来価値は高いと考え、決断に至った(*5)
*4: 実態としては、自分でここまで考えて、新規事業企画ポストへ応募したわけではなく、データサイエンティストポストを探している中で、今の上司から「新規事業企画というポストいかが?」という提案があった。データサイエンティストポストへの可能性もあったなかで、あえて新規事業企画を選ぶことにものすごく悩んだけれども、最終的に上記結論を出した。
*5: ここでは整理して書けているけれども、実際は転職した後もしばらく「やっぱりデータサイエンティスト職に就くべきだったかなー」と悩んだ。取り組んできたことが少しずつ芽が出てきたことで、悩みが徐々に小さくなり、本記事に至る。
そのために取り組んでいること
新規事業企画の業務
メインのタスクとしては新規事業企画部の中で企画業務を行っています。ただし、今のビジネス環境(自社の状況・顧客の状況)としてすぐにデータサイエンス関連のビジネスを始められるわけではなく、IT全般と顧客課題をマッチングさせて新しいビジネスの企画を推進しています。
「企画業務」といってもイメージが沸かないかも知れませんが、実際に取り組んでいることを挙げると下記のようなことです。
- ユーザニーズのヒアリング
- ユーザは既存顧客だったり、新規顧客だったり、自社内のメンバーだったりする
- 課題の抽象化・モデル化
- ユーザニーズは得てして、困っていることが表面的に提供されるのでその課題をモデル化する必要がある
- モデル化することで、次ステップのどのソリューションを利用するべきか?
- 1つのニーズだけではビジネスボリュームが出ない場合は他のニーズと合わせて一般化できないかを検討する
- ソリューション検討
- 自社で開発するのか?他社から調達するのか?
- 自社で開発する場合は、そのスキルが自社にあるのか?
- 他社からの調達の場合は、その調達の難しさはどのくらいなのか?
- ビジネスモデル・ビジネススキーム検討
- 新規ビジネスとして企画していくためには、ユーザのニーズを満たすだけでは不十分
- ビジネスとして持続可能(収益が出る)である事が必要
- 「このユーザニーズをどのように叶え、どのように収益を挙げるのか?」という点を考える
- ビジネスモデルと商流はセット
- ソリューション開発(自社でつくるところ・他社ソリューションを繋ぎ込むところ)
- 検討したソリューションを具体的にどうやってユーザに届けるのか?
- その方法は現実的に可能なものなのか?(例:開発コスト・調達コスト・期間・リソース)
- 上記検討の結果、投資が必要な場合はそのための説明・説得が必要
- さらに、このソリューション開発を実現するためのチーム構築等
- ユーザからのフィードバック+プランの修正
- いくら上記プロセスで一生懸命よい企画を立てても、確実に目の前のユーザーニーズと提案するソリューションにはギャップがある
- そのギャップの修正をするために、また1.へ戻ってサイクルを回していく
抜け漏れがあるかも知れませんが、基本的に現在の私が新規事業企画として取り組んでいる内容は上記のような流れです。つまり、ビジネスを企画・推進していく上で必要なことの全てを自分またはそのチームでやっていきます…!
頭ではわかってはいたつもりだったけれども、この一連の業務を遂行していくことは大変。特に自社になかったスキルを活用したソリューション作りとなると、そのスキルを新しく習得したチームを構築するという点に今は課題感が多いです。
NewsPicksが最近はじめたJobPicksという職業図鑑(?)サービスで「事業企画・事業開発」をみると「事業企画・事業開発とは?」という質問に対して、「ビジネススキルの全部のせ丼」と回答されている方がいるのですが、まさにそのとおりだなと日々実感しています。
自社内における新規事業企画のスキーム作り
前節で取り上げたプロセスについて、現在の職場では元々このようなスキームがあったわけではなかったというのが実情でした。(新規事業企画部そのものは私の入社4ヶ月前に発足。設立したのはいいものの、上記プロセススキームが整理されておらず、新しいアイディアをビジネスに繋げる活動はなかった)
この課題に気づき出した入社の約半年後からスキームを整理・一般化する作業にも取り組んでいました。(*6)
その頃参考になったのが、こちらの本です。まじもんの鈍器で、まだ半分くらいまでしか読めていないですが、全く経営関連の知識がない私でもすらすら読めるような易しい言葉遣いで書かれており、各理論のエッセンスをしっかり理解することができました。
*6: ちょうどコロナで混乱していた頃で、ゆっくり自宅で考え込む時間が多かったです。
既存事業のCore value分析
現在、力を入れて取り組んでいることは、新規事業をおこすために、**まずは既存事業の価値がどこにあるのか?**ということを分析することです。
上記の新規事業企画スキームでも触れましたが、良いビジネスアイデアがあっても、いざそのソリューションを開発しようと思ったときに、個人または組織としてそのスキル・アビリティが必要です。
当然、そのスキルを新たに身につけることもあれば、元々あったスキルを活用することもあります。ただ、今の私の課題感としては、**現状の自分たちの強みが見えてない中で、効率的な新規事業開発はできないのではないか?という点にあり、そこに手をつけずして新規事業企画が組織に根付かないのではないか?**と考えています。(*7)
(これを言うとただの正論になってしまいますが)現在の自社の強み・弱みを分析した上で、強みを伸ばし、弱みを補うような施策をしていくべき。そのための新しい仕組み作りをしていくことに取り組んでいます。
以上が、「ビジネスとテクノロジーを繋ぐ役割」を目指して、この1年半取り組んできた内容の大枠です。この先は、この経験から実際にどのような役割がありそうなのか?または、難しいポイントはどこなのかということをお伝えしていきます。
*7: 受託会社にありがちな状況なのかもしれませんが、顧客への御用聞きに振り回されて、戦略的に自分たちがどうしていきたいのか?現在地点がどこで、どういった点を伸ばして行きたいのか?という戦略の不足を感じています。と、喚いていたら自分がそれをやる側の立場に変わっていきそう。。。
取り組んだ結果として得た知見
同ポジションに見えてきた可能性
「ビジネスとテクノロジーを繋ぐ役割」の価値を仮説として取り組んでいる途中ではあるものの、以下の2つの役割には実際に価値があるのではないかと感じています。(特にデータサイエンティストからの視点という点を補足させてください。)
1. ビジネスとテクノロジーの融合は必須だが、どちらも高いレベルで理解できている人材は希少
これだけ書くと当たり前のようですが、実際に取り組んでみるとかなりハードルが高いことがわかってきました。
ビジネスサイドからみると、アイディアレベルでは「ITでなにを実現できるか」を理解していればいいものの、実際にソリューション開発を進めるフェーズでは「どうやって作るのか」を理解していなければ適切な計画を立てることができません。
逆にテクノロジーサイドからみると、いくら良い技術をもっていても、その事業機会や収益モデルを検討していかないと新しいビジネスには成っていきません。
もちろんチームで経験を補うことができれば良いのですが、上述の通り、新規の企画段階では少人数で多くの役割を遂行していかなければいけません。その上で、スピード感をもって取り組むためには、お互いの共通言語・共通プロトコルをもって高い密度のコミュニケーションを行うことが必要です。そのためにはビジネス側もテクノロジーを知り、テクノロジー側もビジネスを知らなければなりません。さらに、自分の領域・チームメンバーの領域を高いレベルで理解することでよりスピーディにより価値のあるアイディアができてくるのではないかと考えています。
言葉で説明すると冗長になってしまうため、イメージで説明すると下記図のようになります。
- もしそれぞれのメンバーがお互いの領域に閉じていると、毎回コラボレーションするためにプロトコルを変換してコミュニケーションするコストがかかる
- 仮に、自分だけでも2つの領域を跨いでいると、変換コストをそこまでかけずにコミュニケーションができる
- さらに、このケースではビジネス領域の内容について、複数の異なる視点からの検討を進めることができ、より効果的な企画立案へ繋げることができる
- 図のケースでは、自分だけが他の領域へ進出しているが、もちろん他メンバーがテクノロジー側へ進出している場合はさらにこの効果を得ることができる
2. ビジネス戦略を立案する上で、事前分析は不可欠
現在の取り組んでいる内容の最後にふれましたが、ビジネス戦略を立てる際に、現在の状況分析を行うことは必須です。その際に、各ビジネスフローにおいてどのようなKPIがあり、そのデータをどのように取得して、取得したデータを可視化して、可視化したデータをどうやって意思決定に反映させるか、という検討が入ってきます。
期せずして、このプロセスを専門的に高度化・大規模化していくと、まさにデータサイエンティスト(やその周辺領域の職種)の方々が取り組んでいることであり、データサイエンティストから出発していた私の価値を発揮できそうな内容でした。
元々、「データ分析に関する新規事業を立ち上げる」ことを目標に転職した私からすると、この発見は大きく、「自社のビジネスプロセスの中に、どうやってデータに基づく意思決定を根付かせるか?」という課題は自分自身のために取り組むべきものだと思い取り組んでいる最中です。
逆に難しさを感じているポイント
1. データサイエンスをダイレクトにビジネスとする企画は難しい
この1年半ずっとデータサイエンス・データ分析に関する新規事業を立ち上げられないか?と考えてきましたが、現在のところ、そこを目的にしてしまうと難しいなと感じています。
そもそもAIやデータサイエンティストがこれだけ持て囃されていますが、実際にこれらのテクノロジーへ積極的な投資をしてでも現段階ではビジネスが成り立つ(収益がちゃんとでる)ビジネスモデルは下記に限られるのではないかと考えています。(*8)
- マーケティング・広告領域
- 既存業務の自動化・効率化
- AIエンジンの精度がサービスに直結するビジネス(機械翻訳など)
上記の内容に関わるビジネスをしている場合は良いのですが、そうではない場合においては、自社分析として活用していくほうが現実的かつ効果的なのではないでしょうか?(*9)
*8: 受託開発やコンサルもビジネスモデルの1つではありますが、発注元が分析結果をダイレクトに価値に変えるビジネスをしようと思うと上記に収束するのではと考えています。
*9: もちろん新たなビジネスモデルを発明することも必要で、それを同時に取り組んでいくことも求められています。ただこれはいつ成果がでるか分からないので、日々少しずつ温めておくイメージが強いです。
2. ビジネス面の上達とテクノロジーキャッチアップの両立
ここまでこの記事で書いていた内容(特に最新取り組みの既存事業分析から戦略立案まで)を取り組んでいると、ビジネススクールで習うような内容を毎日、現地体験していく濃い日々になっていきます。それはそれですごく貴重でありがたい体験なのですが、同時に**進化し続けるテクノロジーをどうキャッチアップしていくか?**という課題に直面します。
特に私自身の場合は、エンジニアをたったの3年しか経験しないまま違うキャリアを歩みだしてしまったため、そもそもテクノロジー部分のレベルアップも同時に必要でした。
開発・分析業務を日常的に行っていると、自然と技術力をアップさせる機会が訪れますが、ビジネス企画をしているなかではメイン業務にはならないため、その機会はぐっと減ります。
その中で現在は本アドベントカレンダーが属するところでもある、データラーニングギルドを活用することである程度の技術キャッチアップに成功しています。
現在の仕事をしながらでも、ギルドに参加してからの8ヶ月間で下記技術やツールの使い方を習得し、一部スキルを事業立ち上げにも活かせています。
- ギルド内プロジェクトでのGCP活用
- 業務ではAzureサービスを活用
- GitやDockerの基本
- 開発チーム立ち上げ時に活用
- SQLの習得
- Azure上でのログ解析ではKusto query languageへ応用
- APIシステムの知識習得
- ソリューション検討時の幅の広がりへ貢献
現在のギルド内では「データサイエンティストを目指す」ために学習環境として利用するメンバーが多い印象ですが、個人的には本記事で示してきたハイブリット人材になっていくために、このような活用をする方がもっと増えてくると良いなーと願っています!
おわりに
当初想定していたよりも、非常に長い記事になってしまいました。最後まで読んでいただいた方はありがとうございます。
ビジネスとテクノロジーを繋ぐポジションを目指していくことは今後のキャリア価値に繋がると信じているものもの、なかなかまとめてそれを伝える機会がなかったため、今回の場を利用してある程度まとめることができてスッキリしていますw
転職を決断したときに、インターネット上ではなかなか同じ考えのもと行動されている方を見つけられなかったなとも思っていました。もし同じような想いを持つ方への後押しとなれば大変嬉しいです。
また、データサイエンティストを目指しているけれども、現在定義されている職種は少しイメージと違うかもしれないという方へも、こういった道があるよという一例を示すことができていれば幸いです。
以上、ありがとうございました!