はじめに
日本のエンジニア業界において給与の高い就職先と言えば、真っ先に思い浮かぶのはGoogleやAppleをはじめとする、いわゆるGAFAMと呼ばれる外資系IT企業です。これら企業は革新的な技術開発と快適な職場環境、さらには日本企業と比べて格段に高い給与水準で知られています。多くの学生やエンジニアたちの中でもこれら企業への就職を目指して活動されている人もおられるでしょう。
一方で、これらビッグテックよりもさらに高い新卒の給与を払う、ぶっ飛んだ業界があることはご存知でしょうか。その業界とは、数学やプログラミングの知識を活かして金融市場で取引を行う、いわゆる「クオンツ」(Quantative Trading Firm、Quants)と呼ばれる世界です。
私は2025年8月より、欧州系のクオンツ企業に新卒のソフトウェアエンジニアとして就職することになりました。この記事では、あまり知られていないクオンツ企業について、特にエンジニアの立場から仕事の内容や私の就活体験を共有したいと思います。なお、この記事は就活を終えて間もない時期に書いているため、クオンツ業界の知見については浅い状態で書いています。間違った内容等ありましたらご教授いただけると幸いです。
この記事を書こうと思った理由
ネットで就活体験記について調べてみると、GAFAMなどのビッグテックへの就職情報は豊富にある一方で、クオンツ系企業についての日本語の情報は驚くほど少ないのが現状です。私の知る限り、主な情報源は2年前に書かれた@kstonerivさんの記事であり、この業界のQuant Trader/Researcherとしての就職について網羅的にまとめられています。併せてご覧ください。本記事では、私の経験したクオンツ企業の就活体験記と、エンジニアのキャリアとしてのクオンツ業界という選択肢を知っていただければ幸いです。
クオンツ業界を目指したきっかけ
私は英国の大学でコンピュータサイエンスを専攻している、現在学士3年です。ヨーロッパは学士号取得まで3年のところが多く、私も単位に問題なければ2025年の夏に卒業します。
入学当初は多くの学生と同様にGAFAMなどの一般的なSWEでのキャリアを考えていました。しかし、就職活動を進める中でビッグテックでの働き方に疑問を感じるようになりました。
ビッグテックでの仕事は、大規模な既存プロジェクトの一部の細かな機能の追加や保守が主な業務となります(もちろん所属チームにもよりますが)。そのため、自分の仕事の貢献度合いが見えにくく、やりがいを感じづらいと考えました。また、大企業ならではの問題ではありますが、大規模なプロジェクトほど意思決定や自分の意見の反映に時間がかかってしまう傾向にあります。さらには、他の大手企業に転職したとしても似たような仕事内容になることが予想され、エンジニアとしての成長機会や仕事に物足りなさを感じてくるような、そんな気がしました。
そんな中、大学のキャリア説明会や友人との会話からクオンツ企業の存在について知りました。正直はじめのうちは、「金融系は古い技術を使い回し、数字とにらめっこする仕事」という否定的な印象を持っていましたが、クオンツ企業のインターンに参加した友人との会話でその認識は大きく変わりました。彼が言うに、クオンツはまるでゲームのように金融取引のアルゴリズムを試行錯誤し、より高い収益が得られるように様々な工夫する業界とのこと。実際に彼はある企業が提供している金融シミュレーションでの取引成績を見せながら使用している数式やアルゴリズムなどについて熱心に語ってくれました。正直専門的な内容の大半は理解できませんでしたが、この会話をきっかけにクオンツ業界について本格的に調べ始めました。調べていく中で特に印象的だったのは、この業界は最新技術を活用した革新的な分野であり、世界情勢の変化に即応する躍動的な開発スピードが求められているところでした。この最たる例として、自分の反映したコードが即座に会社の収益として現れる、「即時的なフィードバック」が得られる点にあります。エンジニアが実装した新機能がプログラムの精度や実行速度を早めることができた場合、その効果は取引結果を通し収益として数字が即座に表れます。これは、ビッグテックなどの大規模なソフトウェア開発プロジェクトでは得られにくい「直接的な達成感」にも繋がる特徴だと感じています。
技術面に関して言うと、クオンツ企業ではC++、Java、Pythonなどを主要な開発言語として使用し、企業によってはOCamlやRustも採用しています。さらに、DockerやKubernetesによるコンテナ化、GPUを活用した並列計算、FPGAによるハードウェアアクセラレーション、ネットワークの最適化など、細部に至るまでエンジニアたちが徹底的にこだわりを持って開発を行います。また、ビッグテックとは違い、マネージャーなどのヒエラルキーも少ない分意思決定までが速く、エンジニア個人に技術革新の判断が委ねられているという特徴があります。チーム間でのコミュニケーションの多さや高品質なコードを追求する文化、新規プロジェクトに参加しやすい点においてもエンジニアとして成長しやすい職場だと感じました。加えて、給与体系に関しては後述しますが、ボーナスも青天井で、会社の収益を増やせば自分にボーナスとして返ってくる点も魅力的でした。
このような環境が揃っていることから、クオンツ企業での就職を志すことを決意しました。
クオンツ業界とは
クオンツ企業は数学とプログラムを駆使して株などの価格を予測・計算しながら取引を行います。従来の金融機関は人の判断で取引を行うのに対し、クオンツ企業はデータと数理モデルに基づいて取引を行うことで人間には処理できないスピードでの情報処理や感情に左右されない客観的な判断を用いて取引しています。
代表的な企業として:
- Jane Street
- Citadel
- DRW
- Two Sigma
- G-Research
- Optiver
- IMC Trading
などが挙げられます。
ビジネスモデル
一概にクオンツ企業といっても、会社によって得意としているアルゴリズム取引の種類や金融の商品の種類が違います。
収益の上げ方について、以下のような戦略があります:
マーケットメイキング (Market Making)
マーケットメイキングとは、売値と買値の両方の値段を同時に提示することでその差額から利益を出す戦略のことを指します。
例えば、ある株が取引所で$249.95
で売れる、$250
で買えるとしましょう。
この株に対してクオンツ企業が$249.97
で売れる、$249.98
で買えるように両側の注文を設定します。
すると、売り手はより高値で売却(249.95 → 249.97)、買い手がより安値で購入(250 → 249.98)ができるようになり、クオンツ企業は差額の\$0.01が利益として確保できます。この戦略を取る企業は、コロナ渦などの市場が滞っている時でも売値・買値を常に提示することで、買い手はより安く、売り手はより高く取引ができるようにし、市場の取引を促進することから「マーケットメーカー」とも呼ばれています。
この手法はHFT(高頻度取引、High Frequency Trading)と相性が良く、ミリ秒単位の取引を行うことで小さな価格変動もいち早く捉えて利益を出します。「早い者勝ち」である金融業界では、似た戦略を取る企業同士は常に戦っているため、各企業は他社より早く適正価格の計算と新規注文ができるよう、極限までプログラムが早くなるよう最適化をしています。
統計的裁定取引 (Statistical Arbitrage)
統計的裁定取引とは金融商品の価格間に存在する統計的な関係性を活用し、一時的な価格の歪みから利益を得る取引戦略です。
通常の裁定取引は同一商品の市場間価格差を利用します。例えば東京証券取引所で$100
、ニューヨーク証券取引所で$110
で取引されている同じ株式があれば、東京で買いニューヨークで売ることで確実な利益を得られます。これに対し統計的裁定取引は、過去データから類似する金融商品間の価格変動の相関を分析します。例えばトヨタとホンダの株価に強い相関が見られる場合、この関係から一時的に乖離しても、やがて元の相関関係に戻ると考えられます。そのため、平常時の関係から見て割高な銘柄を売り、割安な銘柄を買うといった動きを取ることで、価格が正常な関係に戻った時点で利益を確保できます。この戦略は機械学習や数理モデルなどを用いて時系列データを分析し、適切にリスク管理を行うことで実用されています。
トレンドフォロー (Trend Following)
トレンドフォロー戦略では市場の価格推移の傾向を捉え、その方向を活かした取引を行う手法です。
アルゴリズムを使用した価格の移動平均や、モメンタム指標などを用いた分析から、価格が上昇傾向なら購入、下降傾向なら売却のポジションを取ることで中長期的に利益を得ることを目指します。
これ以外にもデルタニュートラルといった戦略、ニュースの分析、リスクの分散など、様々な方法を組み合わせて収益を上げています。
各戦略を活かせる取引速度も違うため、取引の頻度によって高頻度、中頻度、低頻度というように分かれています。例えば、マーケットメイキングでは高頻度取引が用いられています。
また、FX、オプション、株式、仮想通貨などといった金融商品にもそれぞれ特徴があるため、企業によって取り扱う商品も異なります。例えば、Optiverはオプション取引を得意としていたり、Jane StreetはETFを得意としていたりする具合です。
仕事内容
主な職種はQuantative Researcher、Quantative Trader、Software Engineer、Hardware Engineer等です。
Quant ResearcherとTraderに関しては詳しくないので引用した記事を参照してみてください。
私はソフトウェアエンジニアとして就活したため、SWEの仕事内容について、一例を紹介します。
実際の仕事内容は会社によって違いますが、一例としては以下のようなものがあります。
-
取引システムの実装
- トレーダーが取引を行いときにスムーズに実行できるように実装
- 低遅延に特化し、より早く実行できるようにC++などのコードを最適化したりFPGAなどでハードウェアレベルまで最適化を行う (高頻度取引を行う企業の場合)
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マーケットのデータ処理
- 取引所から送られてくる膨大なデータを常に処理し、取引システムで使えるようにする
- データをデータベースに適切に保存し、将来的に数理モデルのシミュレーションで使用できるようにする
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Trader・Researcherの要求する機能の実装
- トレーダーは自身の取引やアルゴリズムを実行するため、ソフトウェアエンジニアがこの要求を適切に汲み取り、最速で実装
- リサーチャーが機械学習のモデルをテストしたいとなったときのシステムの構築や最適化
-
インフラ構築
- 会社のサーバーの保守やDocker、Kubernetesといったツールが適切に機能するように実装
- もし新機能が損失を生んでいる場合、すぐに止めるキルスイッチや、前バージョンにロールバックする機能の実装
-
リスク管理・モニタリング
- 自社のサーバーが想定通り、適切に動いているかのチェックや取引所での収益などのパフォーマンス等を常にチェックするプログラムの実装
金融業界は世界情勢や政治によって日々変わっていくため、エンジニアたちも常にトップスピードでバグフリーなコードを実装する必要があります。とは言うものの、勤務時間は意外とホワイトなところも多く、後述する通り給料水準も高いものとなっています。
給与
私はヨーロッパベースで就活を行ったため、ビッグテック・クオンツ系企業のヨーロッパオフィス、及び日本のメガベンチャーのエンジニアの新卒給与の比較を行います。
情報は2024年12月現在のもので、外国企業はlevels.fyi、日本企業はOpenSalaryを参照しています。
日系IT | |
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メルカリ | 700-800万円 |
楽天 | 450-660万円 |
CyberAgent | 500-520万円 |
LINEヤフー | 504万円~ |
GAFA | |
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2,100万円 | |
Meta | 2,000万円 |
Apple | 1,850万円 |
Amazon | 1,650万円 |
クオンツ | |
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Jane Street | 5,000万円 |
Citadel | 4,000万円 |
Optiver | 3,000万円 |
Two Sigma | 3,000万円 |
GAFAなどのビッグテックは日系ITより、物価を考慮しても高い給与水準ですが、クオンツ系はビッグテックをさらに上回る給与が設定されています。ここではヨーロッパ(主にロンドン、アムステルダム)の給与を挙げましたが、米国(ニューヨーク、シカゴ)だとこれの1.5倍から2倍もらえたりもします。
私自身一番驚きだったのは、インターン生に、二ヶ月程度の働きに対して500万~800万円の給料を出す会社もあるというところです。仕事は少し違いますが、最近は新卒のトレーダーに対してJane Streetの香港オフィスは\$500,000(7500万円)のオファーを出したみたいですね。
クオンツ系の給与体系は、主に基本給(Base Salary)、一時金(Sign-on bonus)、ボーナス、の3つに分かれることが多いです。ここに書かれている年収の注意点として、この額には初年度だけ支給されるSign-on bonusが含まれていることです。企業によってもちろん違いますが、肌感はだいたい年収の20%程度がこのsign-on bonusが占めています。二年目以降は会社の収益や自分のパフォーマンス等に応じたボーナスがメインで支給されるため、成果が出せなければその分年収は下がってしまいます。なので二年目は初年度の給料より低いというのはよく聞く話です。
クオンツ業界は要するに、本来はビッグテックに行くような優秀なエンジニアたちを引き込むために初任給は高く設定しているのです。
また、クオンツ系企業はフラットな構造なところが多いため、勤続年数が上がる、マネージメントをすると給料があがるというわけでもないのです。これがビッグテックとは違う点で、クオンツは自分の貢献度合いによってボーナスが増えます。会社に大きな収益をもたらした場合、年収が1億円を超える可能性がある、まさに夢のような世界です。
就活のコツ
ここからは私の経験をもとに、就活におけるコツをまとめてみます。この内容は、ヨーロッパの大学(学士・修士)から新卒エンジニアを目指す方に当てはまる内容だと思います。ちなみにここではクオンツ系に焦点を当てますが、他の業種でもSWE職の就活の大部分はほとんど同じであるため、他のビッグテックや銀行などのSWE職でも同じようなコツが十分に有効です。日本の学生でも2-3年程度きっちりと対策し、ヨーロッパの大学・大学院に進学すればSWE職に就職することはできると思います。
主な選考プロセス履歴書(CV)提出、コーディングテスト、技術面接、人事面接です。
募集が始まるのは入りたい年の一年ぐらい前からです(私の場合は2025年秋入社なので、2025年8月末ぐらいから)。採用担当は大抵の場合、応募者を提出順に見ていき、枠が埋まり次第採用を打ち切るので早めに出すことをおすすめします。インターンシップもほぼ同じスケジュール感、対策内容です。これらインターンでのパフォーマンスや人事評価次第ではreturn offerがもらえる可能性があるため、積極的に応募することをおすすめします。私の場合はクオンツのインターンも前年度は応募していたものの、正直対策内容がよく分かっていなかったので、ことごとく落とされました。
履歴書提出・スクリーニング
まず、選考においての一番の関門はここです。
最近はCS専攻以外にも、数学や物理、工学系の学生さえSWE職に応募するようことからSWE職を目指している人は急増しています。他エンジニア職より給与水準が高いので納得です。
一時期前までは、有名大学を良い成績で卒業さえしていればGAFAMなどでも雇用してもらえたようですが、最近は知名度の高い会社は志願者数も多い分、履歴書段階で9割ぐらいを落としてしまいます。そのため大学側からはどこかの会社には引っかかれるよう、50~100社程度の会社の募集に応募することをアドバイスされました。
私は30社程度(クオンツ以外も含む)応募し、1社から内定を頂いたタイミングで就活を終えたので就活自体は比較的早く終わりましたが、人によっては200社ぐらい出している人もいるようです。
また、企業によっては落ちたのか選考中なのかも知らせてくれないところもあります。志願者が多すぎて手に負えない状況なのかもしれないですが、「rejectしてくれたほうが次に進める」という精神のもとどんどん応募する他ないです。私もこの段階でクオンツ・クオンツ以外でも数多くの企業には落とされました。学部主席の友人でさえも相当数の企業では履歴書段階ですぐに落とされたようです。
この履歴書の段階を突破するには、とりあえず採用担当の目にとまるよう、他の学生よりも高いスキルや経験をつけることが重要になってきます。
見られているところは主に
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大学名・学部・成績
- そこそこ有名な欧州の大学の理系学部でそこそこな成績が取れていれば問題ない
- プロジェクト・インターン・ハッカソン経験
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技術的スキル
- 仕事内容にまつわるスキル、例えばC++の仕事であればC++にまつわるスキル・経験
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キーワード
- チーム開発やコミュニケーション能力、リーダーシップ経験、問題解決能力などのワードや、クオンツにまつわる単語
最近では応募者がChatGPTなどの生成AIを使ったCV(履歴書)やCover Letterなどの作成を行っているのと同じように、採用側でもAIツールを使って応募者を選別していると聞きます。
採用担当が一人ひとりの履歴書に目を通す場合でも、一人あたりにかける時間はごくわずかなため、少しでも履歴書通過の可能性を上げるためにはその会社が必要としているスキルを明示的に書く必要があります。もちろん履歴書に嘘は駄目ですが、いかに自分の経験の書き方次第採用者の目に止まりやすくなったり、AIに高く評価してもらえる可能性が高くなるので、自分をより良く見せられるよう時間をかけるべきだと思います。
事前準備として会社のリクルーターの方と話したり、LinkedInなどを通してその会社のエンジニアと話すことで、どのようなスキルを求めているかを聞くことも大事です。
会社によっては技術的スキル以上に、チーム経験やコミュニケーション能力などのソフトスキルを重要視するところも多いため、戦略的な履歴書の作成が必要になってきます。
また、最近は大学の成績はあまり重視されていない傾向にあります。成績の評価基準が大学や教授によってバラバラであったり、米国では成績のインフレが起きていたり、大学で学ぶ内容が実際の業務との関係がなかったりするため、成績で測れる要素が限られているからです。代わりに企業が重視するのは、学外での活動や経験、ソフトスキル、企業理念との合致度とかになるわけです。企業によっては募集要項に金融系の知識は必要ないと記載しているところも多いですが、金融に対する興味を示すことはもちろんプラスになります。いかに他の応募者から自分を差別化できるかが大事になってくるので、戦略的に様々なことに取り組むべきです。
私の場合はウェブ系の開発のインターンの他に、個人プロジェクトの開発として仮想通貨のアルゴリズム取引のプラットフォーム作成を同じ大学に通うシェアハウスの同居人と行いました。個人的にはこのプロジェクトのおかげで何社かは面接までたどり着けたのだと思っていますし、面接の段階ではこのプロジェクトについて熱く言及することで金融に対する「純粋な興味」というのを全面に押し出して好印象を与えることができたのだと思います。
コーディングテスト
会社によっては履歴書を提出すると自動でコーディングテストを送ってきたり、採用担当が履歴書を見てからテストを送ってきたり、そもそもテストがなかったりなどプロセスはまちまちです。テストの難易度はものすごく難しいと思われるかもしれませんが、意外とそんなことはありません。AtCoderで言う所の緑程度の問題が解ければアルゴリズム能力は完璧だと思います。ただ問題の雰囲気は違うのでLeetCodeとかのサイトで練習するのがおすすめで、対策内容のロードマップとしては典型問題150問をわかりやすく紹介・解説をしてくれるNeetCodeがおすすめです。ここの対策はコーディング面接の対策にもなるため、私はNeetCodeを2周ぐらいしました。ちなみに最近のコーディングテストの傾向としては生成AI対策として問題文が異様に長かったり、条件処理が面倒だったりしますが、AtCoderのエッジケースの処理に慣れていれば問題ないです。
また、会社によってはHireVueなどを使ったビデオ面接があったりもします。プログラミングの問題を解いた後、どういうふうにアプローチしたのかをパソコンのカメラの前で一人で答えるという形式です。一人で喋っているのは不思議な感覚にはなりますが、対策内容は普通の面接と同じです。このビデオ面接ではプログラミング関係なく一般的な人事面接みたいな質問を聞くところもあります。
面接
履歴書が採用担当の目に留まり、コーディングテストも良い点数が取れている場合、やっとこの段階まで進めます。
ここのフォーマットも会社によってまちまちです。大きい会社では面接のプロセスがシステム化され、ウェブサイト上でもプロセスが公開されているところもありますが、小さい会社はあまり情報がなかったりします。最終面接はオフィスに呼ばれたりすることはあるものの、基本的にはオンラインで面接をします。私の感覚では、どの会社でも合計3回ぐらいは面接すると思います。
面接にも人事面接(HR Interview)と技術面接(Technical Interview)の種類があり、面接形式によって見られるスキルが違います。
人事面接
人事面接では採用担当とその会社やクオンツに興味を持ったきっかけについて話したり、過去のインターン・プロジェクトについて話します。特に、競合会社がたくさんいる中で「なぜ御社なのか」という質問には深く答えることができるように対策しておくべきです。一般的な面接と同じですね。
また、クオンツ企業は会社が一丸となって競合を打倒すべく開発を行う訳ですから、チームでの開発経験やカルチャーフィット、エンジニアとしての目標など、人間性の部分も重点的に見られます。そのため、事前準備の段階でその会社がどんな人柄を求めているのかを入念に調べ、面接では自分にそのような素質があることをアピールすることが大切です。
技術面接
技術面接ではその会社のエンジニアと面接し、面接官の前でプログラミングの問題を解いたりソフトウェア開発全般に関する知識などについて話します。面接官の前でプログラミングの問題を解く面接ではHackerRankやCodeSignalなどのリンクが共有され、そのプラットフォーム上でプログラムを書くことになります。LeetCodeのような問題が出され、面接官にその問題をどうアプローチ・実装するか、O(n)やO(nlogn)といった計算量の分析を行いながらプログラムを実装します。口頭の技術面接であった場合は過去のプロジェクトで使った技術について話したり、JavaのGCやPythonのGIL、オブジェクト指向などのプログラミング言語の詳細な部分やTCP/UDPなどのプロトコルといったネットワーク技術まで幅広く質問される場合があります。
大体の場合はどんな面接なのかは事前に知らせてくれることが多いので、面接直前はそれ用の対策を行っていました。過去のインターンやプロジェクト経験に関しては、生成AIに自分のCVと面接内容を投げかけ、「どんな質問が聞かれそうか」と、その解答例などを生成してもらうことで面接対策をしていました。コーディング面接の対策も同じように、プログラミングの問題を解くときのアプローチや思考プロセスの開示方法など、何でも生成AIにアドバイスをもらっていました。私は使っていないですが、最近はChatGPTのVoice Modeを使えば模擬面接ができるそうです。
また、面接の最後には逆質問をする時間があります。面接は企業と応募者の双方のマッチが重要なため、現役の社員に社内の雰囲気や職場環境などについて聞くことで実際にそこで働きたいかを考えることができます。日本の面接と同じく、自分がその会社に対する興味を示す最後のアピールタイムでもあります。
私がよく使っていた質問は:
- 同業他社と比べて、御社の魅力はどこにあると思いますか?
- (世界中にオフィスがある企業の場合)どのように各地のオフィスとコミュニケーションをとっていますか?
- コードレビューやドキュメンテーションはどのように行っていますか?
- Rustなどの新しい技術に対してどのようなアプローチをとっていますか?
これも生成AIなどで質問の候補を出してもらうのもいいかもしれません。
その他コツ
インターン・Spring Week・Insight Day
その他コツとしては、インターンシップに行く・応募するといったものです。
夏季インターンシップは新卒採用よりも多少ハードルは低いものの、新卒採用と対策内容・選考プロセスはほとんど同じです。インターンシップに行くメリットは、その会社でのReturn Offer(自年度からの正式採用)がもらえたり、別の会社に応募する際もCVに書くことで次年度のインターン・新卒採用を有利に進めることができます。また、大学1年目でインターンが取れれば2年目も取りやすくなり、新卒採用も貰いやすくなるという「雪だるま式」のような感じで就職に活きてくるので積極的に参加しましょう。
会社によってはSpring Weekと呼ばれる、春休みの一週間程度を使った短期インターンが開催されたり、Insight Dayなどの一日の企業説明会があったりします。会社独自で主催しているハッカソンやプログラミングのイベントなどもあり、このパフォーマンス次第では最終面接に直結したりそのまま採用がもらえたりもするため、こういったイベントも視野に入れておくべきでしょう。この全てに参加する必要性はもちろんないですが、履歴書に書く内容が少ない段階や企業へのアピールはこういう部分で積極的に行動するのが大切です。
Referral
また、履歴書のスクリーニングを突破する可能性を少しでも上げるためにはその会社で働く人からReferral(推薦)を貰うこともおすすめします。採用担当は数多くの履歴書を見ているわけですから、このReferralというのがあるだけでも少しはきちんと経歴を見てくれます。このReferralを貰う過程で会社のこととかも聞けますし、推薦した本人も推薦者が入社すればある程度のボーナスがもらえる会社が多いので双方メリットがあるわけです。ちなみに私も2025年の8月から就職しますので、興味のある人はX(@Daiki_0613_)で連絡いただければと思います。
このような感じで、早いうちから様々な戦略を取って、就活を少しでも有利に進めるよう行動することが内定を勝ち取る秘訣ということですね。
おわりに
クオンツ企業のSWE就職はエンジニアとして挑戦と高い給与を求める人にとっては凄く魅力的なキャリアだと考えています。
最先端の技術に触れ、即座にフィードバックを得られる環境で働けることは、私自身、エンジニアとしての大きな成長機会になると考えています。
ただ、就職までの選考プロセスは非常に厳しく、準備もとても大変です。特に、日本ではこの業界についての情報は少ないのでさらにエントリーのハードルが高くなっていると思います。そんな人にこの記事が少しでも参考になれば幸いです。また、このぶっ飛んだ業界に少しでも興味を持っていただけたならぜひ挑戦していただきたいです。
最後に、この記事の内容に関してもし質問や不正確な点等ありましたら、ぜひXにてご指摘いただければと思います。