「チラシ?そんなのデザイナーに頼めばカンタンにできるんじゃないの?」と思っていた私(理系・デザインスキルゼロ)が、デザイナーとバトルを繰り広げた挙句にあきらめて自分でデザインした話です。意外と数学的というか、理詰めでデザインすることができたので得られたノウハウをシェアしたいと思いこの記事を書きました。実際に完成した(入稿用データの)PDFファイルはこちらです。
#サマリー
・なぜチラシが必要なのか?
・デザイナーといっても得意・不得意がある
・レイアウトのデザインステップ
・チラシのパラメータシート
・まとめ
#なぜチラシが必要なのか?
国土交通省が5年に1度行っている「全国道路・街路交通情勢調査」で、これまで道路際でカウンターボタンをカチカチやっていた調査員による「人手による調査」が2021年秋から廃止されちゃいました。AIによる映像解析に置き換えるみたいです。そこで「人手による交通量調査をしていた会社さんは困っているかも?これはウチのシステム売り込む絶好のチャンスだぜ!」と「とらタヌ」的発送で営業をかけようとしました。
しかしIT化が進んでいる会社の方が少ないようだったので、「昔ながらのチラシを作ってダイレクトメール送るしかないのでは?」とチラシの制作を急遽行うことにしました。そしたらすごく苦労しました。
#デザイナーといっても得意・不得意がある
Webページのデザインやロゴデザインなどで、日ごろから懇意にしているデザイナーの方が複数いたので、まず「ウチで開発している新しいサービスのダイレクトメールに使うA4表裏のチラシ作ってみて!要件定義書と基本設計書はこれね!」と開発資料を渡して、サンプルの出来上がりを楽しみにしていました。
するととんでもないものが出来上がってきて、頭を抱えました。
ここで最初に学んだのは、「デザイナーの方は要件定義書と基本設計書から開発中のシステムの概要を読み解くに苦労してらっしゃる」ということでした。
ここのポイントは、「開発中のシステムのウリが分からない」ではなく「システムそのものがよく分からない」ということですね。このことに私は愕然とするとともに、「そういえば業務委託の基本契約書や個別契約書を読めない技術者の人もいたなあ」と思い、反省しました。
次にPoCを大まかに作りデザイナーの方にも協力してもらった画面も動くようになったので、「そろそろチラシお願いできますか?」と頼んでみたら、やっぱりダメでした。デザイナーの方からは「原稿を書いてほしい」「使用する図版を全部用意してほしい」と言われたので頑張って用意しましたが、最終的に「10ページくらいの冊子になってしまう。表裏一枚のチラシに収めるのは無理!」と言われて抗議したものの、「じゃあレイアウトも考えてください」と言われて「アレ?じゃあ自分で全部やった方が早いんじゃない?」と思い、自分で作ることにしました。出来上がったのが、冒頭のチラシです。
今回学習したのは、「絵が描けるデザイナーと印刷物のレイアウトを考えるデザイナーは別物」ということです。よく考えたら、ファッションデザイナーにWebページのUIデザインは頼まないですよね・・・。当たり前のことでした。
#数学的アプローチによるレイアウトデザイン・ワークフロー
「デザイン」というと感性、あるいは反復練習による習熟スキルと思いがちですが、私はどちらも持ち合わせていないので、数学的なアプローチでデザインしました。「数学的アプローチ」というのはちょっと大げさですが、「XXXの要求を言語化する際に、誰がやっても同じになるアプローチ」と考えていただければ幸いです。ここではステップごとに「どのようなデザインを行ったか?」について説明します。
1)基本レイアウトの決定
最初に考えたのは、A4縦のチラシをどうレイアウトするか?でした。
そこで深く考えるのはやめて、「AppleのWebページを参考に、でっかい画像を上に置いて、下でテキストによる説明をしよう。テキストは3段組にしよう」と方針を立て、まずは(1)のレイアウトを考えました。3段組にした理由は掲載したい情報量が多く、Webページのように「下にスクロースすれば無限に書ける」という訳にはいかない「紙ならではの制約」があったからです。要するに段組み増やすと、改行ロスが減って情報密度を上げることができるのですね。
4段組と3段組で悩みましたが、「発注権限持つ人は年配(=あまり細かすぎると敬遠される)かも?」と思い、3段組を採用しました。
2)見出しとフッターを決める
チラシをデザインするにあたり、参考にしたのは他社のチラシです。しかし昨今は昔あった「Macワールド」とか「PCワールド」みたいな展示会がそもそも少なく、参考となるチラシを発掘するのに苦労しました・・・。で、他社チラシを見てみると「見出し」と「フッター」があるのに気づき、これを付け加えました。上の図で(2)としているのがそれです。
3)サマリーを入れてみた
個人的には密度が高いチラシにしたかったのですが、「情報量多すぎで何書いてあるのか分からない」というのは避けたかったので、サマリーというか「まとめ」を入れようと思いました。論文にも当然ありますよね、サマリー。
ところが3段組にそのまま入れちゃうと目立たなくなるので、これまた他社のチラシや雑誌のレイアウトを参考に「2段ぶち抜きでサマリーを入れちゃおう。しかも目立つような背景色&デザインにして」という感じで(3)の部分を入れました。
4)5)無料デモサイトを売り込んでみた
今回のチラシ配布では、システムの周知とともに「無料デモサイトがあるよ!使ってね!」と本筋とは別の売り込みネタがありました。そこでこれを目立たせるためにこれまた2段ぶち抜きで「囲み記事」を作りました。(4)の部分がそうですね。ただし背景の色を変えたりしましたが、どうも目立ちません。そこで囲み記事用の見出しを立ててみました(5)が該当します。
だらけがちなテキストの途中をリフレッシュさせるためにもこの途中見出しは効いていると思います。
6)途中に図版を入れてみた
画面のスクリーンショットは数十枚ありますが、それを全部チラシに掲載することはできません。図ばかりになるとテキストが減って説明力が下がります。そこでよく考えて、「小さくなっても目立ちそうな図版」を2点だけ掲載することにしました(表面では)。それが(6)に相当する部分です。本文用(システムの紹介用)に1点、無料デモ用に1点ですね。
7)表を入れてみた
以上でかなり情報密度が上がった気がしましたが、どうも(個人的に)物足りません。理由を考えてハタと気づきました。「表がひとつもない!」
表がない論文(査読通ってるやつ)ってみたことありますか?私はありません。(見かけ上の)情報密度をより高めるためには、表が必要と考えてど真ん中にレイアウトしました。それが(7)の部分です。
8)QRコードを入れてみた
チラシと実際の問い合わせまでには想像以上の距離があります。「チラシ見て面白そうだったけど、電話かけるの面倒で忘れちゃった」というのが普通の反応だと考えています。そこでそのギャップを埋めるべく、QRコードを記載することにしました。
QRコードの目的は3つあり、具体的には以下の「面倒」を解消することです。
(1)無料デモサイトを見てみたいが、URL打ち込むのが面倒
(2)無料デモサイトの利用申し込みしたいが、メールアドレス打ち込むのが面倒
(3)聞いたことない会社だけど、他に何やってるか知りたいけどホームページ探すのが面倒
QRコードのレイアウトは「スマホカメラで撮影する際に、同じ画角で2個が写らないようにしよう」と配慮してこのレイアウトにしました。ただQRコードの要件を考えると、もっと良いレイアウトがあるような気がします・・・。
9)フッターのデザインで苦労した
チラシの最後を飾るのはフッターです。フッターがちゃんとしていると、ドキュメントとしても整っているように見えます。
画像は上が実際のフッター、下がデザイン検討したときの構成要素です。
具体的には以下の3点です。
(1)文字サイズを4種類としてメリハリをつけた。
(2)断ち切りを考えて一番下に目立つオレンジの帯を入れた
(3)会社のURLのQRコードは目立たせるようにわざとオレンジの帯を分断して入れた
#チラシのパラメータシート
チラシには本来、パラメータシートなど存在しませんが、私が意図して設定したポイントを書いておきます。
・チラシデザインはPowerPointで行い、印刷会社にはPPTファイルで入稿した。
・印刷会社のテンプレートを利用した(印刷範囲・サイズなどの規定がある)。
・日本語フォントは「メイリオ」で統一した。英文見出しはHimalayaを使った。
・フォントサイズは見出し=20, 本文=11, 囲み記事本文=10, 注釈=8とした。
・図版以外でデザインに使用する色は白黒のぞいて6色まで。
・配色は考えるのが面倒なので、画面デザイン同様bootstrapのカラーテーマに沿うことにした。
・印刷時のRGBとCMYKの差異は面倒なので考えないようにした。
今回、チラシを自分でデザインして入稿用のデータを作って・・・と思っていましたが、Adobeのイラストレータとか「トンボ付けられる印刷物用のプロ御用達ソフト」を持っていなかったのでビクビクしておりましたが、意外とMS Office系でも入稿可能なのでビックリしました。いい時代になったなー。
ただ印刷会社によってテンプレートが異なるのを知らず、最終的に印刷を依頼した会社が提供するテンプレートに合わせるため微調整したのはいい思い出です(遠い目)。
あと校正用のデータ(JPEG)が上がってきてチェックすると、意図しない改行が入っていたりでビックリしました。特に一番目立つ「クラウド交通量調査サービス Traffic Blade Vc」で「Vc」の部分が改行されており、気づかずに印刷に出すと大事になったと思います。デジタルデータでも確認は必要! ということですね。
#まとめ
・すべてのデザイナーがチラシのレイアウトデザインも得意とは考えない方がいい。
・技術文書やスクリーンショットは、デザイナーに渡せば渡すだけ迷走の度合いが深まる。
・お手本から読み取る力があれば、チラシデザイン未経験でもそこそこのものができる。
・レイアウトデザインはあまり頭を使う必要がなく、スケルトン作って流し込むだけ。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。