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Gaussian での NMR 計算

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概要

計算化学が身近になった現在では、実験化学者も簡単なスペクトル計算を活用して研究を進めている。
本記事では、Gaussian での NMR 計算の実行方法と注意点、GaussView での reference の設定方法、最新の NMR 計算研究についてまとめた。

Gaussian での NMR 計算の実行方法

input ファイル内に NMR と書くだけ。
より正確に計算したい場合は、さらにキーワードを追加する必要がある。

%nprocshared=8
%mem=4GB
%nosave
#p B3LYP/6-31+G(d,p) nmr

注意点

Gaussia での NMR 計算の結果をそのまま使用してはいけない。
実験値と計算値を比較する際は、適切な計算レベルで計算した上で scaling factor をかける必要がある。scaling factor なしでは、実験値とは一致しない。

scaling factor については、UC Davis の Dean Tantillo 教授が作成したデータベース CHESHIRE (CHEmical SHIft REpository) を参照すること。どの計算レベルの時に、どの程度誤差が生じるのかについてもまとめられている。

各化合物の NMR 計算のベンチマークは定期的に JCTC などに報告されている。
例えば、以下に示す論文は $^{19}$F-NMR の DFT 計算のベンチマークである。

"Evaluating electronic structure methods for accurate calculation of 19F chemical shifts in fluorinated amino acids"
Jayangika N. Dahanayake, Chandana Kasireddy, Jonathan M. Ellis, Derek Hildebrandt, Olivia A. Hull, Joseph P. Karnes, Dylan Morlan and Katie R. Mitchell-Koch J. Comput. Chem., 2017, 38, 2605-2617. DOI: 10.1002/jcc.24919

GaussView での reference の設定方法

NMR 計算の結果の log ファイルを Gauss View で開くと、下図のように NMR スペクトルを見ることができる。また、適切な reference を指定することで基準物質に対する化学シフトの数値を見ることができる。

Gauss_View_NMR_window.png

一般的な TMS, H$_2$O, NH$_3$, B$_2$H$_6$ などはデフォルトで入っているが、それ以外の基準物質は登録されていないため、自分で追加する必要がある。

nmr.data フォルダを編集

gv > data > nmr.data をコードエディタなどで開く。

gauss_view_nmr_2.png

デフォルト設定では、以下のように reference 情報が書いてある。

# Sym Shielding Description
  C   199.9853  "TMS HF/6-31G(d) GIAO"
  C   182.4656  "TMS B3LYP/6-311+G(2d,p) GIAO"
  C   199.1     "CH4 HF/6-31G(d) GIAO"
  H    32.5976  "TMS HF/6-31G(d)  GIAO"
  H    31.8821  "TMS B3LYP/6-311+G(2d,p) GIAO"
  Si  449.7802  "TMS HF/6-31G(d)  GIAO"
  Si  327.3890  "TMS B3LYP/6-311+G(2d,p) GIAO"
  N   260.8     "NH3 HF/6-31G(d) GIAO"
  N   258.4     "NH3 B3LYP/6-311+G(2d,p) GIAO"
  O   323.1     "H2O HF/6-31G(d) GIAO"
  O   320.0     "H2O B3LYP/6-311+G(2d,p) GIAO"
  B   106.7     "B2H6 HF/6-31G(d) GIAO"
  B    83.6     "B2H6 B3LYP/6-311+G(2d,p) GIAO"

nmr.data ファイルに追記するだけで基準物質の追加は完了。
GaussView に反映させるには、GaussView の再起動が必要となる。

以下の例では、

  H    32.3685  "TMS wB97XD/6-31+G(d,p) GIAO"

と最後の行の下に書き加えた。

nmr.data 編集後に Gauss View を再起動して、NMR 計算した log ファイルを開くと、以下のように wB97XD で計算した TMS を reference として選択できるようになる。

gauss_view_nmr_added_4.png

NMR 計算による天然物の構造訂正

過去に単離された天然物の立体化学や骨格構造自体を NMR 計算によって訂正するという研究報告例を示す。

Nobilisitine の構造訂正

J. Nat. Prod. 2011, 74, 1339–1343.
Michael W. Lodewyk and Dean J. Tantillo
DOI: 10.1021/np2000446

⑴ 実際のNMRの測定結果のある類縁体に対し、複数の計算レベルで NMR 計算を行い、もっとも誤差の小さい計算レベルを決定する。上記の論文では、最適な計算レベルであっても平均 0.3 ppmほど計算値と実験値に誤差が生じている。しかし、計算化学で得たケミカルシフトは、各シフト値の順番は入れ替わらないため、全体的に少しシフトしているだけである。
⑵ 次に、類縁体での計算結果をもとに、新規化合物の構造訂正を行う。コンフォメーションによってもシフト値が変わってしまうため、考えられ得るすべてのコンフォマーを計算する。

アドバイス

自分の扱っている化合物の NMR スペクトルを計算する場合は、すでに構造決定されている類縁化合物を用いて最適計算レベルを決定する必要がある。
配座探索を行い、その全てにおいて NMR 計算を行う必要がある。

最新の NMR 計算

近年では、単純な DFT 計算にとどまらず、動的効果を考慮した $ab$ $initio$ 分子動力学(MD)計算を用いた NMR 化学シフトの予測が増えている。分子の構造揺らぎや熱運動といった動的要因を取り入れることで、より精度の高い予測が可能となる。実際、$ab$ $initio$ MD に基づいて得られた NMR 化学シフト値は、スケーリングファクターを適用した静的な DFT 計算の結果とよく一致することが報告されている。これは、従来スケーリングファクターとして経験的に補正していた動的効果を、ハイレベルな動的計算によって初めて明示的に取り込めたことを意味している。

参考:Kwan, E. E.; Liu, R. Y. Enhancing NMR Prediction for Organic Compounds Using Molecular Dynamics. J. Chem. Theory Comput. 2015, 11 (11), 5083–5089. DOI: 10.1021/acs.jctc.5b00856

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