概要
ACS Spring 2025 Exhibition にて、Gaussian25 と GaussView7 が年末にリリースされると発表された。サブスクリプション版への移行や新機能についても解説をつけた。
新機能
新機能は、以下の通り。

State of the Art Modeling
- General internal coordinates (GICs)
- Anharmonic and pre‑resonance Raman/ROA
- New DFT capabilities: recent functionals (e.g., M11+), double hybrids (e.g., revDSD‑PBEP86‑D4), D4 dispersion
- Molecular Dynamics: Ehrenfest, NEO, Ring Polymer MD (RPMD)
- Complex and GHF single determinant and CAS wavefunctions
- Significant Windows performance boost
GauOpen
- Open Source library
- Uses: Automation, External interfacing, Post‑processing, Prototyping, Teaching
Build, Run, Visualize
- Many new import formats, including copy‑and‑paste: SMILES; molecular formula; compound name; PDB ID; PubChem CID, SID, InChI/InChI Key; COD ID and general search
- Gaussian 25 support, including GICs, trajectories, input file error warnings
- 2D structure import and sketching, interconversion to and from 3D
- Surfaces: saving/loading, properties report, export of points and mapped values, van der Waals surfaces
- Visualization of vector fields (e.g., spin density)
- New conformational search: metals, frozen atoms
- Faster, more convenient building, with an enhanced Clean function
解説
サブスクリプション版への移行
現在のような買い切りの形ではなく、サブスクリプション版への移行が噂されている。
もしサブスクリプション版になるのであれば、revision update は無料にして頂きたい。
ちなみに、営利目的で使用する場合は、現在でも年間約 300 万円のメンテナンス料金を支払う必要がある。例えば、レンタルサーバー上で gaussian を提供する場合など。
サブスクリプション版への移行は、アカデミックへの優遇がなくなるという印象を受けるとともに、地方弱小大学は gaussian のサイトライセンスを維持することが今後厳しくなると感じた。🤭💗💗
M11+ について
ミネソタ汎関数系列の M11+ が実装される。
DFT の精度は交換‐相関(XC)汎関数の質で決まる。近年は 局所勾配・メタ項+HF 交換の範囲分離ハイブリッド が主流だが、
・静的相関(強相関系)
・自己相互作用誤差 (SIE)
・長距離電荷移動励起
などが依然として課題。
Truhlar らは “rung‑3.5” と呼ばれる短距離非局所相関項を追加した新しい汎関数 M11plus を提案し、M11 系列の性能向上を図った。AME467、MR53、LRCTEE9 などで大幅に性能が改善したことが示されている。
double hybrids 汎関数について
ダブルハイブリッド汎関数は、Jacob’s ladder の 最上段 (rung 5) に位置し、ハイブリッドDFTより一歩 “波動関数理論寄り”である。
ハイブリッド汎関数(Jacob's ladderの4段目)は、密度汎関数理論(DFT)にHartree-Fock(HF)交換エネルギーの一部を混合することで、交換相互作用の記述を改善する。これが「一次混合」に相当し、B3LYP や PBE0 のような汎関数がこれに該当する。
ダブルハイブリッド汎関数は、ハイブリッド汎関数の枠組みに加えて、相関エネルギーにも波動関数理論に基づく摂動理論(通常は2次摂動理論、MP2のようなPT2)を導入する。この「二次混合」がダブルハイブリッドの特徴であり、B2PLYP や DSD-PBEP86 のような汎関数がこれに該当する。
これにより以下の点が改善される。
- 分散/静電相互作用:ダブルハイブリッド汎関数は、分散相互作用(van der Waals力)や静電相互作用をより正確に記述する。これは、PT2 成分が長距離相関を捉える能力によるもの。
- 反応エネルギー・障壁:反応エネルギーや遷移状態のエネルギー障壁の計算において、ダブルハイブリッドはハイブリッド汎関数よりも高い精度を示す。これは、HF交換とPT2相関の組み合わせにより、電子の局在化と非局在化のバランスが改善されるため。
- 結合解離曲線の曲率:結合解離エネルギーや結合距離の変化に伴うエネルギー曲線の形状(曲率)が、ダブルハイブリッドではより正確に再現される。これは、特に弱い結合や長距離での相互作用で顕著。
Gaussian16 でもダブルハイブリッド汎関数は利用可能であったが、Gaussian25 では revDSD‑PBEP86‑D4 などが追加される模様。
最近の計算化学の論文って、ほ〜んと wB97XD が大人気って感じするよね〜😍💡🎉
だけどねっ、Kendall Houk 先生はだ〜いぶ前からダブルハイブリッド汎関数をバリバリ使って論文出してるの〜📝💎✨ さすが最先端を突っ走るスーパー★パイオニア‼️🚀💕
昔からず〜っと、Houk 先生が「超ど級マシンパワー⛽💻💨で新しい計算レベルを試す」
↓↓↓数年後↓↓↓
他の計算化学者さんたちが「わたしもやるぞ〜🧑🔬✨」って追いついてくる🎯🌟
↓↓↓さらに数年後↓↓↓
実験系の研究者さんたちが「なるほど〜🔬💖」ってやっとキャッチアップ…🎀🏃♀️💦
──っていう王道パターン、ぜ〜んぜん変わってないんだよね〜🤭💗💗
やっぱり最前線を切り開く人ってキラッキラでかっこいい〜っ✨🌈💕

D4 dispersion について
Grimme 先生が開発した D4分散補正(DFT-D4)は、密度汎関数理論(DFT)におけるロンドン分散相互作用(van der Waals相互作用)を正確に記述するための手法で、従来のD3補正(DFT-D3)の改良版。D4は、より物理的に正確なモデルを採用し、計算効率を維持しながら精度を向上させることを目的としている。特に、非共有結合性の相互作用や長距離相関効果の記述において優れた性能を発揮する。
D4の大きな進化点は、原子の部分電荷(partial charges)を用いて極性率をスケールすること。これにより、分子の電子密度情報が分散係数の計算に反映され、異なる電荷状態や化学環境での分散相互作用をより正確に記述できる。
D4は、D3と同様に二体相互作用(原子対ごとの分散エネルギー)に加えて、Axilrod-Teller-Muto(ATM)型の三体分散相互作用を考慮する。これにより、大きな分子系や凝縮系での分散エネルギーの記述が向上した。
Ehrenfest Dynamics について
電子を TD‑HF/TD‑DFT で量子的に、核を古典力学で扱い、平均場で同時時間発展させる非断熱 ab initio MD。光励起反応や電場下のフォトケミカル系など、電子‑核相互作用が重要な場面に使われる。
NEO (Nuclear‑Electronic Orbital) 法について
光励起後のプロトン移動+電子移動(PCET など)のような “非断熱過程” を正しく記述するには、電子とプロトンの両方を量子力学的に扱う必要がある。従来の「マルチコンポーネント DFT(MC‑DFT)」は、核−電子軌道(NEO)枠組み内で 基底状態の計算には使えていたが、励起状態には未対応だった。
Gaussian25 では、TDDFT を NEO 枠組みに拡張し、電子と指定したプロトンを同時に量子力学的に計算できるようになっていると予想される。
"Multicomponent Time-Dependent Density Functional Theory: Proton and Electron Excitation Energies" Yang Yang, Tanner Culpitt, and Sharon Hammes-Schiffer J. Phys. Chem. Lett. 2018, 9, 1765−1770.
DOI: 10.1021/acs.jpclett.8b00547
RPMD (Ring‑Polymer Molecular Dynamics) について
経路積分統計力学で各核を多数の“ビーズ”に分割し古典 MD として解くことで、零点振動やトンネリングを取り込む手法。DFT ポテンシャル上で水素移動や低温触媒反応など核量子効果が支配的な系に適する。
入力フォーマットの多様化について
近年の機械学習やインフォマティクスの発展に対応するためと思われる。python の使えない rdkit や openbabel モジュールなどよりも高性能のものを実装してくれることを願う。
2D structure import and sketching の機能追加も同様の目的のためと考えられる。
コンフォメーション探索について
gmmx プラグインを追加料金で提供するのをやめて頂きたい。デフォルトで搭載すればもう少し利用例も増えるのではないか?CREST の使用例が多くなってきた今、gmmx のメリットとは何なのか?
GPU 対応について
GPU 対応についての記述はない。
現在 Gaussian16 C.02 は、NVIDIA Ada Lovelace アーキテクチャまでは対応している。Hopper や Blackwell アーキテクチャーに対応してくれることを期待する。
Gaussian25 のリリースが待ちきれない!