概要
非共有結合相互作用 (Non-Covalent Interaction) の視覚化を行うためのソフトウェア NCIPLOT のインストール方法。2011 年に Julia Contreras-Garcia らにより発表された。
背景
NCIPLOT は、電子密度(ρ)とその微分に基づく可視化ツール。換算密度勾配(RDG または s)から非共有結合相互作用を識別することができる。分子間では密度勾配がこれらの点で消滅するため ρ に重要な変化が生じ、その結果 RDG にも変化が生じる。RDG を ρ に対してプロットすると、ピークが生じる。
RDG 対 ρ のピークによって識別される非共有結合相互作用を可視化するためには、RDG と ρ の値がピークを形成する 3D 点を見つける必要がある。これらの相互作用は、有利な(引力的)相互作用と不利な(斥力的)相互作用の両方に対応する。それらを区別するために、第二密度ヘシアン固有値(λ₂)と密度の積の符号(sign(λ₂)ρ と表現)が使用される。この値は、密度によって相互作用の強さを特徴付け、第二固有値の符号によってその性質(引力か斥力か)を表すことができる。
- 引力的相互作用:λ₂ < 0の領域
- 斥力的相互作用:λ₂ > 0の領域
- 弱いファンデルワールス相互作用:λ₂ ≈ 0の領域
検証環境
計算用 Linux サーバー
OS: Fedora 40 server Edition
CPU: Ryzen 9 9950x
解析用 mac
MacBook Pro, 16 inch, 2023, M2 Pro
OS: mac OS Sequoia
インストール方法
su で root ユーザーになる。
cd /opt
git clone https://github.com/juliacontrerasgarcia/nciplot
cd nciplot/src_nciplot_4.2
make mrproper
make
make clean
ここで、ls で nciplot という実行ファイルが生成していることを確認する。
exit で root ユーザーを終了し、ホームディレクトリで .bashrc に /opt/nciplot/src_nciplot_4.2 をpath に書き加える
export PATH=/opt/nciplot/src_nciplot_4.2:$PATH
export NCIPLOT_HOME=/opt/nciplot/src_nciplot_4.2
which nciplot で表示されることを確認する。
<注意>NCIPLOT_HOME の設定だけでは、which コマンドで nciplot が見つからない。NCIPLOT_HOME は nciplot のプログラム内部で使う変数のため、which コマンドには関係しない。
テストデータの実行方法
nciplot は、以下の 3 種類のインプットファイルを必要とする。
- filemane.nci
- filename.wfn または filename.wfx
- filename.xyz
計算の実行は、以下のコマンド
nciplot filename.nci
.nci の書き方
input.wfn # 波動関数ファイル名または分子構造ファイル名
outputfile # 出力のベース名
-s # 表面生成のオプションフラグ
0.5 # RDG(密度勾配)の値
-r # 分析する領域を指定
-3.0 3.0 # X軸の範囲(最小値 最大値)
-3.0 3.0 # Y軸の範囲(最小値 最大値)
-3.0 3.0 # Z軸の範囲(最小値 最大値)
/opt/nciplot/tests 内にお手本のファイルがあるので参照するとよい。
<注意>runtests.sh 内のファイルパスに誤りがあるので、修正すること。
version 4.2 でも ../../../src_nciplot_4.0/nciplot と記載されてしまっている。
全ての runtests.sh を修正するのは手間なので、シンボリックリンクを作成するのが良い。
例:
2
benzene.wfn
ethene.wfn
FINE # ULTRAFINE にすると解像度が上がる
INTERMOLECULAR
RANGE 3
-0.1 -0.01
-0.01 0.01
0.01 0.1
ONAME BE
wfn と wfx の準備
系全体で計算を行う場合と、相互作用している2つの分子それぞれで計算する方法がある。
系全体で計算を行うと計算量が大きくなるが、より精密な相互作用の計算結果が得られる。一方で、分子間と分子内相互作用の切り分けが面倒になる。
Gaussian16 では、output=wfn キーワードを用い以下のように計算を行う。
%nprocshared=8
%mem=8GB
%nosave
%chk=molecule.chk
#p M062X/6-31+G** scf=tight output=wfn
title
0 1
C 0.000000 0.000000 0.000000
H 0.000000 0.000000 1.089000
H 1.026719 0.000000 -0.363000
H -0.513360 0.889165 -0.363000
H -0.513360 -0.889165 -0.363000
molecule.wfn
計算結果の見方 & VMD のインストール方法
NCIPLOT は、以下のファイルを出力する。
- filemane.cube
- filename.vmd
- filemane.dat
<注意>ここから先は Linux ではなく、mac での操作
生成された結果を VMD で開く。
VMD は、こちらのサイトからダウンロードしてインストールする。
mac の場合は、以下のコマンドでインストールする。(Volumes の後ろのファイル名はバージョンにより異なる。)
cp -R "/Volumes/vmd194a57-macarm64/VMD 1.9.4a57-arm64-Rev12.app" /Applications/
sudo ln -s "/Applications/VMD 1.9.4a57-arm64-Rev12.app/Contents/vmd/vmd_MACOSXARM64" /usr/local/bin/vmd
以下のコマンドで .vmd ファイルを開く。
vmd -e 出力ファイル名.vmd
例えば、/nciplot/tests/ 内にあるお手本ファイルである benzene-ethane/intra_wfx_2input/BE.vmd を開くと以下のようになる。
.vmd ファイルの一行目にはシバンが書いてあるので、vmd がきちんと設定できていないと結果が表示されない。
非共有結合相互作用が色分けされた等値面として表示される:
青色:強い引力的相互作用(例:水素結合)
緑色:弱いファンデルワールス相互作用
赤色:反発的相互作用(例:立体障害)
より実践的な使い方
/nciplot/tests/ 内にあるお手本ファイルではなく、自分で生成したファイルでの相互作用について計算を行う。
今回は例として、以下の論文の座標を用いた。
Hong Zhang, Mathias Kirk Thøgersen, Cooper S. Jamieson, Xiao-Song Xue, Karl Anker Jørgensen, and Kendall N. Houk: "Ambimodal Transition States in Diels-Alder Cycloadditions of Tropolone and Tropolonate with N-Methylmaleimide," Angew. Chem. Int. Ed., 2021, 60, 24991-24996. (PDF)
以下のように Gaussian の inputfile を作成
%nprocshared=8
%mem=8GB
%nosave
%chk=A.chk
#p nosymmetry b3lyp def2svp int=grid=ultrafine output=wfx
title
0 1
O 2.88049400 1.73954300 0.01725300
O 1.19338900 -2.43174300 -0.65338900
N 2.23656700 -0.47260600 -0.01087500
C 1.21590700 0.90695800 -1.55786400
H 0.98976500 1.82782200 -2.07553900
C 0.71705300 -0.30927600 -1.74660300
H -0.02167900 -0.64602200 -2.45967100
C 2.21276200 0.84313700 -0.44105100
C 1.36553000 -1.24439400 -0.77145300
C 3.07045600 -0.96764300 1.06270900
H 4.12642600 -0.90227400 0.79307600
H 2.80789500 -2.00990200 1.24046700
H 2.89568200 -0.39047300 1.97227300
A.wfx
%nprocshared=8
%mem=8GB
%nosave
%chk=B.chk
#p nosymmetry b3lyp def2svp int=grid=ultrafine output=wfx
title
0 1
O -1.86583600 -2.05292300 1.01871100
H -2.51329800 -2.31948400 0.33242500
O -3.20401600 -1.08213600 -0.86421900
C -1.66123500 -0.75662900 0.81019100
C -2.49114500 -0.23580200 -0.29780600
C -2.50328900 1.14217400 -0.69071100
H -3.20625200 1.33949800 -1.49467600
C -1.77878100 2.20261300 -0.22546000
H -1.98543300 3.14888700 -0.71837000
C -0.79598900 2.26496300 0.78801200
H -0.34491100 3.23779400 0.95195000
C -0.35971400 1.24370000 1.58789200
H 0.40204000 1.50162000 2.31746700
C -0.75349200 -0.10956900 1.60378400
H -0.26684300 -0.74255900 2.34003500
B.wfx
.wfx ファイルの作成は数秒、光の速さで終了する。
nci ファイルは、以下のように設定する。
2
A.wfx
B.wfx
ULTRAFINE
INTERMOLECULAR
RANGE 3
-0.1 -0.01
-0.01 0.01
0.01 0.1
ONAME C
計算結果を VMD で開くと以下のようになる。