概要
東京大学と山梨大学の研究グループから発表された ColabReaction の使い方についての解説。
ColabReaction は、分子研の甲田先生が開発した Direct MaxFlux(DMF)法と Meta 社が開発した機械学習ポテンシャル UMA を組み合わせて高速に遷移状態を探索する手法(DMF/UMA 法)を Google Colaboratory に実装した計算ツール。
ColabReaction.net から誰でも無料で使用することが可能。
ColabReaction のプレプリント:
Masayuki Karasawa, Chee Siang Leow,Hideaki Yajima, Shuta Arai, Hiromitsu Nishizaki, Tohru Terada*, Hajime Sato* ChemRxiv 2025. DOI: 10.26434/chemrxiv-2025-zvkqk
Hugging Face での Token の取得方法
以下のページにアクセス
https://huggingface.co/facebook/UMA
右上のユーザーページをクリックし、左側メニューの「Access Token」を選択する。
「+Create New Token」を選択する。
任意の Token name を設定する。
Repositories permissions の部分で facebook/uma を選択する。(ここ重要!)
ColabReaction の使用方法
ColabReaction.net にアクセスする。
<注意点>
- 必ず全てのセルを実行すること
- クラウド上のファイルを確認すること
ColabReaction は、「setup」と「execution」の 2 つのセクションに分かれている。
setup セクションでは、4 つのセルを実行するだけである。
execution セクションは、全自動で実行可能。
input ファイルの準備
double-ended 手法では、reactant と product のナンバリングを揃えておく必要がある。
ナンバリング不一致の場合、分子が弾け飛ぶようなアニメーションが見えたり、非合理的な反応機構が得られたりする。
ナンバリングは、Gaussview の View > labels から確認することが出来る。
ナンバリングは、ファイル内の原子の行番号に対応している。
GaussView では、Tools > atom list から原子のナンバリングを変更することが出来る。
smiles などから 3 次元構造を生成すると、このナンバリングがおかしくなっている場合が多々ある。
setup セクション
step 1
「Installation for app (This may take minutes, for installation of customized Panels)」というセルを実行する。ここには 2〜3 分ほど時間がかかる。
step 2
続いて、「1. Upload reactant and product files (.xyz, .com, .gjf, .pdb, .mol, .sdf). Rerun the cell code for uploading new file. (Dual Visualizer)」のセルを実行する。
<注意> ColabReaction では、最初からこの部分が表示されているが、必ずセルを実行すること(20 秒ほど時間がかかる)。(ここ重要!)
アップローダーが表示されたら、reactant と product のファイルをドラッグ&ドロップでアップロードする。
ドロップした瞬間に分子が3次元表示される。
実は、このドラッグ&ドロップ機能の実装も ColabReaction の一つの目玉である。
念の為、左側のメニューからフォルダマークをクリックし、自分の reactant と product のファイルが正しくアップロードされていることを確認する。
step 3
続いて、「2. Calculation settings (Please click the "Apply" button; otherwise, the settings will not take effect.)」のセルを実行する。
ColabReaction では、最初からスライダー等が表示されているが、必ずセルを実行すること(10 秒ほど時間がかかる)。(ここ重要!)
下図のようにスライダー等が表示されたら charge, spin などを設定する。
ColabReaction は、計算化学初心者向けに設計されているので、以下簡単に解説する。
- charge は系全体の電荷を表す
- spin は、通常の有機分子については 1 を選択
- ラジカルの場合は、spin は 2 を選択
- 光や金属が関与している場合は、専門家にスピン状態を相談すべし
- TS を求めるだけなら nmove は 20 で良い
パラメータ設定後は、必ず Apply ボタンを押すこと(ここ重要!)
step 4
「3. Hugging Face Token Input」のセルを実行する。token の入力ボックスが出てくるので、自分の token を入力する。
ここまでで setup section は、完了。
execution セクション
全自動実行
🚀 II. Execution Section のセルをクリックし、上部の「ランタイム」のプルダウンメニューから「現在のセルとその下のセルを実行」を選択すると全自動で実行される。待ち時間は約 5 分間。
全て正常終了すると出力ファイルが zip 形式で自動ダウンロードされる。
結果の見方
Molecular Viewer
ColabReaction では、計算が正常終了すると反応動画とそれに対応したエネルギーダイヤグラムを見ることが出来る。エネルギーダイヤグラムをクリックするとそれに対応した分子の3次元構造が瞬時に表示される。
計算終了後にファイルをダウンロードして Gauss View で表示して、という手間から解放される。
実は、この 3D ビューワーも ColabReaction の目玉の一つである。
エネルギーダイヤグラムをクリックして分子表示を切り替えることや、分子表示とエネルギーダイヤグラムを横並びに表示させる実装は実は難しい。
虚振動の計算
ColabReaction では、エネルギーダイヤグラム上の全ての極大点に対して振動計算を行い、上位3つの虚振動の動画を表示してくれる。
<注意1>
DMF の基本的な使い方としては、極大点を gaussian で遷移状態構造最適化し、IRC 計算を行う必要がある。
しかし、ColabReaction のモデル反応として github にも置いてある P450 の反応は、多段階反応である。最初と最後の構造をインプットとして与えることで、その途中の複数の TS が正確に出力されている。つまり、多段階反応を計算できる可能性があるため、ColabReaction では 全ての極大点のヘシアン計算を行っていると思われる。
<注意2>
ASE/UMA で出力されるのは数値的ヘシアンであり、必ずしも正確ではない。(ここ重要!)
そのため虚振動の絶対値が正確でない場合があり、上位 3 つくらいの虚振動の順番が入れ替わってしまう。そのため、上位三つの虚振動を全て目視で確認し、望みの振動モードを持つかを確認する必要がある。望みの振動モードを持つ場合は、Gaussian などでの遷移状態構造最適化計算に進む。
<注意3>
現時点では、ColabReaction の結果だけでは学術論文には掲載できない。
あくまで、gaussian の modredundant の代わりという使い方となる。
ColabReaction で出てきた極大点を gaussian で遷移状態構造最適化&振動計算し、IRC 計算して、初めて論文に掲載できるデータとなる。
GaussView 対応の出力ファイル
ColabReaction では、反応動画と振動計算の結果を GaussView に対応した log ファイルで提供してくれる。
まとめ
ColabReaction では、従来の DFT での scan に比べて 100 倍以上高速に遷移状態構造を求めることが出来る。特筆すべきことは、高価なサーバーを必要とせず、誰でも無料で利用可能であるということだ!
ColabReaction の登場は、計算化学の民主化と呼ぶことが出来る!