今年は新卒向け研修を整えたのでそこでやったことと考えたことをこの場では共有していく。
研修の設計、あるいはなぜ研修を体系化したのか
きっかけ
部門長から「弊部門に配属される新卒のみなさんに提供する研修を作ろう」という話を頂き、作り始めたのが2月。従来は研修を行っていなかったというわけではないにせよ、研修は OJT と特定の作業をするときの重要なルールに関する共有のみでそれ以外は設定していなかった。
最初に考えたこと:定着してください
まずは、研修後に新卒のみなさんがどうなって欲しいのかを考えた。
ここでは新卒のみなさんが弊部門に定着することに重きを置き、以下として定めた。
- 弊部門に入って活躍できるイメージを新卒のみなさんが持てる
- 弊部門の人と気軽に会話できると新卒のみなさんが思える
この辺が実現できれば研修は成功でした、となるわけである。
実現するために色々考えた結果、次のように方針を決めた。
- 弊部門に入って活躍できるイメージを新卒のみなさんが持てるようになるために……
- 弊部門の典型的な業務に必要なスキルセットから逆算して内容を積み上げる
- 座学をある程度やったら実践的な研修を入れていく。ハンズオン等
- 弊部門の人と気軽に会話できると新卒のみなさんが思えるために……
- 「放置されている」と思わせない
- ちょっと忙しいくらいにする
- 新卒のみなさん1人に1人トレーナーを付け、手厚めにサポートしてもらう
- 座学の研修では弊部門内の色々な人に講義してもらい自己紹介を兼ねる
研修プログラム作成:目標に向けて積み上げていく
配属された時点で持っているであろう能力と弊部門の典型的な業務で必要になる能力の差異を産められるように研修プログラムを積み上げた。例えば、「計測ツールが使いこなせるようになる!」というリクエストがあれば「計測対象となるリソースについて理解している!」を先に満たす必要がある。
また、弊部門で働くイメージを持ちやすくするために、最初は概論・座学中心とするが徐々に具体的な話・ハンズオンをやりやすいコンテンツを増やしていくように計画した。ただ、これは習得の難度的にもこのような順番になるので何も考えなくもこうなった気はしている。
用意するコンテンツのうち、弊社でオリジナルに用意しないといけないものはオリジナルのものを用意した。
だが、既に他社様が公開してくださっているものを流用できそうな場合は積極的に活用するようにした。
幸いにして動画研修コンテンツも会社として利用できたし、多くの他社様が研修コンテンツを公開してくださっている。
研修担当者にお願い、あるいは思想の共有
トレーナーは毎日話してね
まず、新卒の皆さんについてもらうトレーナーには「少なくとも最初の1ヶ月は5分でいいから新卒と毎日 1on1 してくれ」「小さなこともガンガン褒めてくれ」とお願いした。毎日 1on1 はかなりコストがかかるが「その工数は払え」とお願いしたのである。我ながら無茶なお願いをしたものである。快く受け入れてくださった同僚の各位には頭が上がらない。
また、褒め方としてゲームキャラクターをイメージするようにも伝えた。ポケットモンスターシリーズのあるキャラクターは弱点をついた攻撃を行うだけで「さすがだぞ!タイプの相性をバッチリ理解しているんだな!」と褒めてくれるそうだ。これくらいのノリとテンションで褒めてほしいとトレーナーを担当してくださる各位には伝えた。
講義を対話的にやってほしい
研修講師の各位には講義に際して次のようなお願いをした。
- 最初に自己紹介の時間をもってほしい
- 講師が一方的に話すのではなくできるだけ対話しながら進行してほしい
- 実践的な課題を講義の最後に(できれば講義の途中でも)出してほしい
聞くだけ・見るだけで持ち帰れることなどたかが知れていると思っている。だが、新卒のみなさんが聞いたことに基づいてその場で考えたり、手を動かしたりすれば定着するだろうと考えた。
既存コンテンツを使ってうまいことやる
弊部門で使う主要なテクノロジーについて既存の資料の一覧を新卒のみなさんに共有し、その中から選んだテーマを担当して話す輪講を実施して頂くこととした。この輪講は司会のみ先輩社員が担い、資料に基づいて話すのは新卒が持ち回りで実施する。輪講中に出た質問でその日の担当者がわからないものがあれば先輩社員が代わりに答えたり解説したりするのである。
これは自分で発表するために学ぶことによる経験点もだが、「先輩はフォローしてくれるだなぁ」という安心感を獲得してほしいと思ってやっている。
研修実施、あるいは先駆者の偉大さ
ここまでが企画・制作であるが以下は実際に研修を回しての話である。
正直に申し上げると誤算だらけだった。
学校教育のシステムを模倣する
「新卒のみなさんをついに迎え入れます」という段になって困惑した。
新卒のみなさんの配属は「せーの」で同時ではなかったのである。
まとめてオリエンテーションして同時に研修をスタートできると思っていた私は狼狽したのだ。
ここで数日遅れて配属された新卒のみなさんについて、先に配属された新卒のみなさんの進捗においついてもらうためにちょっと無理なペースでの研修になってしまったり。さらにそこに無理があったことに気づいたのは翌週だったりもした。
なので、気づいた後にだが朝の会めいて新卒のみなさんの状況を確認する会を設けた。
学校に朝のホームルームが何故あったのか知る機会だった。学校教育のシステムは偉大だった。
とはいってもインタラクティブな講義なんて簡単じゃないです
研修講師の各位には上述の通り対話的に研修をして欲しいとかハンズオンを始めとする定着のための課題設定をお願いしたのだが、蓋を開けてみると基本的には一方的に話す講義がほとんどであった。
とはいえ、これは講師の各位の問題ではないと考えている。研修講師を担ってくださったのは業務のプロであって教育のプロではない。対話的に講義してくれとか、定着するような実践研修を出してくれとか言われても難しいのは当然である。
これに対しては外部のハンズオンコンテンツで補うことを試みた。また、輪講で自ら学んで発表していくコンテンツがあったのもこのフォローには良かったように思う。
結果と反省
成功したの?
当初、以下の目標を立てて開始した。
- 弊部門に入って活躍できるイメージを新卒のみなさんが持てる
- 弊部門の人と気軽に会話できると新卒のみなさんが思える
現時点で新卒のみなさんには業務改善に積極的に取り組んでいただけている。また、各々についたトレーナーの各位と良好な関係を持ち、そこを中心に業務上の問題をうまく相談して解決しながら仕事をしているように見えている。このことから最初に決めた以下の2点については概ね成功したと考えている。
無論、足りない部分もあった
研修期間が終了して数週間後、研修中に発生した問題点に加え、コンテンツ内容の改善を目的として新卒のみなさんひとりひとりと面談をした。これは研修がどうであったかのフィードバックを頂くためである。結果、以下のような課題が見つかった。
まず、座学は役に立ったものと役に立たなかったものがあったという結果が得られた。だが、「後で読み返したりして役に立った」という人もいたので座学の席における定着に失敗している(コンテンツ自体がそもそも不要で的外れというわけではない)こともわかった。
反面、輪講形式の講座はかなり好評だったため来年もやっていきたい。そもそも座学よりもアウトプットをどんどんやることになる分、面白いだろう。
それでも実務上足りてないコンテンツがある旨は新卒のみなさんからも配属先のメンバーからもそれぞれ指摘を頂いている。特に他部門との協業を目的としたコミュニケーションが難しいことがわかっている。2023年はこの解決に向けて色々と考えていくことになりそうである。
また、上述の通りトレーナーの各位と新卒のみなさんが良好な関係を築けたのは成功点である。だが、同時にトレーナーの各位は部門内のスーパーエース格に担当頂いた。そのため、相談したくても忙しいときは難しいといった問題もあった。
次のステップ
上述の良かった部分を残しつつ、足りない部分を改善していくことになる。
特に上述の座学の改善、他部門とのコミュニケーション改善、トレーナーとのコミュニケーション強化を中心に色々試みていくことになる。また、新卒のみなさんだけでなく、自分を含む既存メンバーの強化も無論必要である。部門全体が楽しみながら強くなっていける風土を続けて築いていきたい。