🎹 人工知能は音楽をどう学ぶ?〜リズム生成の仕組み〜
こんにちは!今回は、人工知能(AI)がどのように音楽、特に「リズム」を理解し、創り出すのかについて、Qiitaで一緒に探求していきましょう。音楽とプログラミングに興味がある方なら、きっと楽しめるはずです。
🤖 AIはリズムをどう認識する?
AIが音楽を扱うとき、まず「音」をデータとして認識する必要があります。
人間の耳が音を波として捉えるように、AIは音をデジタルデータ、つまり数値の羅列に変換します。具体的には、音の強さや高さ、長さといった要素を数値化して表現します。
リズムに関して言えば、AIは音符の長さ(四分音符、八分音符など)、拍子の構造(4/4拍子、3/4拍子など)、そして音と音の間の休符を、数値のパターンとして認識します。
例えば、単純なキックとスネアのドラムパターンを考えてみましょう。
- キック(バスドラム): 1拍目、3拍目
- スネア: 2拍目、4拍目
このパターンは、AIにとっては単なる「音の発生タイミング」という数値データになります。
[1, 0, 1, 0] # キックのパターン
[0, 1, 0, 1] # スネアのパターン
「1」は音があることを、「0」は音がないことを示しています。このように、AIは音楽を数列や行列として捉え、学習するのです。
🧠 AIがリズムを生成する仕組み
AIがリズムを学習したら、いよいよ新しいリズムを生成する段階です。これは、主に機械学習モデルを使って行われます。
ここでは、最もシンプルで理解しやすい**マルコフ連鎖(Markov chain)**というモデルを例に見てみましょう。マルコフ連鎖は、「現在の状態が次の状態に影響を与える」という確率的なモデルです。
マルコフ連鎖でリズムを生成する
-
学習: まず、AIに既存のリズムパターンをたくさん入力します。AIは「この音が鳴った後、次の音はこれ」という遷移確率を学習します。
- 例:「キックが鳴った後、次にスネアが鳴る確率は高い」
- 例:「ハイハットが連続する確率は非常に高い」
-
生成: 次に、AIは学習した確率に基づいて、ランダムに次の音を選んでいきます。
- 最初の音をランダムに決める。
- その音から、学習した確率に従って次の音を選び続ける。
このプロセスを繰り返すことで、既存のデータに似ているけれど、全く新しいリズムパターンが生成されます。
より複雑なリズム生成には、**リカレントニューラルネットワーク(RNN)**や、**生成モデル(GAN)**といった高度な技術が使われます。これらは、より複雑な時間的なパターンや、音楽の長期的な構造を学習できます。
💻 Pythonで学ぶ!シンプルなリズム生成スクリプト
それでは、実際にPythonを使って、シンプルなリズムを生成してみましょう。今回は、MIDIファイルを生成できるmido
ライブラリと、簡単なマルコフ連鎖のロジックを使って、ランダムなドラムパターンを作ります。
準備
まず、必要なライブラリをインストールします。
pip install mido
pip install python-rtmidi
スクリプト
以下のコードをgenerate_drum.py
として保存してください。
import mido
import random
# MIDIファイルを作成
outfile = mido.MidiFile()
track = mido.MidiTrack()
outfile.tracks.append(track)
# ドラム音源のノートナンバー
# キック:36, スネア:38, ハイハット:42
drum_notes = [36, 38, 42]
# シンプルなマルコフ連鎖の遷移確率
# 「前の音」から「次の音」への確率
transitions = {
36: {38: 0.7, 42: 0.3}, # キックの後の確率:スネア70%, ハイハット30%
38: {36: 0.5, 42: 0.5}, # スネアの後の確率:キック50%, ハイハット50%
42: {42: 0.8, 38: 0.2} # ハイハットの後の確率:ハイハット80%, スネア20%
}
# 最初の音をランダムに選択
current_note = random.choice(drum_notes)
# リズムを生成するループ(16小節分)
for _ in range(16 * 4): # 16小節 x 4拍
# 音を鳴らす(Note Onメッセージ)
track.append(mido.Message('note_on', note=current_note, velocity=100, time=0))
# 音を止める(Note Offメッセージ)
track.append(mido.Message('note_off', note=current_note, velocity=0, time=120)) # time: 拍の長さ(ここでは八分音符相当)
# 次の音を確率的に決定
next_candidates = transitions.get(current_note, {})
if next_candidates:
next_note = random.choices(list(next_candidates.keys()), weights=list(next_candidates.values()))[0]
current_note = next_note
# MIDIファイルを保存
outfile.save('generated_drum_pattern.mid')
print("ドラムパターンを生成しました:generated_drum_pattern.mid")
スクリプトの解説
-
mido.MidiFile()
: MIDIファイルを扱うためのオブジェクトを作成します。 -
drum_notes
: ドラムの各パーツに対応するMIDIのノートナンバーです。 -
transitions
: マルコフ連鎖の核となる部分です。{現在の音: {次の音: 確率, ...}}
という形で、次の音への遷移確率を定義しています。 -
random.choices()
: 定義した確率に基づいて、次の音をランダムに選択します。 -
track.append(mido.Message(...))
: MIDIの「音を鳴らす(note_on
)」、「音を止める(note_off
)」というメッセージをトラックに追加していきます。time
は次のメッセージまでの時間(テンポに相当)です。
このスクリプトを実行すると、generated_drum_pattern.mid
というファイルが生成されます。これをDAWソフト(GarageBand, Ableton Liveなど)や、MIDIプレイヤーで再生してみてください。設定した確率に基づいた、ランダムなドラムパターンが聴けるはずです。
最後に
今回はAIがリズムをどう認識し、どう生成するかについて、そしてPythonを使ったシンプルな実装例を紹介しました。AIと音楽の組み合わせは、まだまだ無限の可能性を秘めています。
この記事をきっかけに、皆さんもAIと音楽の面白さに触れてもらえたら嬉しいです。次のステップとして、もっと複雑なモデル(RNNなど)を試してみたり、メロディ生成に挑戦してみるのも面白いかもしれませんね!