概要
非同期処理は現代のアプリケーション設計において避けられない構造であり、
Promise、async/await、callback、さらにはEventEmitterやWebSocketなど、
多様な「時間に依存した流れ」が日々のコードを複雑にしている。
Rx(Reactive Extensions) は、その複雑さを**「ストリーム」という抽象で制御可能にするパラダイムである。
本稿では、Rxの思想・構造・背景を明快に整理し、なぜ「ただの非同期ライブラリ」ではなく設計哲学**なのかを明らかにする。
1. Rxとは何か?:宣言的・構造的・非同期なストリーム制御
「Rxは、イベントやデータの非同期的な流れを、関数的に合成し、宣言的に制御するための抽象である」
Rxの核となる型は Observable
。
これは「未来の複数の値」をストリームとして扱い、以下を可能にする:
- 遅延評価
- 非同期イベントの合成
- 時間に基づく処理の制御(debounce, throttle)
- エラー/キャンセル処理の統一
2. Rxの背景:pull vs pushの思考法
モデル | 概要 | 例 |
---|---|---|
pull型 | 消費者が必要なときに値を取りに行く |
for / Promise / Iterator
|
push型 | 生産者が勝手に値を送りつけてくる |
EventEmitter / WebSocket / setInterval
|
Rx = push型をpull的に制御可能にする抽象構造
3. Observableの基本構造
import { Observable } from 'rxjs'
const observable = new Observable<string>((subscriber) => {
subscriber.next('A')
subscriber.next('B')
subscriber.complete()
})
observable.subscribe({
next: (v) => console.log(`Received: ${v}`),
complete: () => console.log('Done')
})
-
Observable
= ストリームそのもの -
Subscriber
= 観測者(Observerパターン) -
.next()
= 値を発行 -
.complete()
= 終了通知
4. Rxが解決する実務的な非同期の複雑さ
✅ 連続的な非同期イベント
// EventEmitterやaddEventListenerなど、永続する非同期
fromEvent(button, 'click')
.subscribe(() => console.log('Clicked'))
✅ Promiseでは表現できない「キャンセル可能」なストリーム
const observable = interval(1000)
const sub = observable.subscribe(console.log)
// 5秒後にキャンセル
setTimeout(() => sub.unsubscribe(), 5000)
✅ 入力の合成とタイミング制御
fromEvent(input, 'input')
.pipe(debounceTime(300))
.subscribe(() => search())
→ ユーザーの連続入力を debounce して検索APIを叩くような、UIの快適性と最適化の両立が容易に
5. 宣言的なストリーム思考の強み
Rxを導入すると、以下のような設計的利点が得られる:
- コールバック地獄からの解放
- 明示的な流れの構成(map → filter → switchMap …)
- 非同期の 構造的合成(複数ストリームのmerge, zip)
- イベント処理・非同期IO・UIイベントが同じ抽象で統一できる
よくある誤解と対策
❌ RxはPromiseの置き換えでしょ?
→ ✅ Rxは「複数値を制御する抽象」であり、単一値のPromiseとは別軸
❌ RxJSはオーバーエンジニアリングでは?
→ ✅ シンプルな非同期には不要。だが状態・合成・制御の複雑さが増すほど威力を発揮
❌ 学習コストが高い
→ ✅ 事実。ただし得られる設計上の恩恵(キャンセル、合成、構造)は非同期を扱うすべてのレイヤーで重要
結語
Rxとは、単なる非同期ツールではない。
**「非同期をストリームとして捉え、構造的・宣言的に制御する思想」**である。
- 時間を含む「動的な流れ」に名前と構造を与え
- UIもIOもイベントもすべて「ストリーム」として再定義し
- 設計の分断を乗り越えて、抽象による秩序を構築する
リアクティブ思考とは、
“非同期と状態のカオスに対し、ストリームという秩序をもって制御を取り戻すための設計哲学である。”