概要

非同期キャンセルとは「中断できるようにする」ことではない。
それは**“UI・ユーザー行動・アプリ状態に連動して、不要な非同期処理を明確に終了させ、意図通りの動作を保証するための制御構造”**である。

ユーザーが入力を変えた瞬間、ページを遷移した瞬間、送信ボタンを押した直後など、キャンセルされるべき非同期は無数に存在する。
JavaScriptでは AbortController を用いることで、構造的なキャンセル可能設計が可能になる。

1. AbortController の基本構造

const controller = new AbortController();
const signal = controller.signal;

fetch('/api/data', { signal })
  .then((res) => res.json())
  .catch((err) => {
    if (err.name === 'AbortError') {
      console.log('fetch aborted');
    }
  });

controller.abort(); // 中断

✅ signal を fetch に渡すことでキャンセル可能に
✅ 中断時は AbortError が投げられる

2. UIと連動するキャンセル設計（例：検索フォーム）

let controller: AbortController;

async function fetchSearch(query: string) {
  if (controller) controller.abort(); // 既存リクエスト中断
  controller = new AbortController();

  try {
    const res = await fetch(`/api/search?q=${query}`, {
      signal: controller.signal,
    });
    const data = await res.json();
    showResults(data);
  } catch (err) {
    if (err.name === 'AbortError') return;
    console.error('検索失敗:', err);
  }
}

✅ 入力変化ごとに前回リクエストをキャンセル
✅ UIの連動によって「今必要なものだけ」を残す構造に

3. コンポーネントライフサイクルと連動（React/Vue等）

useEffect(() => {
  const controller = new AbortController();

  fetch('/api/data', { signal: controller.signal });

  return () => controller.abort(); // アンマウント時に中断
}, []);

✅ コンポーネントが破棄されてもfetchが動き続けることを防止
✅ 副作用の生存期間を明示的に制御する設計が重要

4. 複数非同期のキャンセル制御（競合防止）

const createCancelableTask = () => {
  let controller = new AbortController();
  return {
    run: (url: string) => {
      controller.abort();
      controller = new AbortController();
      return fetch(url, { signal: controller.signal });
    },
  };
};

const task = createCancelableTask();
task.run('/api/a');
task.run('/api/b'); // 前回はキャンセルされる

✅ 複数リクエストが最後の1つ以外不要な場合に有効

5. 状態とUIに「中断」を反映する設計

const [loading, setLoading] = useState(false);
const [aborted, setAborted] = useState(false);

const fetchData = async () => {
  const controller = new AbortController();
  setLoading(true);
  try {
    const res = await fetch('/api/data', { signal: controller.signal });
    await res.json();
    setAborted(false);
  } catch (e) {
    if (e.name === 'AbortError') {
      setAborted(true);
    }
  } finally {
    setLoading(false);
  }
};

✅ UI状態として「中断された」ことも反映すべき
✅ ローディングだけではなく「結果が無効化された」ことをUIで扱う

設計判断フロー

① 非同期処理が「ユーザー操作によって不要になる可能性」があるか？

② 現在の非同期処理が「今のUI」に関連しているか？ → スコープの明示

③ キャンセル時に状態破壊やエラー発火が起きていないか？

④ 複数非同期を扱うとき、競合や古いレスポンス処理が混入していないか？

⑤ UIが「キャンセルされた状態」を反映できる構造になっているか？

よくあるミスと対策

❌ キャンセルしない fetch が UI 破棄後に状態を更新

→ ✅ AbortController と useEffect の return で中断

❌ 前回の検索が遅延して結果が上書きされる

→ ✅ キャンセル可能設計 or タスク番号で一意化

❌ キャンセルされたリクエストもローディング中扱いになる

→ ✅ 「中断された」ことをUI状態で反映

結語

非同期のキャンセルとは「止めること」ではない。
それは**“不要な処理を明確に切り捨て、今必要なものだけを残す、ユーザー体験と整合性のための制御構造”**である。

AbortControllerで非同期を構造化し
UIやライフサイクルと連動して中断制御し
今表示すべきデータ・状態を明示的に守る

JavaScriptにおける非同期キャンセル設計とは、
“中断を制御し、整合性を保証することでUXと安全性を両立する戦略”である。