概要
Builder（ビルダー）パターンは、
複雑な構造を持つオブジェクトの生成処理を、段階的かつ分離された構造で提供するデザインパターンである。
生成処理を構成要素ごとに分け、読みやすく保守性の高いAPIで組み立てられるようにするのが目的。
オブジェクトの生成順序、依存性、初期状態をコード上に明示的に表現できる。
1. なぜBuilderが必要か？
❌ コンストラクタで引数が増えすぎて可読性が低下
user = User("taro", 30, "tokyo", "engineer", "developer", True, False)
→ 引数の意味が不明、可読性とメンテナンス性に問題がある
✅ Builderを使って意図を明示しながら構築
user = (
UserBuilder()
.set_name("taro")
.set_age(30)
.set_location("tokyo")
.set_job("engineer")
.build()
)
→ 各ステップで意味が明確な、流れるようなオブジェクト生成が可能に
2. 基本構造
✅ Product（構築対象のオブジェクト）
class User:
def __init__(self, name="", age=0, location="", job=""):
self.name = name
self.age = age
self.location = location
self.job = job
def __str__(self):
return f"{self.name} ({self.age}) - {self.location} / {self.job}"
✅ Builderクラス
class UserBuilder:
def __init__(self):
self._user = User()
def set_name(self, name):
self._user.name = name
return self
def set_age(self, age):
self._user.age = age
return self
def set_location(self, location):
self._user.location = location
return self
def set_job(self, job):
self._user.job = job
return self
def build(self):
return self._user
✅ 使用例
user = (
UserBuilder()
.set_name("Hanako")
.set_age(28)
.set_location("Osaka")
.set_job("Designer")
.build()
)
print(user)
出力:
Hanako (28) - Osaka / Designer
3. Python的応用：辞書やJSON構造を段階的に組み立てる
class QueryBuilder:
def __init__(self):
self._query = {}
def filter(self, key, value):
self._query[key] = value
return self
def sort(self, field):
self._query["sort"] = field
return self
def limit(self, n):
self._query["limit"] = n
return self
def build(self):
return self._query
query = QueryBuilder().filter("status", "active").limit(10).build()
print(query)
出力:
{'status': 'active', 'limit': 10}
4. 実務ユースケース
✅ 複雑なフォームデータの組み立て
→ 途中でバリデーションや補完を加えつつ段階的に構築
✅ DSL的なクエリビルダー（SQL, GraphQL, MongoDB等）
→ 構文木を段階的に積み上げて安全に組み立てる
✅ 大量設定を伴うUI部品の生成
→ スタイル・レイアウト・イベントを一貫した構文で設定可能
✅ テスト用のダミーデータファクトリ
→ 様々な属性を柔軟に組み合わせたオブジェクト生成が可能
5. よくある誤用と対策
❌ Builderで生成するオブジェクトの責務が曖昧
→ ✅ Builderは構築専用、ロジックはProductに持たせる
❌ ステップが固定されており順序変更できない
→ ✅ ステップは任意順・任意数で実行可能に設計する
❌ build() でバリデーションせずに不完全なオブジェクトを返す
→ ✅ 最終段階で一貫性チェックを挟む
結語
Builderパターンとは、“設計図をもとに、順を追って構造を組み立てる柔らかな生成技法”である。
- 大量の属性や依存性を持つオブジェクトを、段階的かつ明示的に構築
- 引数の羅列による曖昧さを避け、可読性・拡張性・保守性を向上
- Pythonではメソッドチェーンやデフォルト引数を駆使し、洗練されたDSLのような生成コードを記述可能
Pythonicとは、“わかりやすく、流れるように意図を示す構造を持つこと”。
Builderパターンはその意図と構築の過程を、コードに優雅に刻む設計技法である。