概要

State（ステート）パターンは、
オブジェクトの状態が変化するたびに、そのオブジェクトの振る舞いも変化するように構造化するパターンである。

条件分岐（if-elif や switch-case）を多用するコードを整理し、
状態ごとに明確なクラスを定義することで、状態遷移と振る舞いの責務を分離し、保守性と拡張性を高める。

1. なぜStateパターンが必要か？

❌ 状態管理を条件分岐で処理

if self.state == "draft":
    self.save_as_draft()
elif self.state == "published":
    self.publish()

→ 状態が増えるごとに分岐が膨張し、メンテナンス困難に

✅ 各状態をクラスとして独立定義

post.set_state(DraftState())
post.save()  # 状態オブジェクトに処理を委譲

→ 振る舞いの委譲により、ロジックを状態ごとに分離可能

2. 基本構造

✅ 状態インタフェース

class State:
    def save(self, context):
        raise NotImplementedError

✅ 状態の具象クラス

class DraftState(State):
    def save(self, context):
        print("Saving as draft...")

class PublishedState(State):
    def save(self, context):
        print("Already published. No save needed.")

✅ コンテキストクラス（状態保持者）

class Post:
    def __init__(self):
        self._state = DraftState()

    def set_state(self, state):
        self._state = state

    def save(self):
        self._state.save(self)

✅ 使用例

post = Post()
post.save()  # → Saving as draft...

post.set_state(PublishedState())
post.save()  # → Already published. No save needed.

3. Python的応用：動的遷移・イベントベース設計

class ApprovedState(State):
    def save(self, context):
        print("Cannot save. This is already approved.")
        context.set_state(ArchivedState())

class ArchivedState(State):
    def save(self, context):
        print("Archived. Read-only.")

→ 状態が内部で他の状態へ自律的に遷移できる

4. 実務ユースケース

✅ コンテンツ管理システムの投稿状態管理

Draft / Review / Published / Archived などの状態ごとの動作を分離

✅ UIコンポーネントのモード遷移（例：ボタン）

enabled, disabled, hovered, pressed 状態ごとのビヘイビアを状態クラスで制御

✅ ゲーム内キャラクターの状態管理

idle, running, attacking, damaged のような行動状態に応じた処理の切替

✅ フロー制御、ワークフローのステップ管理

承認・却下・差し戻しなどを、状態クラスとして明示的に定義

5. よくある誤用と対策

❌ コンテキストクラスが状態ごとの振る舞いを保持してしまう

→ ✅ 各状態に処理を完全に委譲し、コンテキストはただの受け皿に徹する

❌ 状態クラスがコンテキストに依存しすぎる

→ ✅ 状態は独立した振る舞い定義に徹し、遷移や副作用のみ必要に応じて利用

❌ 状態が増えたときのクラス爆発

→ ✅ 状態を抽象化・再利用可能に設計し、DRY原則を意識

結語

Stateパターンとは、“状態による振る舞いの変化を設計上の構造で明示する”ためのパターンである。

分岐ロジックを状態クラスに分離し、高凝集・低結合な設計を実現
状態の増減に耐えうる柔軟性を備え、コードのスケーラビリティを向上
Pythonの動的性とシンプルな構文が、Stateパターンの実装をより直感的にしてくれる

Pythonicとは、“動的な変化を構造で整理する”ことであり、
Stateパターンはその整理された変化の設計を、柔軟性と拡張性の核に据える技法である。