"混乱は状態管理の失敗から始まる。秩序は明示された遷移に宿る。"
あらゆるリアルタイム制御、UIロジック、プロトコル実装において、
状態遷移の正しさはシステムの安定性を左右する。
Adaは、その設計哲学の中に「状態を型で管理し、遷移を明示せよ」という強い意志を持っている。
これは、有限オートマトン(Finite State Machine)と驚くほど相性が良い構造である。
状態を“変数”でなく“型”で定義する
type Mode is (Idle, Starting, Running, Stopping, Error);
Current_Mode : Mode := Idle;
このように、状態は自由な文字列や数値ではなく、型として限定された集合として定義される。
これにより、「ありえない状態」はコンパイル時点で排除される。
遷移は明示的に記述する。制御不能な分岐を残さない
case Current_Mode is
when Idle =>
if Start_Requested then
Current_Mode := Starting;
end if;
when Starting =>
if Init_Complete then
Current_Mode := Running;
end if;
when others =>
Current_Mode := Error;
end case;
このように、すべての遷移を明示的に書くことで、無定義の分岐が生まれない構造がつくられる。
case文は静的解析でもっとも効果的な状態制御手段であり、Adaの構文と極めて相性が良い。
状態と責任を分離するモジュール設計
状態遷移は、以下のような構造で分離・管理されるべきである:
-
type State
:全状態を明示的に定義 -
procedure Transition
:状態間の遷移ロジック -
function Is_Valid_Transition
:状態の検査関数 -
package Controller
:これらをまとめる構造単位
Adaの package
構文により、これらを責務ごとに整理された構造体として再利用可能に設計できる。
状態爆発を防ぐ:静的に予測可能な分岐数
状態が型で管理されていることにより、状態数と遷移数はコード上に明確に現れる。
これは、状態遷移表の検証や可視化にも大きく寄与し、
テストではなく、設計段階で正しさを検証可能にする。
結語:状態を設計せずに制御はできない
Adaは、状態管理を構造化し、明示し、検証可能にする言語である。
有限オートマトンと親和性が高い理由は、状態が“設計の単位”として尊重されているからだ。
"正しい状態にいること。それは、正しい遷移を設計できたという唯一の証明である。"