概要

Mediator（メディエータ）パターンは、
複数のオブジェクト間の複雑な相互依存関係を1つの“調停者（Mediator）”に集約することで、構造を疎結合化する設計パターンである。

各オブジェクト（コンポーネント）はMediatorを介して通信することで、直接的な依存を排除し、拡張性と再利用性を高めることができる。

1. なぜMediatorが必要か？

❌ オブジェクト同士が直接やり取りをすると、依存が網の目状に複雑化する

class Button:
    def click(self):
        textbox.clear()
        logger.log()

→ 各オブジェクトが他の内部構造を知ってしまい、結合度が高くなる

✅ Mediatorを通じてオブジェクト同士のやり取りを仲介する

class Button:
    def click(self):
        self.mediator.notify(self, "click")

→ Mediatorが全体の調整役を担い、オブジェクトは自己に集中できる

2. 基本構造

✅ Mediatorインターフェース

class Mediator:
    def notify(self, sender, event: str):
        raise NotImplementedError

✅ ConcreteMediator（調停者）

class UIControlMediator(Mediator):
    def __init__(self):
        self.button = None
        self.textbox = None

    def notify(self, sender, event):
        if sender == self.button and event == "click":
            print("ボタンがクリックされました。テキストボックスをクリアします。")
            self.textbox.clear()

✅ コンポーネント（参加者）

class Button:
    def __init__(self, mediator: Mediator):
        self.mediator = mediator

    def click(self):
        self.mediator.notify(self, "click")

class TextBox:
    def __init__(self, mediator: Mediator):
        self.mediator = mediator
        self.content = "入力中..."

    def clear(self):
        print("テキストボックスをクリア")
        self.content = ""

✅ 使用例

mediator = UIControlMediator()

button = Button(mediator)
textbox = TextBox(mediator)

mediator.button = button
mediator.textbox = textbox

button.click()

出力:

ボタンがクリックされました。テキストボックスをクリアします。  
テキストボックスをクリア

3. Python的応用：Pub/Subライクなメッセージルーターとしての活用

class EventMediator:
    def __init__(self):
        self._subscribers = {}

    def subscribe(self, event, handler):
        self._subscribers.setdefault(event, []).append(handler)

    def notify(self, event, *args, **kwargs):
        for handler in self._subscribers.get(event, []):
            handler(*args, **kwargs)

# 使用例
mediator = EventMediator()
mediator.subscribe("login", lambda user: print(f"{user} がログインしました"))
mediator.notify("login", "Alice")

→ イベントハブとしての汎用的Mediatorも実装可能

4. 実務ユースケース

✅ UIコンポーネント間の相互作用（フォーム、モーダル、ボタン）

→ 特定の操作に応じた複数UIの状態変化を制御

✅ ゲームエンジン内のエンティティ調整

→ キャラクター・環境・UIがMediatorを通じて相互作用

✅ メッセージング・イベント伝達ハブ

→ モジュール間の通信路を集中管理

✅ チャットシステムのルーム内中継者

→ 各ユーザーはMediatorを介して発言を中継

5. よくある誤用と対策

❌ Mediatorが巨大なif文の塊になって複雑化する

→ ✅ 処理ごとにメソッド分割し、構造的に整理する

❌ Mediatorが単なるデータ通過点になってしまう

→ ✅ Mediatorは「調停者」として振る舞いの調整を担う設計にする

❌ 依存関係が完全に逆転してMediatorに全ロジックを押し付けてしまう

→ ✅ 各コンポーネントは自身の責務を持ちつつ、Mediatorに通知する構成にとどめる

結語

Mediatorパターンとは、“相互依存の渦を調停し、オブジェクトを独立させる設計”である。

複数オブジェクトのやり取りを1つのMediatorに集約し、依存を制御・構造を明確化
新たなコンポーネント追加も容易で、再利用性・拡張性に優れる
Pythonではクラスベース・イベントベースどちらでも表現可能で、動的な連携が構築できる

Pythonicとは、“やり取りを仲介者に委ね、各自は自身の責務に集中すること”。
Mediatorパターンはその調和の知性を、設計の静けさとして体現する技法である。