"並列化は武器だ。だが制御されなければ、ただの事故になる。"
現代のソフトウェアは、複数の処理が同時に動くことを前提に設計されている。
だが「同時に動く」ことは、必ずしも「協調して動く」ことを意味しない。
Adaは、単なる並行性を超えた、協調的・安全な並行構造を提供する。
その鍵を握るのが、Protected Object である。
複数からアクセスされる「状態」を守るには
共有変数へのアクセスは、レースコンディションやデッドロックの原因となる。
Adaはこの問題に、同期制御と排他制御を構文レベルで提供する。
protected type Buffer is
procedure Insert(Item : in Integer);
function Get return Integer;
private
Data : Integer := 0;
end Buffer;
この構造により、Data
への操作は 同期的かつ排他的 に実行される。
Protected Objectの思想:同期の意味論を構文にする
Protected Object(保護オブジェクト)は、以下を同時に満たす:
- 状態の一貫性を保証
- ロック不要で排他制御を提供
- 宣言的に同期構造を定義
これは、C++やJavaに見られる明示的なロックやmutex制御とは全く異なるアプローチだ。
安全な並行設計は、明示された意図から始まる
protected body Buffer is
procedure Insert(Item : in Integer) is
begin
Data := Item;
end Insert;
function Get return Integer is
begin
return Data;
end Get;
end Buffer;
どの処理がどの順序でどのように排他制御されるかを、構文上明示することで、
意図しない並行バグを「設計段階で消す」ことができる。
スケーラビリティと堅牢性の両立
Protected Objectは、単に「安全」であるだけでなく、リアルタイム制御との親和性が高い。
タイミング制御・優先度継承・デッドライン制御といった要素を自然に取り込める。
結語:協調する並行性を設計する
並行性は、プログラムの複雑さを加速させる力を持つ。
だがAdaはそれを、構文と抽象によって“設計可能な秩序”に変える。
Protected Objectとは、安全な協調のための構造的誠実さである。
"協調なき並行は暴走であり、設計なき共有は破滅である。"