概要

Decorator（デコレーター）パターンは、
あるオブジェクトに対して、元のインターフェースを保ったまま、機能を段階的に追加する構造パターンである。

継承ではなく構成（composition）を用いることで、既存コードの修正を一切加えずに柔軟な機能拡張を可能にする。
Pythonの文法におけるデコレーター構文（@）とは異なるが、設計思想としては共通している。

1. なぜDecoratorが必要か？

❌ 機能追加のために継承を繰り返す構造

class Coffee:
    def cost(self): return 300

class MilkCoffee(Coffee):
    def cost(self): return super().cost() + 50

→ 継承チェーンが増えるほど、柔軟性が低下し組み合わせの爆発が起こる

✅ 機能をラップして動的に積み重ねる

coffee = MilkDecorator(SugarDecorator(PlainCoffee()))
coffee.cost()  # → 拡張された合計

→ 拡張の順序・有無を自由にコントロール可能に

2. 基本構造

✅ Component（共通インターフェース）

class Beverage:
    def cost(self):
        raise NotImplementedError

✅ ConcreteComponent（元のオブジェクト）

class PlainCoffee(Beverage):
    def cost(self):
        return 300

✅ Decorator（共通のラッパー構造）

class CoffeeDecorator(Beverage):
    def __init__(self, beverage: Beverage):
        self._beverage = beverage

✅ ConcreteDecorators（拡張ロジック）

class MilkDecorator(CoffeeDecorator):
    def cost(self):
        return self._beverage.cost() + 50

class SugarDecorator(CoffeeDecorator):
    def cost(self):
        return self._beverage.cost() + 30

✅ 使用例

coffee = PlainCoffee()
print(coffee.cost())  # 300

decorated = MilkDecorator(SugarDecorator(coffee))
print(decorated.cost())  # 300 + 30 + 50 = 380

3. Python的応用：関数デコレーターと構造パターンの融合

def logging_decorator(func):
    def wrapper(*args, **kwargs):
        print(f"[LOG] 呼び出し: {func.__name__}")
        return func(*args, **kwargs)
    return wrapper

@logging_decorator
def greet(name):
    print(f"Hello, {name}!")

greet("Alice")
# → [LOG] 呼び出し: greet
# → Hello, Alice!

→ 関数ベースでもDecorator思想を自然に適用可能

4. 実務ユースケース

✅ UIコンポーネントへの装飾

→ ボタンに影・枠・アイコンなどを動的に追加する

✅ 認証・ロギング・トレースの挿入

→ メソッドやサービスに関心の横断的機能を非侵入的に注入

✅ ミドルウェアの設計（例：Flask / Django）

→ リクエスト処理をチェーン構造で構築する

✅ ストリーム処理（ファイル→暗号化→圧縮）

→ 段階的な加工をDecoratorで表現

5. よくある誤用と対策

❌ 複数のデコレーターを順序依存で設計してしまう

→ ✅ 各Decoratorは順序に依存しない独立性を保つ設計を心がける

❌ Decoratorが元のインターフェースを壊してしまう

→ ✅ Decorator は 元のメソッドと引数を忠実に模倣すべき

❌ Decoratorのネストが可読性を損なう

→ ✅ 構成順に名前を付けて変数に代入し、明示的なスタック構造に

結語

Decoratorパターンとは、“機能を段階的に包み込みながら拡張する柔構造設計”である。

継承に頼らず、構成とラップによって機能を動的に追加・削除できる
主処理と副作用（ログ・認証・スタイル等）を分離可能にし、再利用性を高める
Pythonでは関数・クラスの両レベルで、デコレーターの思想を直感的に実装可能

Pythonicとは、“動的で柔軟な拡張性を最小限の変更で実現する”ことであり、
Decoratorパターンはその重ねられた機能美を、洗練されたレイヤーとしてコードに織り込む技法である。