概要
Interpreter（インタプリタ）パターンは、
ある言語や表現を定義し、その文法構造に基づいて文を解釈・実行するためのデザインパターンである。
主に小規模な**ドメイン固有言語（DSL）**や、
表現の解析・評価・翻訳処理などに用いられ、
構文木を構築し、再帰的に評価することが特徴である。
1. なぜInterpreterが必要か？
❌ DSLや条件式を文字列のままif文で処理
if expression == "A AND B":
...
→ 新しい構文を追加するたびにロジックが肥大化し、拡張性が破綻する
✅ 文法と意味論をクラスで明確に構造化し、評価可能にする
expr = And(Variable("A"), Variable("B"))
expr.interpret(context)
→ 構文解析・意味解釈の責務を分離し、再利用と拡張が容易に
2. 基本構造
✅ AbstractExpression（共通インターフェース）
class Expression:
def interpret(self, context):
raise NotImplementedError
✅ TerminalExpression（終端記号）
class Variable(Expression):
def __init__(self, name):
self.name = name
def interpret(self, context):
return context.get(self.name, False)
✅ NonTerminalExpression（構文ルール）
class And(Expression):
def __init__(self, left: Expression, right: Expression):
self.left = left
self.right = right
def interpret(self, context):
return self.left.interpret(context) and self.right.interpret(context)
class Or(Expression):
def __init__(self, left: Expression, right: Expression):
self.left = left
self.right = right
def interpret(self, context):
return self.left.interpret(context) or self.right.interpret(context)
✅ Context（評価用の環境）
context = {
"A": True,
"B": False
}
✅ 使用例
expr = And(Variable("A"), Variable("B"))
print(expr.interpret(context)) # → False
expr2 = Or(Variable("A"), Variable("B"))
print(expr2.interpret(context)) # → True
3. Python的応用：構文木の文字列→構造変換（簡易パーサ）
def parse(tokens):
if len(tokens) == 1:
return Variable(tokens[0])
else:
left = Variable(tokens[0])
op = tokens[1]
right = Variable(tokens[2])
if op == "AND":
return And(left, right)
elif op == "OR":
return Or(left, right)
tokens = "A AND B".split()
expr = parse(tokens)
print(expr.interpret({"A": True, "B": True})) # True
→ 簡易構文解析器としての活用が可能
4. 実務ユースケース
✅ 独自クエリ言語の設計と評価
→ 例: "name == 'Alice' AND age > 30" のような条件式DSLの処理
✅ ルールエンジンの構文解釈
→ ビジネスルールや制御フローを構文木として定義・評価
✅ 数式エンジン・式の評価機能
→ 数学式・論理式の動的な解釈と再利用
✅ マクロ・テンプレート言語の内部処理
→ {% if %} や {% for %} などの制御構造の内部解釈
5. よくある誤用と対策
❌ 複雑な言語構文に無理してInterpreterを適用
→ ✅ Interpreterは小規模なDSLや制限付き文法に適する。複雑な文法にはParser Generatorを使用
❌ Expressionクラスが状態を持ちすぎる
→ ✅ Expressionは構文と評価の責務のみに留める
❌ Contextの設計が曖昧
→ ✅ Contextはシンプルなキー・バリューマップまたは環境クラスで分離する
結語
Interpreterパターンとは、“文をクラスで表現し、評価可能な構造として解釈する構文的設計”である。
- 言語的な記述（DSL）を、クラス階層と構文木で明示的に構造化
- 評価処理をオブジェクト化することで、ルールの再利用・動的生成・拡張が可能に
- Pythonではシンプルな構文DSLや条件式の評価ロジックを、直感的に構築できる構文設計が可能
Pythonicとは、“コードがそのまま表現になり、意味を持つ”こと。
Interpreterパターンはその設計的な言語化を、構文という形で具現化する知的技法である。