概要
Memento（メメント）パターンは、
オブジェクトの内部状態を外部に漏らすことなく保存・復元できるようにする設計パターンである。
特に「Undo / Redo」機能の実装や、履歴管理を設計する際に有効であり、オブジェクトのカプセル化を保ったまま状態復元が可能となる。
1. なぜMementoが必要か？
❌ 状態を直接外部にさらすと、意図せぬ変更やバグの原因になる
editor.content = backup_content # 外部で直接触るとリスク大
→ 内部構造を外部に晒すことで、再現性や安全性が崩れる
✅ 状態を「メメント」として保存・復元し、情報隠蔽を維持
memento = editor.save()
editor.restore(memento)
→ 安全にスナップショットを取り、状態を巻き戻せる
2. 基本構造
✅ Memento（スナップショット）
class Memento:
def __init__(self, state: str):
self._state = state
def get_state(self):
return self._state
✅ Originator（状態を持つ本体）
class Editor:
def __init__(self):
self._content = ""
def write(self, text):
self._content += text
def show(self):
print(f"[現在の内容] {self._content}")
def save(self):
return Memento(self._content)
def restore(self, memento: Memento):
self._content = memento.get_state()
✅ Caretaker（メメントの管理）
class History:
def __init__(self):
self._mementos = []
def push(self, memento: Memento):
self._mementos.append(memento)
def pop(self):
return self._mementos.pop() if self._mementos else None
✅ 使用例
editor = Editor()
history = History()
editor.write("Hello, ")
history.push(editor.save())
editor.write("world!")
editor.show() # [現在の内容] Hello, world!
editor.restore(history.pop())
editor.show() # [現在の内容] Hello,
出力:
[現在の内容] Hello, world!
[現在の内容] Hello,
3. Python的応用：copy.deepcopy で一時保存としてのMementoを表現
import copy
class MementoStyleList(list):
def snapshot(self):
return copy.deepcopy(self)
def restore(self, snapshot):
self.clear()
self.extend(snapshot)
→ 状態が複雑でもdeepcopyを使えば簡易Mementoが可能
4. 実務ユースケース
✅ テキストエディタのUndo / Redo
→ 各入力・操作に対してスナップショットを記録
✅ ゲームのセーブ・ロード機能
→ 現在のキャラクター状態や進行状況を安全に保存・復元
✅ フォーム入力の復元、履歴管理
→ 入力ミスやリセットに対して巻き戻し可能な履歴
✅ 設定変更前のロールバック
→ 設定適用前の状態を保持し、問題があれば元に戻す
5. よくある誤用と対策
❌ 状態が漏れてカプセル化が破られている
→ ✅ Mementoの中身は原則として公開しない設計にする
❌ Mementoに副作用を含めてしまう
→ ✅ 純粋な状態のみを保存するよう設計し、振る舞いは持たせない
❌ Mementoのサイズが大きくなりすぎてメモリ効率が悪い
→ ✅ 差分保存（Diff）や圧縮・間引き記録などで軽量化を検討
結語
Mementoパターンとは、“時間を保存する設計”である。
- 状態の保存と復元を安全に行い、情報隠蔽を保ったまま過去へ遡る機能を実現
- 編集操作やシステム状態に対して、巻き戻し・やり直しの設計自由度を高める
- Pythonでは、クラス・関数・コピー操作で柔軟かつ直感的に構築可能
Pythonicとは、“巻き戻せることを、設計によって自然に担保すること”。
Mementoパターンはその再現可能性を、構造に組み込む技法である。