概要
関数型プログラミングにおける最大の美学の一つは、「関数をつなぐ」という設計感覚である。
それは関数を独立した単位として設計し、それらを合成しながら全体の振る舞いを構築するというスタイルだ。
本稿では、F# を例に取り、関数合成とパイプラインの概念を明確化しつつ、
可読性・再利用性・拡張性を高める実装アプローチとしての価値を提示する。
1. 関数合成とは何か?
**関数合成(Function Composition)**とは、複数の関数を「つなげて新しい関数を作る」手法。
let f x = x + 1
let g x = x * 2
let h = f >> g // まず f, 次に g を実行
h 3 // => (3 + 1) * 2 = 8
-
>>
は「順方向の関数合成」 -
<<
は「逆方向(数学的な合成)」もサポート
2. パイプライン演算子 |>
の設計思想
パイプラインは、値を関数に順次“流し込む”構文
let result =
3
|> f // 3 + 1 = 4
|> g // 4 * 2 = 8
- 処理の順番が 「データフローとして可視化される」
- 実行順とコードの記述順が一致し、直感的に読める
3. パイプライン設計が強力な理由
利点 | 内容 |
---|---|
可読性 | 手続き的コードよりも、処理の流れが直線的に見える |
再利用性 | 関数が独立しているため、どこでも組み合わせられる |
宣言的構造 | 「どう処理するか」ではなく「何をしたいか」が明確 |
柔軟な拡張性 | 関数を差し込む・入れ替えるだけで振る舞いを変更可能 |
4. 関数合成 vs パイプラインの使い分け
スタイル | 使用場面 |
---|---|
>> / <<
|
関数自体を合成したいとき |
` | >` |
5. 実例:データ加工処理をパイプラインで設計
let trim (s: string) = s.Trim()
let toLower (s: string) = s.ToLower()
let removeSpaces (s: string) = s.Replace(" ", "")
let normalize =
trim
>> toLower
>> removeSpaces
let result =
" Hello World "
|> normalize // => "helloworld"
- 各関数は小さく、テストしやすく、再利用しやすい
- 振る舞いは合成され、最終的に一貫した出力が得られる
6. 設計判断フロー
① この処理は複数ステップの変換を含むか? → YES → 関数分割 + 合成
② 関数は値の変換に徹しているか? → YES → 合成可能性が高い
③ 読みにくいチェーンがあるか? → YES → `>>` または `|>` に切り替え
④ 途中に条件分岐や副作用が混ざっていないか? → YES → 抽出して制御する
よくあるミスと対策
❌ 全てのロジックを1つのパイプに詰め込む
→ ✅ 各関数の責務が不明瞭になる。関数分割して合成する
❌ 合成対象の関数が「値を返さない」
→ ✅ パイプラインでは“値を返す関数”のみをつなげるべき
❌ 副作用(IO、ログ出力など)を途中に挟む
→ ✅ 副作用は末端に限定するか、効果を明示して扱う
結語
関数合成とパイプライン設計は、
「ロジックを部品化し、構造として繋ぎ、再構成可能なシステムへと昇華する手法」である。
- 複雑な処理を小さな関数に分割し
- 意図した順序で合成し
- 宣言的かつ柔軟に再構築できるようにする
関数型の合成とは、
“ロジックを部品として再定義し、意図をフローとして構築する構造設計の技術である。”