概要

Prototype（プロトタイプ）パターンは、
インスタンスの作成コストが高い・初期化が複雑なオブジェクトを、複製（クローン）によって再生成する設計パターンである。

工場のように新しいインスタンスを生成するのではなく、“元になるオブジェクト”を複製して使い回すことに重点がある。

1. なぜPrototypeが必要か？

❌ 毎回オブジェクトを初期化するコストが高い

obj = ExpensiveObject(config, state, dependencies)

→ 生成のたびに大量の初期設定や依存解決が必要

✅ 元となるオブジェクトを複製して新しいインスタンスを得る

clone = prototype.clone()

→ 設定済みのオブジェクトを複製することで、コスト削減・初期状態の維持が可能に

2. 基本構造

✅ Prototypeインターフェース

import copy

class Prototype:
    def clone(self):
        return copy.deepcopy(self)

✅ 複製される具体クラス

class Document(Prototype):
    def __init__(self, title, content):
        self.title = title
        self.content = content

    def display(self):
        print(f"[{self.title}] {self.content}")

✅ 使用例

original = Document("設計書", "初期状態のコンテンツ")
original.display()

copy1 = original.clone()
copy1.title = "設計書コピー1"
copy1.display()

copy2 = original.clone()
copy2.title = "設計書コピー2"
copy2.content = "別のコンテンツ"
copy2.display()

出力:

[設計書] 初期状態のコンテンツ  
[設計書コピー1] 初期状態のコンテンツ  
[設計書コピー2] 別のコンテンツ

3. Python的応用：辞書やリスト構造でもPrototype的に使える

import copy

template = {
    "type": "user",
    "settings": {
        "theme": "dark",
        "notifications": True
    }
}

user1 = copy.deepcopy(template)
user1["settings"]["theme"] = "light"

user2 = copy.deepcopy(template)
user2["settings"]["notifications"] = False

→ 構造のテンプレートをそのままPrototypeとして活用可能

4. 実務ユースケース

✅ フォーム・UIコンポーネントの初期状態テンプレート化

→ 同一設定のフォームを複製して利用可能に

✅ ゲームキャラクターやアイテムの雛形からの生成

→ ステータス・見た目・装備を保持した状態でのクローン

✅ モデル・設定済みオブジェクトのベースインスタンス

→ 学習済みAIや事前設定済みモデルの複製

✅ 書類・帳票・申請書テンプレートの複製

→ 「原本」からの生成が必要なビジネス領域において有効

5. よくある誤用と対策

❌ 浅いコピーで内部構造が共有されてしまう

→ ✅ copy.deepcopy() を使用し、完全な独立複製を保証する

❌ 複製元に依存しすぎて動的変更に対応できない

→ ✅ クローン後の状態変更が許容されるように設計する

❌ 初期化と複製の責務が混在する

→ ✅ __init__ と clone() の役割を明確に分離

結語

Prototypeパターンとは、“構築済みの知性を複製し、再利用可能な初期状態を創出する設計”である。

オブジェクトの初期化コストや設定の手間を削減し、複製による生成を効率化
複雑な構造や状態を維持したまま再利用でき、一貫したテンプレート設計が可能
Pythonでは copy モジュールと柔軟なデータ構造により、極めて簡単に実装可能

Pythonicとは、“使いまわせるものは、賢くコピーすること”。
Prototypeパターンはその再利用性を、設計とスピードの両立に昇華する技法である。