概要
Interpreter（インタープリター）パターンは、
文法ルールに従った構文（言語）を定義し、それを評価（解釈）するためのクラス構造を用いてドメイン固有言語（DSL）を実装する設計パターンである。
四則演算、条件文、コマンド解釈、数式処理など、
小規模な構文系を再現可能にし、動的に構造化された振る舞いを構築することができる。
1. なぜInterpreterが必要か？
❌ DSLを文字列で解析しようとする煩雑な処理
def eval_expr(expr):
if expr == "1 + 2":
return 3
→ パターンが増えるごとに if/else が増え、構造的拡張が困難
✅ 各構文要素をクラスで定義し、再帰的に解釈できるようにする
expr = Add(Number(1), Number(2))
expr.interpret() # → 3
→ 式の構造をオブジェクトで表現し、意味的な解釈が可能に
2. 基本構造
✅ 抽象式クラス
class Expression:
def interpret(self):
raise NotImplementedError
✅ 数値ノード（終端）
class Number(Expression):
def __init__(self, value):
self.value = value
def interpret(self):
return self.value
✅ 非終端式ノード（加算）
class Add(Expression):
def __init__(self, left: Expression, right: Expression):
self.left = left
self.right = right
def interpret(self):
return self.left.interpret() + self.right.interpret()
✅ 使用例
expr = Add(Number(4), Add(Number(2), Number(3))) # 4 + (2 + 3)
print(expr.interpret()) # → 9
3. Python的応用：DSL構築と構文木の表現
✅ AND / OR 検索クエリの例
class Terminal(Expression):
def __init__(self, keyword):
self.keyword = keyword
def interpret(self, context):
return self.keyword in context
class And(Expression):
def __init__(self, left, right):
self.left = left
self.right = right
def interpret(self, context):
return self.left.interpret(context) and self.right.interpret(context)
expr = And(Terminal("Python"), Terminal("Tips"))
print(expr.interpret("Python Tips Article")) # → True
print(expr.interpret("Python Design")) # → False
4. 実務ユースケース
✅ DSLベースの構成ファイルやルールエンジンの実装
→ 条件・数式・構成定義などを式として構造化解釈
✅ 検索クエリ・フィルタエンジン
→ AND/OR/NOT を式ツリーとして評価し、柔軟な条件検索
✅ 数式処理・簡易言語の構築（電卓、式エンジン）
→ 数学DSLの解釈・計算・変換に最適
✅ 自然言語処理・構文分析のトイ実装
→ 文法規則に基づく再帰下降型のパーサ実験などに応用
5. よくある誤用と対策
❌ 抽象構文木の構築と評価処理が密結合
→ ✅ 解釈ロジックは interpret() に閉じ、構文構築は別レイヤーで
❌ 状態を内部に持ちすぎて評価が不安定
→ ✅ インターフェースは明示的に interpret(context) のようにし、明確な引数で評価
❌ 構文パターンの拡張が面倒になる設計
→ ✅ 継承ではなく合成による構造拡張を基本とし、柔軟性を保つ
結語
Interpreterパターンとは、“構文と意味の対応関係をコード構造で明示化する技術”である。
- 文法の各要素をクラスとして明示し、意味解釈を責務として定義
- 再帰的な式処理、DSLの実装、ルールエンジンなどに応用可能
- Pythonのオブジェクト指向特性により、抽象構文木と意味解釈の実装が極めて直感的に
Pythonicとは、“構造を持った表現をコードとして操作可能にすること”であり、
Interpreterパターンはその言語的構造性を、柔軟な評価フローとして表現するための設計技法である。