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"コードは書かれるものではなく、生成されるものになる。その瞬間、言語と実行の境界は消える。"

かつてプログラムは「書かれ」「コンパイルされ」「実行される」ものだった。
だが現代の実行環境はそれを許さない。

  • JavaScript の高速実行
  • Java VM の実行時最適化
  • GPU でのオンデマンドシェーダ生成
  • WebAssembly におけるコード変換

これらすべてに共通するのが、JIT(Just-In-Time)コンパイルという技術である。

この章では、JITコンパイラの視点から、
アセンブリ命令がいかに“生成される対象”へと変化していったかを探っていく。


JITコンパイルとは何か?

JIT(Just-In-Time)コンパイルは、実行時にソース(または中間表現)から
ネイティブコード(≒アセンブリ)を生成し、即座に実行する仕組み。

通常の流れ:

  1. バイトコード/中間表現(IR)を解釈
  2. 実行タイミングでネイティブ命令列を構築
  3. メモリ上に配置し、実行権限を付与
  4. callまたはjmpによりジャンプ

つまり、コードを「命令」として動的に構築し、即座に実行する世界である。


なぜJITが必要なのか?

  • インタプリタのボトルネックを打破したい
  • データに最適化された命令列を生成したい
  • 動的言語の柔軟性と、ネイティブコードの速度を両立したい
  • ランタイム情報(分岐予測、型情報)を活用したい

JITは「万能薬」ではない。
むしろ、「静的な世界では到達できない最適化領域」に踏み込むための設計者の賭けである。


アセンブリでJITを行うとはどういうことか?

JITをアセンブリレベルで理解するには、
**「自分自身のコードを書きながら、メモリに命令を埋め込む」**という行為を伴う。

具体的には:

  1. ヒープやページに実行権限付きメモリ領域を確保(例:mmap with PROT_EXEC
  2. 機械語バイト列を手動で書き込む
  3. 関数ポインタとしてキャストして呼び出す

例(Linux x86_64):

unsigned char code[] = {
  0xB8, 0x2A, 0x00, 0x00, 0x00,  // mov eax, 42
  0xC3                          // ret
};
int (*func)() = (int(*)())code;
printf("%d\n", func()); // 出力: 42

ここで 0xB8mov eax, imm320xC3ret に対応する。
このように、バイト列をそのまま命令と認識させて実行することができる。


自作JITの設計:基本構造

JITは、以下の4層構造で設計されることが多い:

  1. 入力(ソース・中間表現)
  2. 命令選択・レジスタ割り当て(IR→機械語)
  3. メモリ配置とエミッション(コード書き込み)
  4. ジャンプ/コールによる実行

アセンブリ生成はこの中で第3層に相当するが、
性能差・命令長・依存性の管理に深く関わるため、全体構造への影響も大きい。


アセンブリJITにおける注意点

  • 命令境界の整合性
    • x86は可変長命令:書き間違えると即クラッシュ
  • 命令キャッシュへの同期
    • 一部環境では __builtin___clear_cache() が必要
  • メモリ保護
    • mmap() または VirtualAlloc() を正しく用いて、PROT_EXEC を付与
  • アライメント
    • AVX等では命令アライメントが性能に影響

つまり、アセンブリJITは**単なる“コードを書くだけ”ではなく、
「実行空間そのものを設計する仕事」**でもある。


現実のJIT実装とアセンブリ生成

ランタイム JITエンジン 備考
Java JVM HotSpot x86命令を生成してメモリ上に配置し実行
.NET CLR RyuJIT .NETのILをネイティブに変換
JavaScript TurboFan (V8), IonMonkey ランタイム最適化あり
WebAssembly Cranelift, Wasmtime WASMバイナリをJITで実行
LuaJIT DynASM アセンブリDSLで命令を構築する軽量JIT

これらはすべて、アセンブリ生成を“動的に行う”構造を内包している。
つまり、アセンブリは今や**「書かれる」ものではなく、「生成される」もの**なのだ。


アセンブリJITは未来を先読みする設計行為

JITは決して「速くする魔法」ではない。
むしろ:

  • 設計と実行の融合
  • 構文と最適化の協調
  • 構造の再構成

という観点において、
「言語」「実行環境」「アーキテクチャ」のすべてをまたぐ統合設計技術である。


結語:動的に命令が生成される時代に、設計は何を問うか?

アセンブリは、
もはや「職人が書くもの」ではなく、
システムが生成し、設計者が制御する対象となった。

  • どの命令をいつ生成するか
  • それはどのデータと結びつくのか
  • どの瞬間に最適化されるのか
  • 誰がその責任を負うのか

これらすべてが、JITの設計によって決まる。

"設計とは、命令を書くことではない。命令がどのように生まれ、実行され、最適化されるかを支配することである。"

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