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crateとpackageの文化的役割

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"構造は技術的な選択であり、文化はその技術の使い方を決める。"

Rustのプロジェクトを触ると、誰もが遭遇するのが「crate」と「package」という二つの概念だ。
表層的には似て見えるこの二つは、構文的な違い以上に、“設計の単位”と“配布の単位”という役割の差を持っている。

そして、それは単なる技術的構造ではない。
**Rustという言語がコミュニティと共に育んだ「構造的信頼文化」**の現れでもある。

この章では、crateとpackageの違いと役割、そしてその背景にあるRust特有の文化的設計思想を深掘りしていく。


crateとは「コンパイル単位」である

Rustにおいて、crateとは1つのコンパイル単位である。
例えば次のような構成があった場合:

src/
  └── lib.rs

このプロジェクトのcrate名は、デフォルトでCargo.tomlの [package] name = "your_project" に由来する。
そして lib.rs がこのcrateのエントリポイントになる。

  • crateは1つのバイナリ/ライブラリとしてコンパイルされる
  • crateは明示的に外部に公開するインターフェースを持つpub

つまり、crateとは**「この単位で他者に意味のある機能を提供する」という構造的表明**なのだ。


packageとは「配布単位」である

一方で、Cargo.tomlが定義するのは package。
これは**crateをひとつ以上含む“プロジェクト全体”**であり、Cargoによってビルド・テスト・公開される単位でもある。

[package]
name = "myapp"
version = "0.1.0"
edition = "2021"

[dependencies]
serde = "1.0"
  • packageは1つのCargo.tomlで管理されるもの
  • 複数のcrate(例:lib.rs, main.rs, bin/foo.rs など)を内包できる
  • crates.ioへの公開、依存解決、バージョン管理の最小単位

つまり、**packageはプロジェクトの“社会的な顔”であり、crateはその“構造的な体”**である。


クレートは“設計された意味の粒度”である

良いcrate設計とは、次のようなものだ:

  • 明確な責務(小さすぎず、大きすぎず)
  • 公開APIが少数精鋭で整備されている
  • mod によって適切に名前空間が整理されている
  • lib.rs によってcrateのドメイン的エントリポイントが定義されている

これはまさに、**機能的かつ文化的に洗練された“構造体”**である。


クレート境界は、構文で強制される“信頼の壁”

Rustでは、別crateの関数や型にアクセスするには、明示的に pub で公開されていなければならない
これは「意図しない依存や侵入をコンパイラが拒絶する」ことを意味する。

つまり、crate境界とは:

  • 意図を越えた使用を防ぐ構文的防壁
  • 意図をもって設計されたAPIだけが見える構造的レイヤ
  • 設計の独立性を支える分離機構

設計者は「どこまでをcrateに閉じ込めるか」「どこからを開くか」を構文によって定義できる。


package文化:Cargoによる構造と信頼の共有

Rustが世界的に成功した理由の一つが、Cargoの存在だ。

  • cargo new による標準構成の強制
  • cargo build, cargo test, cargo doc, cargo publish による一貫運用
  • crates.ioというグローバルな共有の場を持つ

つまり、Rustのpackageは設計された構造を、設計された方法で、設計された場所に流通させる文化的仕組みなのである。


“1つのcrateに1つの責務”という思想

Rustでは、「細かく分離し、それぞれが責任を持つcrateを設計する」ことが推奨される。

  • serde → シリアライズの責任を持つ
  • regex → 正規表現処理の責任を持つ
  • clap → コマンドライン引数解析の責任を持つ

これは、設計責務に忠実なcrate群によって構築される、分散された信頼ネットワークである。
その上で構成されるpackageは、構造と文化の集約点として機能する。


結語:crateとpackageは「構造」と「社会性」の結節点である

Rustにおけるcrateとpackageは、ただの技術的単位ではない。
それは、構文による設計の粒度と、文化的流通の責任を分離・管理する設計装置である。

  • crate:設計の粒度(設計者の視野)
  • package:流通と共有の粒度(社会との接続点)

構造は構文で定義される。
だが、その構文が文化と結びついたとき、それは**言語を越えた“設計の信用体系”**になる。

"crateは構造の単位であり、packageは信頼の単位である。Rustはその境界を、設計者に問う構文を持っている。"

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