#1. はじめに
古典的なタイマー IC である 555 の内部回路を、単体(ディスクリート)トランジスタで実現するプリント基板を作成しました。中国の製造業者がプリント基板を安価かつ短納期で試作してくれます。個人でもプリント基板の設計発注が容易になっていて、555 はトレーニングに適切な題材と思いました。
先例として、雑誌記事1(初出2)ではユニバーサル基板での製作と動作の詳しい解説があります。大変参考になります。これとは別にプリント基板と部品を合わせたキット3456を販売しているベンダがあります。
#2. 工夫点
オシロスコープによる波形観測を容易にするためにテストポイントを設けます。トランジスタや抵抗などの部品の足やパッドから信号を取り出す必要がなくなり部品を比較的詰めて配置できます。
#3. 回路
入力した回路図です。KiCad^31-1を使用しています。
555の内部回路の変遷は、pegons-web7に詳しいです。最も古い"Innenschaltung des NE555 (Original-Schaltung 1971)"をベースにしました。部品の識別子(Q1, Q2, .. R1, R2, ..)も、この回路図(1971)をベースにします。違いは以下のとおりです。
識別子 | オリジナル回路(1971) | 今回製作した回路 |
---|---|---|
Q26 | Q19のマルチコレクタ端子 | PNPトランジスタを追加 |
R2 | 330Ω | 820Ω |
R10 | 82kΩ | 10kΩ |
R17 | 存在しない(=0Ω) | ジャンパー(0Ω) |
R7, R8, R9 | 5kΩ | 5.1kΩで代用 |
Q26は、マルチコレクタのトランジスタが入手困難であるため、追加したトランジスタです。
R2, R10は、回路図(1971)の欄外の注釈(Mit R2=820 und R10=10k entspricht die Schaltung der Abblidung "Fig. 11-3" im Buch "Designing Analog Chips", Chapter11: Timers and Oscillators(2005, Hans Camenzind))を参考にしました。R2 は、その後の回路でも830Ωなどとなっています。R10は、単体トランジスタの場合、82kΩ では電流が不足する可能性があると先の雑誌記事にあります。
R17 は、この位置に"STMicroelectronics-Datasheet 1998, 2008" で 100kΩ が追加されています。ジャンパー(0Ω)に替えて100kΩでも実験できる様にしました。
R7, R8, R9 は、入手の容易な5.1kΩ で代用します。
#4. 組立
プリント基板のシルク印刷に抵抗値等がありません。回路図および組み立て図を参照しながらの作業になります。背の低い部品から順にハンダ付けしていきます。抵抗、コンデンサ、テストポイント、ピンヘッダ、トランジスタの順がよいと思います。
#5. 動作
以下のテスト回路での動作の様子です。
オシロスコープの波形の上から Ch1, Ch2, Ch3, Ch4 です。
- Ch1: TP15 (output)
- Ch2: TP5 (Trigger)
- Ch3: TP8 (Threshold Comparatorの出力。Flip-Flopをリセット)
- Ch4: TP9 (Trigger Comparatorの出力。Flip-Flopをセット)
ブレッドボードへの接続は、変換基板8にピンソケット9と細ピンヘッダ10を取り付けたものを使用しました。
#6. おわりに
今回の資料を GitHub11に置きました。余った基板をスイッチサイエンス様のマーケットプレイスで委託販売12しています。ICの内部では多数のトランジスタが協調して動作しているわけですが、目には外部の LED ぐらいしかわかりません。内部のテストポイントから波形を観測できることは、電子回路の理解を深めるのに確かに役立つと思います。参考にさせていただいた文献の著者、関係者に感謝します。
#7. 追加
動作するメガ 55513の記事がありました。真空管で製作した動画14があります。