概要
社会人2年目が終わるので、この1年間で読んだ本150冊のうち技術寄りの本から45冊をざっくり紹介します。
1年目はこちら。
※2024年3月追記
本記事で読んだ書籍は2022年4月から2023年3月までに読んだものです。
最新のトレンドや2023年4月以降に出た書籍は反映されていません。
説明
オススメ度は10段階です。昨年は1年目としての主観難易度も付けていましたが、2年目になるとキャリアプランの方向性によって積み上げがバラバラだと思うので、やめました。
ジャンル内の順序は、「この順で紹介文を見せたい」でフワッとソートしていて、具体的にはオススメ度降順や難度昇順ですが、明確な比較関数はありません。
雑誌や、読了したけど紹介する必要がないと感じた書籍は割愛しがちです。特に良かった特集は時々紹介します。
プログラミング言語
Rust
『手を動かして考えればよくわかる 高効率言語 Rust 書きかた・作りかた』
オススメ度★8
特にPythonが読める人にオススメのRust入門書です。
サンプルコードが常にPythonとRustで書かれているので、「これって他の言語だとどう書くんだろう」というのがよく分かりました。
サンプルが豊富で題材も面白く、後半では画像加工からちょっとしたプログラミング言語作成まで行います。
網羅的に機能が解説されていて手を動かしながら理解できる一方で、Rust特有のコンピュータサイエンス的に高度なトピックはオライリー本などに任せることにして割愛していて、1冊目に読むRust本としてとても良書だと感じました。
C++
『C++ 入門書の次に読む本』
オススメ度★3
「C言語をある程度知っていてC++入門書もしっかりやった人」向けです。他の言語からC++に入門した人が読むと、C言語の知識が前提とされていて厳しいかなという印象です。 コンストラクタ、演算子のオーバーロード、イテレータの説明が「入門書の次」という位置づけの割にかなり詳しいところがよかったです。
JavaScript
『[ゲーム&モダンJavaScript文法で2倍楽しい]グラフィックスプログラミング入門 ——リアルタイムに動く画面を描く。プログラマー直伝の基本』
オススメ度★8
Canvas2D入門や必要な数学知識の補完から始まって、題材としてシューティングゲームを作っていく本です。非常に良書ですが、これでJavaScript文法を学ぶのは大変で、多少のJavaScript知識とそこそこのプログラミング知識を持っていた方がスムーズだと思います。
また、単にちょっとブラウザゲームを作りたいだけであればまずは手軽にゲームエンジンを使って作る方が挫折しにくく、仕組みを学びたいという欲求が沸いてきてから読めばいいかなと思います。
C#
『C#の絵本 第2版 C#が楽しくなる新しい9つの扉』
オススメ度★5
超入門でお馴染み「絵本」シリーズのC#。コンピュータが動く仕組みに章を割いているのが特徴的で、基本情報を取りたい層の教養としても良さそうです。
C#の文法紹介としては普通に良いと思います。これが1言語目なら読んでおくと挫折しにくくなると思いますし、2言語目以降なら学習を始める前にパラパラ読んでおくと概観を掴めるシリーズ。
C#のUdemy
プログラミング言語がある程度分かっていて、Windowsデスクトップアプリを作るためにC#に初めて触れる場合、Udemyの『経験ゼロからC#プログラミングがある程度出来るようになる方法【Windows Forms編】』という講座が良かったです。
講師のピーコックアンダーソンという方はC#でいろいろなUdemy動画を出しており、例えばオブジェクト指向のSOLID原則についてコードを用いながら10時間くらい掛けて解説しているような動画はユニークで有用だと思いました。会社のお金でUdemyが観られる環境であればオススメです。
データベース・SQL
『オラクルマスター教科書 Silver DBA Oracle Database Administration I』
オススメ度★7
黒本。白本が新試験に対応していないので、Oracle Silver DBA対策のデファクトスタンダードです。試験範囲が網羅されている一方で、解説があっさり目なので、Bronze相当の前提知識がないと読むのはキツイかなと思います。
資格が必要だったわけではないのですが、RDBMSの実用的な製品について1つ幅広く抑えてくために読みました。「序盤の環境構築周辺の章ってRDBMSの非本質では?」と思っていましたが、仕事の問題解決に役立ったので、必要です。
『プロとしてのOracleアーキテクチャ入門【第2版】(12c、11g、10g 対応) 図解と実例解説で学ぶ、データベースの仕組み』
オススメ度★10
暗記すべき項目が網羅的に書かれている資格対策本と比較して、低レイヤの仕組みが丁寧に書かれていて、とても勉強になりました。オススメ。
『徹底攻略 データベーススペシャリスト教科書 令和4年度』
オススメ度★8
基礎知識が満遍なく解説されている本です。
応用情報くらいのデータベース分野の知識があれば読めて、読み終えた頃にはデータベーススペシャリスト午前Ⅱの学習が始められるようになります。
『情報処理教科書 データベーススペシャリスト 2022年版』
オススメ度★5
午後の試験対策としてかなり踏み込んでいる点と、大量ボリュームの過去問や用語集をダウンロードできる点が特徴です。午後に不安がある場合、これをやり込めば良さそうです。 逆に1冊目としては『徹底攻略〜』の方が基礎知識を満遍なく解説しているので良いかなと思います。
データベーススペシャリストは、「徹底攻略を通読して概観を掴む」→「過去問ドットコムで午前8割取れるようにする」→「本書で午後の問題と解説を読む」という流れで学習しました。何度か手を動かして午後Ⅰを解いた方がいいと思いますが、全て解くのは重すぎますし、そこまでやり込まなくても合格点は取れるようになるので、資格対策という意味では本書は問題と解説を眺めるくらいでいいのかなという感じです。
『WEB+DB PRESS Vol.122』
オススメ度★7
特集3の「Rustで実装!作って学ぶRDBMSのしくみ」が面白かったので紹介です。
ディスクマネージャーやバッファプールマネージャーのような、RDBMSの最下層を作りながら学べる特集です。
「RDBMSを自作」と言われると自作の中でもハードそうに聞こえますが、「テーブル作成や行挿入、検索はできるが、更新や削除はできない」「実行計画の作成やトランザクションはない」「セカンダリインデックスはある」など、テーマを限定したミニシステムで、RustとRDBMSについてある程度の知識があれば、土日でも十分やり切れる分量です。
その他
SQLについて、「SELECTやJOINは書けるけど集計系の文や副問い合わせはあまり書いたことない」という場合はアルゴ式が手ごろです。
アルゴリズム
『競技プログラミングの鉄則 ~アルゴリズム力と思考力を高める77の技術~』
オススメ度★10
普通のエンジニアや情報系学生が競技プログラミングを始める上で今1冊読むなら、これが超オススメです。他の競プロ本と比較した際に、本書は競プロ初級から中級レベルまでフォローしている点と、2022年現在最新のAtCoderのコンテストを想定している点が長所です。
『グラフ理論入門:基本とアルゴリズム』
オススメ度★5
学部生の頃に1度読んだ本の再読です。
「講義指定の教科書が難しいからとっかかりとして使う」「非情報学部から情報系の院に進学したく、院試対策の1冊目として使う」「非情報系で競プロをしていて、理論的な背景や普段使ってるアルゴリズムの正当性証明に興味が出たので読む」ならとても平易で分かりやすいです。薄く、章末問題の解説も載っており、とても1冊目向きです。
一方で、例えば最短経路のアルゴリズムがダイクストラしか載っていないなど、紹介されている定理やアルゴリズムが限られているので、競プロのために新しい知識を仕入れたいという場合は不向きです。また、学部講義1コマ分よりも内容が絞られているので、グラフ理論をしっかり学びたいなら2冊目に別の本を読む必要があります。
『石取りゲームの数学: ゲームと代数の不思議な関係』
オススメ度★7
ニムとかGrundy数を初歩から学べる本。高校生向け講座や学部講義が出発点なので、4章あたりまではかなり読みやすいです。この本を手に取る動機が「プログラミングコンテストなどのゲーム問題に強くなりたい」であれば、その目的に適っています。後半は今の自分にはスコープ外だったのでざっと眺めた程度ですが、群論や体論の補講もありますし、気合い入れれば門外漢でも数式を追えるくらい丁寧に書かれている印象でした。
『パズルで鍛えるアルゴリズム力』
オススメ度★5
割とレベル高めです。計算量削減やBFS, DFSあたりが分からないと序盤からツラそうで、その場合は著者の前作がオススメです。
単純な全探索から始まって、編集距離DP, bitDP, iDA*, α-β探索などの高度なアルゴリズムを駆使したパズルソルバーの作り方を学べます。二分マッチングへの非自明な帰着や、パズルを作るソルバーなど、他のアルゴリズム本では見ない内容も含んでいて、とても面白かったです。 競技プログラミング的にも特にAHCの部分問題には活用できそうです。
『組合せ最適化―メタ戦略を中心として』
オススメ度★6
ヒューリスティックの体系的な学習として読みました。大学レベルの教科書の中では初学者向けと評判が良く、実際その通りではありましたが、目次の1-4章の単語が多少分かっている状態でないとおそらく読み進めるのがツラいと思います。ヒューリスティック系のプログラミングコンテストに数回出てから読むと良さそうです。
『プログラミングコンテストチャレンジブック [第2版] ~問題解決のアルゴリズム活用力とコーディングテクニックを鍛える~』
オススメ度★8
蟻本と呼ばれる、競技プログラミングの古典的な名著です。古典的といっても10年前ですが。
類著にはないハイレベルな問題まで解説された代替の効かない良著なのですが、2023年現在とは難易度感覚の異なるテーマもあり、競技プログラミング本としては最後に読む(最後には必ず読む)ラスボス的な本です。
後ろの方は理解しきれたとは言い難く、類題が出ても解ける気がしないので、また改めて読みたいです。
競技プログラミング
アルゴリズムを実践的に学びたい場合、プログラミングコンテストに出るのが近道です。
純粋なアルゴリズム能力の向上以外にも役に立ち、オススメです。以下の記事にまとめました。
ネットワーク
『マスタリングTCP/IP―入門編―(第6版)』
オススメ度★8
エンジニアの標準的な教科書。構えていたよりは難しくなく、応用情報午後レベルのネットワークが分かっていれば十分読めると思います。アルゴリズムがある程度分かってないとプロトコルの詳細は難しいかもですが。一度では覚えきれないので、必要に応じて再読するためにも手元にあるといい本かなと。
『図解入門TCP/IP 仕組み・動作が見てわかる』
オススメ度★7
『マスタリングTCP/IP』に真っ向から挑んでいる骨太で網羅的なネットワーク入門書。入門書とはいえ、やはり応用情報レベルの知識なしに0から通読するには難しそうで、難度も使い方も『マスタリングTCP/IP』と似ています。片方読めばいいかなと。こちらの方が図解が多く分かりやすいという意見も多いですが、個人的には『マスタリングTCP/IP』の方が大学の教科書的な構成になっていて読みやすいと感じました。
書店で読み比べて好みの方を買うか、その時改版がより新しい方を選べばいいのではないかと思います。
『[改訂新版] 3分間ネットワーク基礎講座』
オススメ度★8
講義調で、OSI参照モデルとはなんぞやというところからザッとネットワークを解説した入門書です。
『マスタリングTCP/IP―入門編―』等と比べると基本的な内容で、1年目で感想を書いた『擬人化でまなぼ! ネットワークのしくみ』くらいの難度感です。応用情報の副読本などに使えます。改定新版でも2010年発売ですが、基礎レベルで扱われるような内容というのはあまり変わってないので支障はなさそうです。
『[改訂新版]3分間ルーティング基礎講座』
オススメ度★10
ルーティングについて初歩レベルから丸々1冊分解説されている良著。 『マスタリングTCP/IP』などの凝縮された記述で咀嚼しきれなかった部分も、この本はページを割いて講義調で説明してくれているのでスッと理解できて易しいです。
自分は読んでいませんが、DNS編とHTTP&メールプロトコル編の続編もあります。
AI
『AIってそういうことか! ビジネスの現場で使えるPFN式活用法』
オススメ度★10
AIの本は多数あれど、「専門家が書いた」「ビジネスパーソン向け」のセグメントでこの本に優るものはしばらく出ないであろう稀有な書籍。どんな分類があって、今どんなことができて、近い将来何ができそうかということを、国内最強組織の精鋭が分かりやすく綴っています。帯コメントの「100冊のデジタル関連本よりもまずはこれ」に誇張は一切なく、非常に価値のある1冊です。
ただし2022年9月発売で、ChatGPT公開前に書かれた本である点には留意が必要です。
メタバース・XR
『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』
オススメ度★10
ITエンジニア本大賞2023のビジネス書部門大賞。
メタバース関連で1冊読むならこれ。現時点で最も成功しているメタバースである(VRchat等の)ソーシャルVRの文化と要素技術についてディープに記述されている……までなら期待通りですが。加えて学者との共同調査や技術·学術会議での成果発表を通して専門家の協力と情報が集約されていて、定義論や人類学的考察についてもメタバース本の中で頭5つくらいズバ抜けた完成度です。
『メタバース さよならアトムの時代』
オススメ度★9
子どもの頃からプログラミングをしていて現在は実際にメタバース事業で日本のトップを走っているcluster CEOの著書で、壮大なビジョンと技術的・ビジネス的な高い解像度を持ち合わせた稀有なメタバース本。過去〜現在についても質が高くまとまっているし、未来を語った第6章も勉強になります。 本書も「ITエンジニア本大賞2023 ベスト10」に選出されていました。
『メタバースでできる100のこと』
オススメ度★8
分野も話題もとても幅広い上に新しく、雨宮先生の監修も入っていて、現時点の優良なメタバース本の1冊です。上司に「こういうのってもうあるの?」と訊かれた時に大体これに載ってる事例で乗り切れました(数年後には古くなっていると思うので、2023年3月時点では、です)
『トコトンやさしいVRの本』
オススメ度★4
VRの沿革やハード関連の話、五感の科学やVR酔いの仮説などを学べて面白いです。
自分が読んだのは初版ですが、最近第2版が出てメタバース関連の章が追加されたそうです。
『図解まるわかり メタバースのしくみ』
オススメ度★1
ビジネス目線のメタバース本としては、かなり包括的でフェアに書かれています。まだ実績の少ない分野の未来を語っている以上、既に実態のある上述の書籍と比べてフワッとしてるのは現状仕方なく、概論とビジネス応用の章は良かったです。しかし、NFTの理解が怪しいのは目を瞑るとしても、プログラミングの章などに明確な誤りが多いのは残念。技術者と共著にすれば防げたはず…。「まずはユーザとして楽しむ」というメッセージは良かったですが、ソーシャルVRの記述も表面的で、著者がどれくらい熱心なメタバースユーザなのか疑問に思ってしまいました。
『VRChatの歩き方』
オススメ度★4
チュートリアルや機能解説だけでなく、オススメワールドやインタビューの章が充実していてよかったです。
Web3
『シリコンバレーのエンジニアはWeb3の未来に何を見るのか』
オススメ度★10
諸手を挙げてオススメできるWeb3入門書がついに出ました。これまで、Web3の未来を語る本はそもそも著者が実際に現在のWeb3アプリケーションを自分で開発することすらしておらず雰囲気だけで語っており、一方でWeb3フレームワーク開発者が出している鈍器は内容は正しいけど難しすぎるという状態でした。しかしこの本は、中島聡さん自らどっぷり開発に浸かった上で、初学者向けに概要も要素技術も正しくフラットな情報を提供しています。
何ができて何ができないとか、著者自身はどういうところに未来を感じていて今何を作っているかという点もよく分かり、Web3を冷静な目で見れるようになるとともに、正しくワクワクできるようになる本です。
『入門 仮想通貨の作り方 プログラミングで学ぶブロックチェーン技術・ハッシュ・P2Pのしくみ』
オススメ度★8
仮想通貨の要素技術を学んで、さらに実際に簡単なオリジナルの仮想通貨をPythonで自作する本です。
作成する仮想通貨は極初期のビットコインより更に初歩的で、例えば要素技術の章で扱ったマークルツリーを使わず、正当性検証も一部しか行わず、コインの送信も1コインずつしか行えません。
その分、ブロックチェーン以前の署名やP2P通信からコードレベルで解説してくれていて、非常に取り組みやすいですし、ブームが終わっても役立つ基礎を理解できます。仮想通貨自作の章は(そこまでの章を事前に読んだ上で、)休日の9時-17時で十分終えられる分量です。
最終章にSatoshi Nakamoto論文の日本語訳と解説があり、「ここまでで要素技術を学んで自作もした読者であればちゃんと理解できるようになっている」というのも面白い構成です。
その他書籍
SolidityでHello WorldするところからWeb3をちゃんと学びたい場合、『WEB+DB vol.130』の「作って学ぶWeb3」特集が導入として良かったです。
加えて、実践面では『SolidityとEthereumによる実践スマートコントラクト開発』の興味ある箇所を、理論面では『マスタリング・イーサリアム』の前半を読みました。
量子コンピュータ・量子アニーリング
『絵で見てわかる量子コンピュータの仕組み』
オススメ度★8
量子コンピュータの1冊目としてとてもオススメです。概説や歴史に留まらず量子ゲート、量子回路、アルゴリズムに1章ずつ割いており、学部生向けの教科書レベルへの橋渡しの役割を果たしています。日本のビジネスパーソンが注目する量子アニーリングにも1章丸々割いて解説している一方で、ネット記事にありがちな「量子ゲート方式と量子アニーリング方式の2種類」「2^n通りの重ね合わせで一瞬で最適解が求まる」のようなミスリードで過剰に持ち上げる姿勢には距離を置いていて、非常に誠実です。
『驚異の量子コンピュータ: 宇宙最強マシンへの挑戦』
オススメ度★5
アカデミアで量子コンピュータを研究してきた著者が、これまでのこの分野の研究の歴史や展望について一般向けに記した本です。事前知識は特に必要なく、読み物として面白いと感じました。いわゆる量子ゲート方式などの万能志向の量子コンピュータの書籍で、量子アニーリング方面の話は本書では言及していません。
『今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい量子コンピュータの本』
オススメ度★5
対象層と表紙の色合いが近い『絵で見てわかる~』と比べると「1年情報が新しい」「量子ビッドの説明が丁寧」という点が長所です。あとコラムの映画紹介が面白い。一方で「(日本のビジネスパーソンが主に興味がある)量子アニーリングの説明は少ない」「著者はこの分野の専門ではないので一部芯を食ってない」「本当の門外漢が読むにはやや敷居が高い」ため、どちらか1冊だけ読むなら『絵で見てわかる~』かなと思います。
『量子コンピュータが人工知能を加速する』
オススメ度★5
この分野のトップ研究者が書いた、量子アニーリング方式のビジネスパーソン向け日本語書籍としては現時点で最も詳しい本です(技術寄りの本では『量子アニーリングの物理』『量子アニーリングの基礎』もあります)。2016年の書籍なので直近の成果の話はないですが、歴史や原理の解説があり、論文のリファレンスも多く、量子アニーリングを学ぶのであれば起点となる本です。 しかし古典コンピュータの数理最適化に対する優位性の主張が誇大で、読者が万能量子コンピュータの研究成果と混同しないようにする姿勢も薄いように感じます。著者の論文では丁寧かつ誠実に比較しているので、一般書として売るための大人の事情なのだと思いますが。
『量子コンピュータが変える未来』
オススメ度★5
ビジネスパーソンが量子アニーリングについて3冊読むならこの本が入ると思います。大学教授による門外漢向けながらウソのない解説と、各産業で実用化に動いている方々の数理最適化やサンプリングのビジネス応用構想集が掲載されておりオススメです。一方で、大関先生以外が書いた箇所はミスリードも多く、「既存手法(古典的コンピュータによるヒューリスティック)で十分な速度と精度が出るのでは?」という箇所も多数あります。具体的な開発手順の案内や量子ゲート方式などの量子コンピュータ全体もスコープ外で、情報系学生やエンジニアはこの本の直感的理解に留まらずもっと勉強しなければならないでしょう。
その他
狭義量子コンピュータの学部レベルの教科書としては『量子コンピュータ入門(第2版) 』が評判良いです。僕は読み終わっていません。
量子アニーリングの環境構築からアプリケーション作成までのハンズオンとしては、大関先生のYoutube動画が素晴らしいです。
また、量子アニーリングを学ぶモチベーションとして実用的な最適化があるのであれば、古典的コンピュータにおける最適化手法について十分に知っておく必要があります。
その際、理論や事例の学習だけでなく、ヒューリスティック系プログラミングコンテスト(AHCなど)への参加もオススメです。
フロントエンド
『1冊ですべて身につくHTML & CSSとWebデザイン入門講座』
オススメ度★8
写経しながら1つのサイトを構築していく、動画教材とかに近い学習感の本。 類書はBootStrapなどのフレームワークやJavaScriptの初歩まで広く浅く解説しようとして中途半端になりがちですが、この本は生のHTML&CSSの基本的な機能に絞っていて、良著だと思います。続編があるのもいいですね。
その他CS系
『検索システム 実務者のための開発改善ガイドブック』
オススメ度★7
検索システムについて概観でき、2冊目への読書案内も丁寧な本。 転置インデックスやテキスト解析のコードレベルの詳しい解説もあれば、要件定義や運用の章もあり、一方で検索結果の改善や機械学習を利用したランキングもいろいろな手法が詳細されているなど、幅広く学べました。
『オペレーティングシステムの仕組み』
オススメ度★8
情報系学部生向けのOSの教科書としては易しめとして定番の本。1学期分としてオーソドックスな内容を扱っていて、良い復習となりました。Windows OSについて章を割いて解説していたのも面白かったです。
設計
『ちょうぜつソフトウェア設計入門――PHPで理解するオブジェクト指向の活用』
オススメ度★9
挿絵が可愛いくて超入門向けに見えますが、実践的なソフトウェア設計が体系的に整理された良本でした。雰囲気でオブジェクト指向を書いている人は勿論、「オブジェクト指向、UML、デザインパターン、勿論分かります。SOLID原則、TDD、アジャイル、個別に説明できます」という人までメインターゲットかなと思いました。一方で「プログラミング入門書を1冊やりました、大きなプログラムは書いたことありません」とか「Excelで設計書書いてます、コードを書いたことはありません」だとこれだけで理解するのは難しそうです。
『良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門―保守しやすい 成長し続けるコードの書き方』
オススメ度★6
変更容易性にフォーカスしたコード設計入門本。エンジニア本大賞2023の技術書部門大賞です。変数名やイミュータブルの話から、クラス設計、モデリングあたりまでの、広いテーマのアンチパターン集/tips集という立ち位置です。
「悪いコード」は悪いコードであり「良いコード」はそれを改善できているのですが、本書の「良いコード」がどの程度良いコードかについては賛否あります。しかし、最低限動くものが書けるレベルから、良いコードを志向するレベルへ入門できるという点では良い本です。
『エリック・エヴァンスのドメイン駆動設計』
オススメ度★4
DDDの原典ですが、まぁよく言われているように読みにくいです。学びは多いですし、一度は熟読した方がいい書籍なのかもしれませんが、まず要点を理解して実践してみる段階では、重すぎたなと感じました。
概要はネットにも多数転がっているのですが、『Software Design 2023年2月号』の特集が非常に良質なのでオススメです。
読み物
『ソフトウェアアーキテクトが知るべき97のこと』
オススメ度★5
エッセイ集として面白いです。ネットでも読めます。
『Learn or Die 死ぬ気で学べ プリファードネットワークスの挑戦』
オススメ度★7
国内最強AI集団PFNの、設立経緯や価値基準、見ている未来をまとめた本。 圧倒的な技術力と視座の高さを持っており、日本のエンジニアや情報系学生が読むべき1冊。 今までロボットは自分とは壁のある分野だと思っていましたが、ソフト寄りのコンピュータサイエンスが活躍する余地がかなりあって面白そうです。
組織論
『OKR(オーケーアール)』
オススメ度★6
読まずにネット記事の知識で語られがちな組織目標達成フレームワーク、OKRの本です。ストーリー仕立ての前半ではよくある導入失敗事例が描かれていて、後半は細かな解説です。 分かりやすいですし200ページなのでオススメです。
『カイゼン・ジャーニー たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで』
オススメ度★8
アジャイルを自組織に取り入れるために奮闘する小説。「書籍に書かれているような理想的なやり方を自組織に教えたら1日で全部変わるなんてあり得ず、まずは1人から始めて、自PJの現実とすり合わせて試行錯誤しながら敷衍していくしかない」、その過程の苦労や乗り越え方が描かれていて、とても勉強になりました、自分も1人からやるしかないと勇気づけられました。良書。
統計
『「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法』
オススメ度★10
一般向けの入門以前本。非常にオススメです。 とてもとても分かりやすく事例も面白い一方で、正確さの排除や誤魔化しがなく、本格的に因果推論を学ぶ前の一歩目にもなっています。 統計リテラシーの読み物としても、ちゃんと数理統計学として学ぶための導入としても、質の高い良著でした。
ゲーム
『「気持ちいい」から考えるゲームアイデア講座』
オススメ度★8
着想方法、コンセプトの定め方、膨らませ方までとても勉強になりました。特に、他のゲームからアイディアを取り入れる際のポイントや、学生にありがちな企画書の添削が、実践的で良かったです。
ゲーム制作した話。
おわり
3年目はこちら