VHIとは
Virtuozzo Hybrid Infrastructure(以下、VHI)は、サービスプロバイダーやエンタープライズ向けの仮想化基盤です。これにより、パブリッククラウド、オンプレミスのプライベートクラウド、ハイブリッドクラウド、Kubernetes(K8s)、S3ストレージサービスなどを簡単に構築・運用できます。
VHIはOpenStackをベースとしており、ソフトウェア定義ストレージ(SDS)と統合されたハイパーコンバージドインフラ(HCI)ソリューションです。KVMベースの仮想化、オーケストレーション、ソフトウェア定義ネットワーク(SDN)、エンドユーザー向けセルフサービスポータル、管理者向けの管理パネルなど、多くの機能を備えています。
また、VOpenStackをベースとしながらも、OpenStackの煩雑さを排除し、シンプルかつ最適化されています。OpenStackの専門知識がなくても運用管理でき、逆に知識があるとより活用しやすい設計になっています。また、OpenStackのAPIやCLIとも互換性があるため、コミュニティのリソースやエコシステムを活用できます。
VHIのコンポーネント
下図のようにVHIは様々なコンポーネントと機能を持っています。これらはすべて1つのインストーラーに統合されており、利用者と管理者は特に意識する必要がありません。
Hypervisor
VHIはKVMを最適化したハイパーバイザーを採用しています。KVMは世界で最も広く使用されているハイパーバイザーの1つであり、安定性と高いパフォーマンスが証明されています。
ストレージ
VHIにはVirtuozzo独自のストレージ技術「Virtuozzo Storage(Cloud Storage)」が搭載されています。これは単独のストレージ製品としても利用可能で、VHIのSDS(Software-Defined Storage)としても活用できます。
ストレージ機能:
- VM向けのブロックストレージ
- AWS S3互換のオブジェクトストレージサービス
- NFSベースのファイルストレージサービス
外部ストレージ対応
VHIはHCIでありながら、外部ストレージとの接続も可能です。現在サポートしているプロトコルは以下の通りです。
- iSCSI
- NFS
- FC(Fibre Channel)
サポート対象の外部ストレージについては、こちらのマトリクス表をご参照ください。
マルチテナント構成
VHIはマルチテナント対応であり、各テナントは1つのデータセンターのように機能します。Compute、K8s、S3、ロードバランサー、VPN、バックアップなどをフル機能で利用できます。
Compute
VMの作成・削除が可能で、GPUの利用(vGPUとGPUパススルー)にも対応しています。また、プレイスメント、アフィニティとアンチアフィニティルールの設定も対応してます。
Kubernetes(K8s)
VHIのK8sはOpenStack Magnumを基盤とした即時利用可能なKubernetes-as-a-Service(KaaS)ソリューションです。
- CNCF認定のKubernetes実装
- 自動デプロイ、クラスタの水平スケーリング
- Prometheus & Grafanaによる監視
S3オブジェクトストレージ
AWS S3互換のストレージで、無制限のオブジェクト保存が可能です、複数リージョンのデータレプリケーションも可能です。アプリケーションのモダナイゼーションやデータレイク、ファイルサーバーとして利用できます。
Load Balancer(LB)
HAProxyベースのロードバランシング機能を提供。
- L4/L7レベルのトラフィック制御
- HTTPヘッダーに基づいたルーティング
- SSL Termination
Backup as a Service
組み込みのバックアップサービス(追加費用なし)。
- フルバックアップ・増分バックアップ対応
- スケジューリング可能
- S3オブジェクトストレージやNFSをバックアップ先として設定可能
VPN
Site-to-Site VPN接続に対応し、他のデータセンターとの接続が可能。
VHIの管理インターフェース
UI
- 管理者パネル
VHIクラスターの運用管理を行うための画面です。
- セルフサービスUI
エンドユーザー向けのセルフサービスポータル。
API & CLI
- OpenStack API互換
- OpenStack CLIおよびVHI独自のvinfra CLIが利用可能
エコシステム
Virtuozzo Hybrid Infrastructure(VHI)は、OpenStackのAPIと互換性があるため、OpenStackと連携可能なソリューションが豊富に揃っています。例えば、クラウドマネジメントプラットフォーム、課金システム、バックアップソリューション、セキュリティソリューション、VDI(仮想デスクトップインフラ)など、多様な選択肢が存在します。
他のプラットフォームとの比較
3Tier製品との比較
代表的な3Tier構成の製品としてVMwareがあります。まず、アーキテクチャや構成が大きく異なります。
以下の図のように、VMwareはさまざまなコンポーネントを組み合わせて1つの製品となっています。場合によってはライセンスも別々で、バージョンアップ時には各コンポーネントのバージョンを考慮しなければなりません。これにより、管理や運用の負担が大きくなります。
一方でVHIは、UI、ハイパーバイザー、SDS、SDN、モニタリング、メータリングといった機能を汎用サーバーに集約しており、運用・管理の負担を大幅に軽減できます。また、外部ストレージや物理ロードバランサーを購入する必要がないため、コスト削減にもつながります。
さらに、VHIはクラウドネイティブアプリケーションに必要なKubernetes機能やS3オブジェクトストレージ機能を標準搭載しており、アプリケーションのモダナイゼーションに適しています。
他のHCI製品との比較
HCI(ハイパーコンバージドインフラ)製品といえば、NutanixやVMware vSANが代表的です。
HCIの特徴は、従来は個別だったコンピュート、ストレージ、ネットワークの機能を1台のサーバーに集約するコンセプトにあります。これにより、コスト削減や運用負荷の低減が期待できます。
ただし、HCI製品の多くは外部ストレージに対応しておらず、内部の仮想ストレージのみが利用可能です。これ自体はHCIの利点ですが、多くの企業では既存の高価な外部ストレージを利用しているため、HCI製品へ移行することで既存ストレージが使えなくなる可能性があります。
VHIはこのニーズを考慮し、外部ストレージとの接続にも対応しています。複数の外部ストレージと同時に接続することも可能です。
オープンソースとの比較
オープンソースの仮想化ソリューションとして、OpenStackやProxmoxがよく挙げられます。
オープンソースの最大のメリットは、ライセンス費用がかからず、気軽に利用できる点です。検証環境やテスト環境には最適でしょう。しかし、一方で見落とされがちな課題もあります。
1. 高度な技術力が必要
オープンソースを利用するには深い技術知識が必要です。仮想化技術はLinuxカーネルレベルの知識が求められ、トラブルが発生した場合、企業内部で解決できるかどうかが課題となります。
また、多くのオープンソースベンダーは既存のOSSを少し改良して提供していますが、根本的な問題が発生した際に適切な対応ができないケースが多いです。ライセンス費用がかからない代わりに、データ損失などのリスクを伴う可能性があります。
2. サポート体制の欠如
商用製品と異なり、オープンソースには公式なサポート体制がないことが多いです。特に大企業やミッションクリティカルな環境では、夜間のメンテナンス中にトラブルが発生した際、サポートがないと非常に困難な状況に陥ります。
一部オープンソースのサポートが提供されている場合もありますが、設定レベルのサポートに留まることが多く、深刻なトラブルが発生すると対応しきれないケースもあります。そのため、24時間365日のサポートがあると安心です。
3. 組み合わせの複雑さ
オープンソースは多くの場合、異なる技術を組み合わせて利用します。例えば、OpenStackとCephを組み合わせてHCI環境を構築することが一般的ですが、こうした環境ではトラブル発生時に責任の所在を特定するのが難しくなります。
また、管理の難しさも課題です。オープンソース環境ではコマンドラインを多用することが多く、管理が複雑になりやすいです。例えば、OpenStackは多くのコンポーネントから構成されており、使いこなせる企業は限られています。機能は豊富ですが、使い勝手の面で課題があるのも事実です。
まとめ
VHIは、オープンソースの自由度と、商用製品の利便性・安定性を兼ね備えた選択肢として、VHIは優れたバランスを持っています。具体的に以下の利点があります。
- オールインワン設計により、運用負担を軽減
- 外部ストレージとの互換性があり、既存環境を活かせる
- クラウドネイティブ機能(Kubernetes, S3オブジェクトストレージ)を標準搭載
- シンプルなUIで使いやすい、管理しやすい
- 商用サポートがあり、トラブル時にも安心
今回はVHIの概要説明をさせていただきました。次回はVHIのアーキテクチャをもう少し詳しく説明します。