こんにちは、Assieです。
今月も色々各国の通信業界のニュースがあったのですが、
そういえばニュースに関わる通信政策のニュースはあまり日本語で見ないなと思ったので、自分の備忘録もかねて2024年1月に起こったニュースの裏側の政策をアメリカ・イギリスを中心に4個紹介したいと思います。
文系通信エンジニアから見たニュース記事の裏側をお楽しみください(?)。
ちなみに通信政策は日本とアメリカではかなり異なっていて、
自分の印象では日本は消費者一人一人を見た政策が多めで、
アメリカは外交政策・国力の増強を狙った政策が多いなという印象です。
通信だけではない話だと思いますが、インターネットで世界がつながってグローバル化が進んでいると見せかけて、ナショナリズムや自分たちの連合内の経済的利益を狙った動きが本当に多いなと思うこの頃です。(アメリカはもちろんですけど、EU圏もそんな印象持ちます)
では、紹介していきます。
1. BT Huawei排除期限に間に合わず – Five Eyes Partnership
今月は年始からUKでBTがHuaweiをネットワークから排除せよという政府勧告の期限を守れないうニュースが出ました。
UK政府の政策的には以下のようにコア・光・5Gでの禁止又は量の制限が2020年に発表されているのでその流れですね。
・2023年1月末:国防に関係するサイトからHuawei機器を排除すること
・2023年10月末:光アクセスネットワークのHuawei比率を35%以内にすること
・2023年12月末:コアネットワークからHuaweiを排除すること
・2027年末:5GからHuawei排除
・US制裁に関係するHuawei機器を光ネットワークに設置しないこと。
このHuawei禁止の流れはもちろん2019年のアメリカトランプ政権のHuawei輸出規制を発端に各国で規制が走ったわけですが、結局どの国がHuawei規制を強制的に実施したかご存じですか?
日本やドイツ等ヨーロッパ諸国も禁止を全面に出しましたが、一番強烈にHuawei規制を国際的に謳ったのは、Canada, US, UK, Australia, New Zealandで構成される情報機関同盟のFive Eyes Partnershipです。このパートナーシップでは、5か国の安全情報機関が(主に軍事目的で)通信傍受関連で連携する同盟なのですが、ここでHuawei禁止の足並みを揃えているのでこの5か国はかなり強気にHuawei禁止を進めています。
*New Zealandだけが対中政策を結構気にしていて微妙なポジションかもしれませんが。。。
思えばHuawei高官が最初に捕まったのはカナダだって何でカナダ?ってなったので、
カナダ・アメリカはここで連携して一緒にHuawei制裁に乗り出したのかなぁと勝手に想像しています。
外交同盟で通信分野での対中政策の足並みを揃えてくるの強いなーと思います。
2. NOKIA US連邦向け政府ソリューションを発表 – アメリカBABA法
今月Nokiaが世にも珍しい顧客名が入ったソリューション発表しました。
Nokiaは去年にも業績不振の中アメリカに光関連の工場建設を発表して、あの時にえっ…と思った人は私だけではないと思います。
実はここ1,2年光関連の会社はこぞってアメリカに工場建設しだして、アメリカ向け製品を作り出しています。
Nokiaもですが、Adtran、Ciena、Corningとかもここ1、2年で工場作っていますね。
背景はバイデン大統領が2021年に適用したBuild America, Buy America政策、通称BABA法です。これは連邦政府に関するインフラ製品(主に銅・鉄・光等)はアメリカで製造すること・コンポーネントの65%以上はアメリカ製であることを強制する政策です。
バイデン大統領のInvest in Americaアジェンダをインフラに適用した政策ですね。
これによりUS政府案件を取りたい光ベンダは基本アメリカに工場を建てる必要が出てきました。
これに追い打ちをかけたのが、去年の夏に発表された、アメリカ政府が実施するブロードバンド不足地域へのサービス拡大プロジェクトのBroadband Equity, Access and Deployment (BEAD) ProjectへのBABA法適用です。これにより総額440億ドルのBEADファンドを取りに行きたい光ベンダたちはアメリカに工場を作らないといけなくなりました。
*輸入一辺倒だと貿易赤字加速させちゃうから、アメリカのコンポーネントを使うところにも規制かけていますね。
私が住んでいたブラジルやたぶん他の国でも、通常情報通信機器関連で自国に工場投資を誘致したい場合は関税率を引き上げる方法が多いのではないかなと思います。
最終製品を輸入すると関税のオーバーヘッドで価格競争力がないので、自国でビジネスをしたいのなら工場を作るべし、ということです。
ちなみに余談ですがブラジルの工場といえば、2019年にブラジル市長が中国視察に行った1週間後にHuaweiが800Mドル投資してサンパウロに工場を建てると発表したのが、「市長でこの規模の外交政策成功するんだ!?」と思った覚えがあります。
…話を戻してこれに対して税制ではなくて、アメリカの投資規模を利用して工場誘致してアメリカでビジネスしたいならアメリカ経済を回せみたいな政策を推し進めるのがさすがアメリカの施策だなと思います。
日本は情報通信での工場誘致は大きいのは台湾TSMCくらいしか覚えがないですし、
日本企業というところに結構拘りがある気がするので外資誘致施策はかなり違う方針ですかね。
3.AT&T Public Safety Network, FirstNet完了を発表 – アメリカFirstNet
正確には12月だった気もしますが、米AT&TがFirstNetのブロードバンド敷設対応完了をアナウンスしました。日本も今PS-LTE導入の実証実験がいろんな市町村で行われていると思うので公共安全網の話題は一部界隈ではホットです。
災害大国日本の公共安全網の実証実験は災害時の対応が多いですが、2020年からあるアメリカのFirstNetはちょっとユースケースの毛色が違います。
大きな違いは、FirstNetは自然災害対策に加えて、学校や病院のユースケースも対応しているところだと思います。
アメリカは学校での銃撃事件が多いので学校にパニックボタンを置いて優先的に9-1-1コールできるようにしていたり、自殺したくなった人の相談窓口への連絡を優先したりするようなプログラムで、いろんな種類のEmergencyを「Public Safety」に一元的にまとめたプログラムですね。
ものっすごい賛否両論の施策なので(お金の無駄等。。。)、いいところ悪いところありますが、バラバラの施策をどんどんPublic Safetyという名でまとめあげてアクセスしやすくする&アピールするのはいいなーと思います。
日本のPS-LTEのユースケースもそろそろ総務省から出てくると思うのでどんなのか楽しみです。
4.EE Rural RAN sharingを英国MNOで初めて政府目標達成 – Ofcome Shared Rural Network Fund
英国オペレータEEが1600の農村地区に4Gネットワークを提供し、英国政府が推進する「Shared Rural Network」の2024年6月締め切りを前倒して目標達成したと発表しました。
2020年イギリス政府は4オペレータと合意をして「Shared Rural Network Fund」を提供して地方のネットワークシェアを加速させることを発表しました。この施策では、2024年6月末までに国土の88%、2026年6月末までに90%により良い品質の音声・データ通信を提供することが義務づけられています。人口/世帯カバー率ではなくて、土地面積のカバー率に義務をつけることによって過疎地に住んでいる人や山・国立公園・リゾート等も取り残されないようにする施策なのかなと思います。
ちなみにこのShared Rural Networkの期限の延長要求は各オペレータから既に出ているのでかなりハードルが高い施策だと思われます。。
途上国支援だったり、より貧困問題や格差是正に力を入れる英国っぽい施策ですね。
ちなみにRural NetworkはFundingをどうするかが最も難しいところで、
英国のように政府と共同プロジェクトのような国もあれば世界銀行や投資グループと通信事業者がジョイントベンチャーを作って進めているところもあると思います。
日本は人口カバー率でいつもカバー率説明されるのですが、国土のカバー率はどれくらいなのでしょうか。。?いまいちRural Areaの現状のカバレッジがそもそもわかっていない私です。山の中とかリゾート地とかネットワーク届いてないところがある気もするのですが、日本は諸々世帯カバー率ほぼ100%が誤認識を与えてそうな気がするなーとも思います。
こんな感じで今月気になったニュースの裏側です。
お役に立つことがあったならうれしいです。