はじめに
trafgenは、IPアドレスやポート番号をランダム、もしくは、インクリメントさせながら、ネットワークに負荷をかけることができるツールです。trafgenを利用すれば、より実用的なワークロードでの性能評価が可能になると考えられますが、trafgenの利用に関する情報は少なく、webに公開されている情報を元に利用してみると、躓くことがあります。
本稿では、trafgenの利用方法を紹介します。
1. trafgenとは
trafgenは、netsniff-ngに含まれるツールの一つで、マルチスレッドで動作する低レベルのゼロコピー・パケットジェネレイターです。drnd()やdinc()といった関数を用いることで、IPアドレスやポート番号などを変更しながら、ネットワークの性能評価ができます。netsniff-ngには、ifppsといったスループットやpps(packet per second)をリアルタイムで表示するツールも用意されています。
例えば、ubuntuの場合は、aptでインストールできます。
# sudo apt-get install netsniff-ng
2. trafgenの利用例
2.1 設定ファイルの準備
2.1.1 テンプレートの自動生成
下記コマンドで、設定ファイルのテンプレートを自動生成させます。
公開されている情報の中には、簡略化されたテンプレートを自前で用意する例もありますが、構築したネットワークの状況によってはパケットが疎通しないことがあります。基本的には、テンプレートを作成して、それを修正する手順が最も安全と言えます。
# trafgen -e > sample.cfg
自動生成されたテンプレートは以下です。
# cat sample.cfg
/* Note: dynamic elements make trafgen slower! */
#include <stddef.h>
{
/* MAC Destination */
fill(0xff, ETH_ALEN),
/* MAC Source */
0x00, 0x02, 0xb3, drnd(3),
/* IPv4 Protocol */
c16(ETH_P_IP),
/* IPv4 Version, IHL, TOS */
0b01000101, 0,
/* IPv4 Total Len */
c16(59),
/* IPv4 Ident */
drnd(2),
/* IPv4 Flags, Frag Off */
0b01000000, 0,
/* IPv4 TTL */
64,
/* Proto TCP */
0x06,
/* IPv4 Checksum (IP header from, to) */
csumip(14, 33),
/* Source IP */
drnd(4),
/* Dest IP */
drnd(4),
/* TCP Source Port */
drnd(2),
/* TCP Dest Port */
c16(80),
/* TCP Sequence Number */
drnd(4),
/* TCP Ackn. Number */
c32(0),
/* TCP Header length + TCP SYN/ECN Flag */
c16((8 << 12) | TCP_FLAG_SYN | TCP_FLAG_ECE)
/* Window Size */
c16(16),
/* TCP Checksum (offset IP, offset TCP) */
csumtcp(14, 34),
/* TCP Options */
0x00, 0x00, 0x01, 0x01, 0x08, 0x0a, 0x06,
0x91, 0x68, 0x7d, 0x06, 0x91, 0x68, 0x6f,
/* Data blob */
"gotcha!",
}
2.1.2 テンプレートの修正
IPアドレスやポート番号などを適切な値に書き換えます。
値を書き換える際には、ランダム関数（drn）とインクリメント関数（dinc）を利用することができます。
2.2 trafgenの実行
今回は、物理マシン2台(tx-host, rx-host)を直接結線し、trafgenによるネットワークの負荷掛けを行いました。
それぞれのインターフェース名は、enp3s0f1とenp1sとなっています。
tx-host上で、trafgenでネットワーク負荷掛けをし、rx-host上で、ifppsを用いてリアルタイムな測定をします。
実行結果は以下です。
# sudo trafgen -d enp3s0f1 --cpp --conf sample.cfg -n 1000000
8 packets to schedule
544 bytes in total
Running! Hang up with ^C!
1000000 packets outgoing
68000000 bytes outgoing
9 sec, 57697 usec on CPU0 (125000 packets)
9 sec, 36054 usec on CPU1 (125000 packets)
9 sec, 55131 usec on CPU2 (125000 packets)
12 sec, 88467 usec on CPU3 (125000 packets)
9 sec, 50743 usec on CPU4 (125000 packets)
12 sec, 94213 usec on CPU5 (125000 packets)
12 sec, 75100 usec on CPU6 (125000 packets)
9 sec, 51505 usec on CPU7 (125000 packets)
# ifpps -d enp1s0
5.15.0-46-generic, x86_64, enp1s0 (atl1c 100Mbit/s link:yes), t=1000ms, cpus=4/4
rx: 2.637 MiB/t 40656 pkts/t 40670 drops/t 0 errors/t
tx: 0.000 MiB/t 0 pkts/t 0 drops/t 0 errors/t
rx: 196.750 MiB 3032909 pkts 3040580 drops 0 errors
tx: 0.254 MiB 1185 pkts 0 drops 0 errors
sys: 2114 cs/t 214 procs 2 running 0 iowait
mem: 3866M total 3445M used 958M active 2076M inactive
swap: 2047M total 2M used 0M cached
cpu0 +: 0.0% usr/t 11.0% sys/t 89.0% idl/t 0.0% iow/t
cpu1 |: 0.0% usr/t 0.0% sys/t 100.0% idl/t 0.0% iow/t
cpu2 |: 0.0% usr/t 0.0% sys/t 100.0% idl/t 0.0% iow/t
cpu3 -: 0.0% usr/t 0.0% sys/t 100.0% idl/t 0.0% iow/t
avg: 0.0% 2.0% 98.0% 0.0%
cpu3 +: 950 irqs/t 0 sirq rx/t 1 sirq tx/t
cpu0 |: 0 irqs/t 0 sirq rx/t 0 sirq tx/t
cpu1 |: 0 irqs/t 0 sirq rx/t 0 sirq tx/t
cpu2 -: 0 irqs/t 0 sirq rx/t 0 sirq tx/t
ifppsの結果を確認すると、40656 pkts/t となっており、40 Kpps程度しかネットワークに負荷を掛けられていませんでした。物理マシンのスペックが問題の一つである可能性もありますが、trafgenを単に利用するだけでは、十分な負荷を掛けられない場合がありそうです。
より高負荷なネットワークの性能評価を実施したい場合は、DPDKなどの技術の利用を検討すると良いと言えます。DPDKでは、プロトコルスタックをユーザスペースで実施するためのライブラリを提供しており、パケット処理におけるユーザスペースとカーネルスペース間でのコンテキストスイッチの回数を削減することで、パケット処理を高速化させることができます。
3. まとめ
自動生成されたテンプレートを用いて、trafgenを利用する方法を紹介しました。また、trafgenをそのまま利用すると、ネットワークへの負荷を十分に掛けられない可能性があることを示しました。
参考文献