はじめに
2020年3月までは、経産省系のIPA 情報処理推進機構でさえも、ソフトウェア開発の主要な開発形態を「請負開発」としていたと思います。しかし、ビジネスに合わせて仕様変更を繰り返すアジャイル開発に請負開発契約が不向きであることは明らかで、非ウォーターフォール型開発に適したモデル契約のような試行錯誤が続いていたと思います。その間、請負契約で受注してしまったアジャイル開発はトラブル発生を避けられず、その後、日本のアジャイル開発が「内製」/「派遣契約」/「準委任契約」にシフトしていきますが、その過渡期に本書は日米の契約や見積り法の比較を通して重要な指摘をしてくれたと思っています。
ポイント
IT技術者の所属が契約の重要性を上げてしまう。
- 日本はITサービス企業に集中(7割以上)する。つまり、開発の契約をして作ってもらうスタイルとなる。背景に、日本は解雇が難しいという事情もある。
- 米国はユーザ企業に集中(7割以上)する。競争力のあるユーザ企業が派遣や内製で作るスタイルが主流。
米国は多様な契約があり、日本は3つ。
- 日本は、派遣契約、請負契約、準委任契約。
- 米国は、20種以上のバリエーション。
- 派遣契約とその他の契約では、指揮命令権が異なり、偽装請負などに注意。
日本と米国での請負契約の違い
- 米国防省の調達条件
- 1980年代はウォーターフォールモデルとドキュメント重視のアプローチ「DOS-STD-2167」をIT調達の標準としていた。
- 仕様変更や追加費用などの様々なトラブルを経験した。
- 1994年には反復型の開発を推奨する「MIL-STD-498」を定めて、翌年には、ソフトウェア開発はウォーターフォールで行うという先入観に警告を発した。
- 2000年台になり、調達手順書「DoD 5000.2」では、ソフトウェア調達で、反復型開発プロセスを採用することを義務付けた。
日本の準委任契約は、指揮命令権に注意
- 米国だとタイム・アンド・マテリアル契約に相当(価格の決め方が類似)する。SES契約で利用される。
- 準委任契約では、完成責任や瑕疵担保責任(契約不適合)が無い。
- 派遣契約は直接の指揮命令が可能だが、準委任契約にその権利はない。直接指揮命令をしたい場合には派遣契約が適合する。
見積りから発生するトラブル群
- 日本ではRFP(Request for Proposal)の際に要件がきちんと定義できていない。
- 昭和企業の多くには、丸投げ体質がある。契約変更にも時間がかかる。予算も固定的。だから、請負契約が好き。
- 各種見積り手法の考察もあり。各種法と見積り可能なタイミングの記載もあり。
- 不確実性コーンの議論もあり。
スコープ変化に対応した契約方法
- IPAの非ウォーターフォール型開発に適したモデル契約書
- 基本/個別契約モデル
- 組合モデル
- 準委任契約でのアジャイルプロセス
- 請負契約でのアジャイルプロセス
書誌情報
- 書籍名:揉め事なしの ソフトウェア開発契約
- 著者:英 繁雄
- 出版社:日経BPマーケティング
- ISBN:978-4-8223-5853-5