はじめに
この記事はセゾン情報システムズ アドベントカレンダー 2022 12日目の記事です。
本記事はシステム開発会社で働く美大卒UIUXデザイナーが、エンジニアやデザイナーの方達のためにシステム開発会社でのデザイナーとは何かを解説する記事です。
私はデザインというものが、デザイン業界の方からの見た時と、システム開発業界の方から見た時、まったく異なるものに見えるという事を、ここ数年で身に染みて体験してきています。システム業界の方から見ると、デザイナーと名前のつく職種の人たちは似通って見えるかもしれません。
UIUXデザイナーもグラフィックデザイナーもブランドデザイナーも細かい違いまでは分からないと思います。確かに領域が被っていることもあります。しかし、それぞれ別の特殊技能の持ち主で、UIUXデザイナーとして育った人材がグラフィックデザイナーと同じ仕事を仕事クオリティで行う事は難しく、逆にグラフィックデザイナーはシステム開発会社でUIUX設計をするには学び直しが必要です。まったく別のデザイン領域だからです。きちんと学習すれば身につく素養はあるかもしれませんが、私が言いたいのは細分化された業務領域で、お互いに違う仕事をしているという事です。
同じように色と形を取り扱っているように見えても、まったく別のスキルが求められる仕事なのです。
一般化したUIUXという言葉
ここ数年でUIUXという言葉はあっという間にシステム開発やWEBの業界に浸透しました。大企業が莫大なコストをかけて組織的にUIUXをシステム開発に取り入れる動きも加速し、WEBデザイン業界の方達もWEBデザイナーではなくUIUXデザイナーという職種名で募集をかける事が多くなりました。
私はUIUXという言葉が一般化するのは良い傾向だと考えています。ただ、UIUXデザイナーと一括りにされていた人たちのスキルのばらつきは激しく、それぞれで必要とされているUIUXデザイナーの能力が大きく変化してきている事をひしひしと感じています。システム開発会社のデザイナーは「UIUX設計」とは違う能力が必要とされてきており、なかなか興味深い傾向にあると感じています。もしかすると別の呼称が必要なのかもしれません。
システム開発会社で必要なデザイナーは設計者であり、紙のデザイナーやグラフィックデザイナーではありません
デザイナーというと、雑誌の広告デザインなどの紙のデザイナーやグラフィックデザイナーなどを思い浮かべる方が多いかもしれません。また、WEB系でいえばLP制作やBtoC向けの美麗なWEBサイトを作るデザイナーが思い浮かびます。近年ではCSS制御でアニメーションもできますし、大きな画像を使ったり3Dのポリゴン的な意匠が流行った事もありますし、ブラウザの中でアーティスティックな展開をする画面を作られる方が多くいらっしゃいます。
しかし、システム開発会社で必要なデザイナーは、ダイナミックで美麗な画面を作れるアーティスティックなトップデザイナーではありません。それよりも、論理的にものを考え、構造的に製品全体を把握し、隅々の整合性を緻密に計算しながら、全体を鳥瞰図と部品の細かい粒度まで、行ったり来たりしながら考え詰められる人材が必要です。
さらにいうと、デザインがコード化された時の状態を考えながらデザインできる必要があります。この幅の広さが難しいのです。
UIUX + 機能設計 + 言語能力 + ビジュアル + コード化
システム開発会社のデザイナーがUIUX設計にプラスして要求されるのは、WEB業界ではWEBディレクターという人材達が担ってきたコミュニケーション&ネゴシエーション能力とインフォメーションアーキテクト領域と、深い製品理解、そしてコンポーネント理解です。デザイナーにとってシステム開発は未知の内容が多いものです。たとえば「物理名」「論理名」などが出てきた時に、拒否反応を示しているようでは製品画面を設計できません。競合製品を比較調査し、エンジニアの方達にヒアリングしながら、製品を使う人を思い浮かべられるところまで理解していく必要があります。
BtoC製品ならすぐに想像し使い方が分かるような事でも、BtoB製品ではシチュエーションや使う方の思考回路がすぐに脳内でトレースできるとは限りません。BtoC製品も多く使ってみる必要がありますが、BtoB製品を多く見る事も重要です。BtoB製品は、BtoCよりも概念やデータの扱い方が複雑であったり詳細な設計が必要な事が多く、リテラシーが低い人材向けに開発しない場合もあるからです。
UIUX設計を理解してファシリテーションする事ができ、フロント面側から機能設計に踏み込む事ができるだけの製品理解力があり、抽象的概念をビジュアルに起こす能力があり、ビジュアルデザインをコード化する時のコンポーネント単位まで意識して設計できる、というような中々に難しい能力の複合体がシステム開発会社のデザイナーには求められていると感じています。少なくとも一般的なデザイナーの業務よりも、抽象物を言語化する能力が確実に必要です。
デザイナーは基本的に感覚的にものを捉える能力に優れた人材が多いわけですが、例えばデータベースに書き込む動きを感覚的に捉えてから、人に説明できるように言語化したり絵に描いて具象化したりするといった事が必要になるわけです。何故レコードが書き込まれる時に○○の動きが必要なのかを理路整然と説明できる言語能力と、相手のリテラシーに合わせたコミュニケーション調整能力が必要です。
システム開発会社のデザイナーは理論やフレームワークに捉われず、ツールとして臨機応変に使いこなせる事が重要
最新の理論やフレームワークを学ぶのはUIUXデザイナーにとって重要です。例えばOOUIでもUIUXでもサービスデザインでも、理論と実践方法の本があり、先行者がセミナーを開くなど、沢山の学習の場があります。しかし最新の理論が実践できる場は、現実の業務では中々現れません。それは思想や仕事のやり方、製品開発の根本的な哲学など、あらゆる面で違う世界に新しいものを取り込もうとする動きだからです。
そんな中で現実の業務で実践できないと心が折れてしまう事もあるかもしれませんが、使いたい理論やフレームワークを使いこなせる場を作るのは誰かがやってくれるのではなく、自分の仕事です。
例えばUIUX設計を通常のシステム開発に当てはめるのは、時間とコストの関係上、非常に難しいと言わざるを得ません。今までのBtoB向け業務システム開発ではフロントエンドにコストをかけてきませんでした。要件定義前からUIUX設計を取り入れ、ビジュアルデザインを専門家が行い、ピクセルパーフェクトでフロントエンドを開発すると開発コストとスケジュールが倍増するのです。
待っていても出来ないからとスケジュールやコストが無い中で自分の仕事に無理やり当てはめようとすれば、ペルソナを決めてもカスタマージャーニーマップを引いても初期設計と製品開発が分離してしまい、軸を通すためにペルソナを決めたのになぜか製品開発ではペルソナが使わなさそうな製品を開発していた、なんてことも起こり得ます。
ここに投入して間を取り持つ事ができるのがシステム開発会社のUIUXデザイナーだと私は考えています。本当はウォーターフォール式に順番にUIUX設計のフレームワークを実行していきたいところですが、時間とコストの関係上そうもいかない場合があるのです。ペーパープロトを行い、詳細ワイヤーフレームを引いてからビジュアルデザインしたいのが本音ですが、時間が無さすぎてUIのビジュアルデザインを引きながら情報設計を固めていくしかない場合、それができるのはデザイナーしかいません。
全員の認識統一のためにペルソナやカスタマージャーニーマップなどを引いても、UIUXを学んでいない他の方にはそれを製品までどう引いてくるのか分からない場合もあるのです。それらの軸を製品画面に具象化できるのがデザイナーです。この仕事にはプロトタイプだけ入れてみよう、この仕事にはインタビューから入れてみよう、この仕事にはビジョンデザインの話からしてみよう、知識と引き出しをフルに使って最適解をその場で出していく事、必要ならばその仕事用にフレームワークを作ってしまう事、そういった柔軟性が求められていると感じています。
さいごに
システム開発会社の中で必要とされるデザイナーについて、自分が感じている事を語ってみました。わたしたちデザインチームは今デザインシステムを開発して少しでもフロントエンド開発を楽にしたいと考えて動いています。エンジニアの方達と一緒にお仕事をするという事は、デザイナーとして常識であった事が毎日覆されることの繰り返しでもあります。
そしてまた、外部のデザイナーの方と接した時にも、お互いにデザイナーとして重点的に行なっていることの違いを感じる事が多々あります。
共通認識を持てるような新しい呼称をつけることで、お互いに領域を認識でき、安心できるのかもしれませんが、未だ私たちのデザイン領域はそこまで熟していないのだろうと感じています。呼称が固定化しないという事は、それは私たちが新しい業種・領域の中で生きていることの証でもあります。
この新しい世界で、この先確立されていく基準に追いついていけるよう、日々努力していきたいと考えております。
長文を最後までお読み頂き、ありがとうございました。何かの参考になれば幸いです。