はじめに
ホモロジー代数の勉強するための土台として環上の加群があります。それを自分なりにまとめようと思い、書きます。
私は群論、環論には初心者ですので詳しい証明や内容の深掘りは避けて書いています。なので、詳しく知りたい方は雪江明彦著:「代数学1 群論入門」などの専門書を読まれると良いかと思います。ご了承ください。
群
ある集合$G$に対して二項演算($\cdot$)と単位元という構造を入れます。すると群という構造が定義できます。
定義:群
集合$G$に対して写像$f:G \times G \mapsto G$が以下の性質を満たすとき、$G$は 群 という。
- $\forall a,b,g \in G, (a\cdot b)\cdot g = a\cdot (b\cdot g)$
- $ a\cdot b=b\cdot a=\mathbf e$ このとき、$b$は$a$の逆元という
- $a\cdot e=e\cdot a=a$ この$\mathbf e$を単位元という
群は集合の中でも二項演算に関する構造を持つ集合であると考えた方が理解しやすいと思います。例えば二項演算$\cdot$が加法(+)の場合は加法群といいます。
準同型写像
2つの群$G、H$は集合でもあるので、その間の写像$$f:G \mapsto H$$を考えることができます。
定義:準同型写像
写像$f$が以下の構造を持つとき 準同型(homomorphism) という。
- $f(x^{-1})=(f(x))^{-1}$ 逆元の写像は元の像の逆元を取ったものに等しい
- $f(ab)=f(a)f(b)$ 写像は積の演算を保存する
- $f(1)=1$ 単位元の像も単位元になる
部分群
群$G$は集合でもあるので、部分集合$H\subset G$を考えることができます。この部分集合が群の構造であるとき、$H$は$G$の部分群であるといいます。
正規部分群
群$G$に対して部分群$H$が存在し、$\forall g \in G, gHg^{-1} = H$が成り立つ時、$H$は$G$の正規部分群といいます。
商群
群$G$に対して部分群$H$が存在し、$H$が正規部分群である時、その左剰余類の集合$G/H$は演算$$(g_1N)(g_2N)=g_1g_2N\in G/N$$によって群を成す。この時の$G/N$を商群といいます。
練習問題1. 群$G$の剰余類$gH$が群の構造を持つことを示せ。
練習問題2. $H$が正規部分群である時、商群$G/H$がwell-definedであることを示せ。
準同型の像と核
群$G、H$とその準同型写像$f: G\mapsto H$があるとする。この時、$f$による 像(image) を$$Im(f)=\lbrace f(a)\in H | a \in G \rbrace、$$$f$による 核(kernel) を$$Ker(f)=\lbrace b \in G | f(b)=1 \in H \rbrace$$と定めます。$$Ker(f) \in G, Im(f) \in H$$は集合として明らかですが、実は群$G$の部分群になっています。このことはホモロジー群を定義する時に使いますので、示してみましょう。
練習問題3.
$$Ker(f) \in G, Im(f) \in H$$が群$G$の部分群になることを示せ.
環
加法群$(R,+,0)$があるとします。
- $e: 1 \mapsto R$
$e(*)=0 \in R$ - $a: R\times R \mapsto R$
$a(x,y)=x+y$ - $v: R \mapsto R$
$v(x)=-x$
ここに可換性$x+y=y+x$を追加します。可換性のある群を可換群、あるいはAbel群と言います。
ここで演算"$\times$"と単位元$1$を新たに導入します。
4. $I:1\mapsto R$
$I(*)=1\in R$
5. $\mu : R\times R \mapsto R$
$\mu (x,y)=x\times y(=xy)$
ここで、$(\times ,1)$は以下を満たす。
- 交換法則 $xyz=(x\times y)\times z=x\times (y\times z)$
- 結合法則 $\exists 1\in R, x\times 1=1\times x$
この$(R,\times,1)$は逆元の存在だけが仮定されていません。この構造はモノイドと言います。
以上の性質を満たす構造$(R,+,\times)$を環と言います。
環の例
整数とその上の普通の足し算と掛け算がまさしく環のモデルです。足し算は可換群ですし、掛け算はゼロがあるために逆元が一般には存在しないモノイドになっています。
環の準同型写像
二つの環$R、S$の間の写像$\phi : R\mapsto S$が準同型写像であるとは、全ての構造(単位元(0、1)、和、積、加法の逆元)が保存していることを言います。
イデアル
環$(R,+,\times)$があり、この加法群$(R,+)$の部分群$(1,+)$が$$\forall a \in R, \forall x\in 1, ax\in 1$$を満たすとき、$1$を$R$の左イデアルといいます。掛ける順番が$xa$の時は右イデアルといい、左イデアルかつ右イデアルであるものを両側イデアルといいます。
$x$が可換の時はいつでも両側イデアルになります。
イデアルの例
整数$(\mathbb Z,+,\times)$に対して、$n\mathbb Z$は(両側)イデアルになります。これは「$n$の倍数は自由に整数倍をいくらしても尚$n$の倍数である」と言っています。
加群(module)
加法群への群の作用のことを加群と言います。
環$R$、加法群$(M,+)$とその間の作用$$\lambda : R\times M\mapsto M$$$$(a,x) \mapsto ax$$が定められていて、次を満たします。
- $a(x+y)=ax+ay, a\in R,x,y\in M$
- $(a+b)x=ax+bx, a,b\in R, x\in M$
- $(ab)x=a(bx), a,b\in R, x\in M$
- $1x=x, 1\in R,x\in M$
このときの$M$を左$R$加群と言います。この左というのは定義域$R\times M$の作用の順番のことを言っていて、同様に、$M\times R \mapsto M$という作用を考えることで右加群も定義できます。
作用の順番が逆になっても構わない場合、右加群であってかつ左加群になりますが、このような構造は双加群といいます。
加群の例
加群の作用のことを特に スカラー倍作用 などと呼びますが、これは次を見ると納得できるかと思います。
環$R$の上の線形空間$V$は$k$加群です。ただし$V$は加算$+$とゼロベクトル $\vec 0$ によって加法群としています。特に$R$の掛け算が可換なら双加群となります。$$\lambda : R\times V \mapsto V$$ $$(x,v)\mapsto xv$$これは線型空間のベクトル$x$を実数の$v$倍しています(右からのスカラー倍)。
加群の準同型写像
環$R$に対する二つの$R$-加群$M,N$があって、その間の写像$f: M\mapsto N$を考えます。これが全ての加群の構造を保存するとき、その写像は準同型と言います。
部分加群
$R$-加群$M$があって、これを単に加法群$(M,+,0)$と見たときのその部分群$(N,+)$があるとします。元の作用が$N$の中で閉じているとき、つまり$$\forall a\in R,\forall n \in N,an\in N$$となるとき、$N$を$M$の部分加群と言います。
自由加群
注:この節は自由加群のホームページを参考にしました。
自由加群とは、加群の中でも基底を持つ加群のことです。ベクトル空間には基底は必ず存在しましたが、加群は必ずしも持つとは限りません。なので、基底を持つ加群をそれとは区別して特別に自由加群と名付けられています。
基底を定義します。
定義 基底
$R$-加群$M$の部分集合$S=\lbrace x_1, x_2, ... ,x_n\rbrace \subset M$が$M$の基底であるとは、以下の条件
- $S$が$M$を生成する
- $S$が線型独立である
を満たすことである。
つまり、(1)は$M$の任意の元$m$が、$S$の任意の元$x_j$に係数の$R$の元$a_j$をかけたものの有限和$m=x_1a_1+x_2a_2 + ... + x_na_n$で表せる。
(2)は$x_1a_1+... + x_na_n=0 \in M$であれば$a_1=...=a_n=0 \in R$
となるとき、$S$は$M$の基底であると言えます。
ようやく自由加群の定義です。
定義 自由加群
$R$-加群$M$が基底を持つとき(つまり$M$が一次独立な生成系$S$を持つとき)、$M$を自由$R$-加群という。
おわりに
群、環、加群について駆け足で説明しました。この記事の記述はほとんど群、環、加群の記事を参考にしております。こちらの方が圏論の図式を用いて説明されているので分かりやすいです。今後はホモロジー群の説明も追加したいと思っています。