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【解決策編】オンプレ×クラウド接続の最適解 ― VPNではなくAzure Relayを選ぶ理由

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はじめに

こんにちは、AgVenture Labの山田です。

この記事は 「オンプレとクラウドをどうつなぐか」で悩んでいる情シス担当者やエンジニア に向けて書きました。
「VPNや専用線は重たいけれど、安全にシステムを連携させたい」――そんなときの解決策として、ここでは Azure Relay を紹介します。

この10年ほど「クラウドファースト」「リフトアンドシフト」という言葉がITの世界を引っ張ってきました。
クラウドを基盤にするのは、もはや当たり前の選択肢です。
ただ、実際に取り組んでみるとこんな声が聞こえてきます。

  • 「クラウドの請求額を見て青ざめた…」
  • 「ネットワーク調整に数週間かかり、プロジェクトが遅れた…」
  • 「セキュリティ部門とのやりとりに疲れ果てた…」

私たちも同じ壁に直面しました。
クラウドは便利で強力ですが、コストや規制、性能要件の前では「クラウドだけでは難しい」ことも少なくありません。

そんなとき現実的な選択肢となるのが、クラウドを基本にしながら「必要な部分だけオンプレで補完する」戦略です。
Azure Relay は、この“ベストミックス”をシンプルかつ安全に実現してくれます。

この記事では「解決策編」として以下を整理します。

  • なぜオンプレ回帰が現実的な選択肢になりつつあるのか
  • エンジニアと情シス、それぞれにとってのメリット
  • Azure Relay がもたらす効果と可能性

👉 次回の「実践編」では、構築手順や systemd を使った常駐化のポイントを紹介予定です。ぜひフォローしてお待ちください。

目次

1. なぜ今ベストミックスなのか

この10年、ITの合言葉は「クラウドファースト」「リフトアンドシフト」でした。
クラウドを基盤にするのは当然ですが、「全部クラウドで解決」という理想には限界が見えてきています。

クラウドファーストの限界

クラウド移行を進めると、現実的な課題が出てきます。

  • コスト高騰:従量課金が積み重なり、オンプレ時代より高額になるケース
  • 特殊ハードウェアの制約:GPUやFPGAではクラウドが不利になることが多い
  • 規制要件:金融(FISC基準や金融庁ガイドライン)や公共(総務省ガイドライン)ではオンプレ前提が依然残る
  • レイテンシ要件:工場や拠点に近い場所で低遅延処理が必要な場合

ベストミックス戦略への転換

そこで広がりつつあるのが、「全部クラウド」から「クラウドとオンプレのベストミックス」へ という流れです。

  • フロントエンド:クラウドの柔軟性とスケーラビリティ
  • バックエンド・コア処理:オンプレの安定性とコストメリット
  • データ分析・可視化:クラウドの豊富なサービス群
  • 基幹システム・制御系:オンプレの安全性と制御性

これを実現する技術のひとつが Azure Relay です。

2. ケース紹介:GPUワークロードの意思決定

私たちのプロダクトでは、ユーザーが登録した素材をもとに リアルタイム動画生成 を行っています。
これは非常に負荷が高く、GPUによるハードウェアエンコードが欠かせません。

AI推論や画像処理、大規模シミュレーションなど「特殊ハードウェアを使う処理」は、クラウドだけではコストや性能で壁にぶつかりがちです。

Azure GPU VMの検討と断念

当初は Azure の GPU VM を利用する計画でした。ところが検討を進めると課題が見えてきました。

項目 Azure GPU VM オンプレGPUサーバ
GPU仕様例 クラウド専用インスタンス 市販GPUを自社調達
月額コスト 約40万円(24時間稼働) 約1.1万円(5年償却換算)
初期費用 なし 約65万円
スケーリング 自動 手動
運用負荷 低い 中程度

決断の決め手

年間コスト差は約460万円
小規模チームには無視できない額でした。
常時稼働が前提のサービスでは、クラウドの従量課金が裏目に出る典型例です。
そのため、オンプレGPUサーバを運用しつつクラウドと連携する方針を選びました。

3. 従来手段の壁:VPNと専用線の限界

オンプレGPUサーバをクラウドから利用するにはネットワーク接続が欠かせません。
最初に検討したのは VPN接続専用線 でしたが、次のような壁がありました。

VPN接続の課題

  1. 複雑なファイアウォール設定
    経路は「クラウド → インターネット → 企業FW → オンプレサーバ」。
    ポート開放やNAT調整が必要です。

  2. セキュリティ部門との長期調整
    「外部から社内に穴を開ける」性質上、承認に数週間〜数ヶ月かかることもあります。

  3. 運用時の懸念
    接続断の復旧やVPN機器・証明書管理など、運用負荷が高くなりがちです。

専用線の課題

専用線も選択肢には上がりましたが、小規模サービスには現実的ではありません。

  • 初期費用:数十万〜数百万円
  • 月額費用:数万〜十数万円
  • 開通期間:最短でも数ヶ月
  • 柔軟性:導入後の変更は難しい

まとめ

クラウドとオンプレをつなぐ手段としてVPNや専用線はよく使われます。
しかし スピード・コスト・柔軟性の面で、小規模サービスには不向き な場合が多いのです。

4. 解決策:Azure Relayの仕組みと特性

「VPNや専用線では難しい。でもオンプレは必要」――そんなときに役立つのが Azure Relay です。

アウトバウンド接続で実現する安全なクラウド連携

image.png

Azure Relay は オンプレ側からクラウドへアウトバウンド接続を張る仕組み を採用しています。

そのため――

  • Azure/オンプレ どちらもアウトバウンド通信のみ
  • 社内ネットワークに 外部からの穴を開ける必要なし
  • クラウドからのインバウンド不要で 社内ネットワークはセキュアなまま

オンプレ環境を守りながら、最小限の設定でクラウドとつながる。これが Azure Relay の強みです。

通信の流れ

image.png

特徴

  • オンプレ側からの接続なのでポート開放不要
  • SAS認証+TLSで安全に接続、監査ログは Azure Monitor と統合可能
  • REST / gRPC / TCP など標準プロトコル対応で既存アプリの改修を最小化
  • 初期費用不要、月額数千円から利用でき PoC に最適

利用時の制約・注意点

  • スループット上限:数千同時接続を超える場合は設計注意
  • レイテンシ:数十msのオーバーヘッドあり、超低遅延処理には不向き
  • 監視運用:再接続設計やログ統合は事前準備が必要

コスト/規制/業務特性 ― オンプレ補完が効く3つの領域

  • コスト:クラウド従量課金が膨らむとき
  • 規制:金融や公共などオンプレ前提の制約が残るとき
  • 業務特性:GPU処理や低遅延など特殊ハードウェアが必要なとき

VPNとAzure Relayの比較

項目 VPN接続 Azure Relay
導入スピード 数週間〜数ヶ月 数時間〜数日
セキュリティ ポート開放必須 アウトバウンドのみ
コスト 高額機器+運用 月額数千円〜

5. 導入して得られた気づきと効果

Azure Relay を導入して驚いたのは、構築が想像以上にシンプルだったことです。
従来なら数週間かかっていたネットワーク調整も、Relayなら数行の設定で接続確認が可能。
PoCや試験導入には最適でした。

実際の導入効果

  • コスト面:GPU VMとの差で年間約460万円削減
  • 開発・運用面:VPN設定不要で即開発着手、運用負荷も軽減
  • 性能面:オンプレGPUによる高速処理、VPN切断リスクも解消

6. 適用シナリオと次のステップ

Azure Relay は GPU ワークロード以外にも幅広く活用できます。
特に次のような場面で効果を発揮します。

  • セキュリティ部門との調整が厳しい大企業
    社内ネットワークに穴を開けられず、新規接続が止まってしまうとき
  • 専用線コストに耐えられない中小企業
    「セキュアに繋ぎたいがコストは抑えたい」とき
  • 工場IoTや店舗システムのリアルタイム連携
    数台〜数十台のゲートウェイを経由してクラウド集約

👉 Relay の強みは「小さく・早く・安全に」つなげること。
PoCで試すと 15分程度で接続確認 ができ、systemd を使った常駐化や監視もすぐ実現できます。
このあたりは次回の「実践編」で詳しく紹介します。

7. おわりに

「クラウドファースト」から「ベストミックス」へ――いまは転換期にあります。
クラウドは有力な選択肢ですが、それだけでは解決できない課題もあります。

そんなとき、クラウドの隣でオンプレを補完的に活用できる仕組みがあれば選択肢はぐっと広がります。
Azure Relay は「クラウドを基本に、必要なところだけオンプレで補完する」という現実的な戦略――まさに「リフトアンドシフトのその先」を支える解決策です。

VPNや専用線で調整に悩んでいる方は、ぜひ Azure Relay を検討してみてください。
ポート開放不要・すぐに利用可能・アウトバウンド主体 という仕組みが導入のハードルを大きく下げてくれます。
少ない手間で試せるので、ベストミックス戦略の一歩目としてPoCに最適です。

👉 次回の「実践編」では、15分でPoCできる手順や、systemdでの常駐化・監視方法を紹介します。
「読んだらすぐ試せる」内容にしますので、ストック&フォローしてぜひチェックしてください!

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