はじめに
AgVenture Lab 高野です。
私たちのチームではアジャイル思考を組織に浸透させるべく、アジャイルを体験できるワークショップを定期的に開催しています。
2023年度は合計10回、受講者はシステム開発経験の有無から年齢層から、もう回によって全部バラバラです。
10回も毛色の異なる受講者相手にワークショップを実施していると、各個人のアジャイルやシステム開発への理解度によって、どうアジャイル思考を伝えるべきかパターンが見えてきました。
この記事では「非エンジニア」「ウォーターフォール開発経験者」「多少のアジャイル開発有識者」の3つに受講者のタイプを大別し、自分なりのアジャイル思考伝達のポイントを紹介したいと思います。
目次
1.ワークショップ概要
2.伝え方
2.1 非エンジニア
2.2 ウォーターフォール開発経験者
2.3 多少のアジャイル有識者
1.ワークショップの概要
私たちのチームが実施しているアジャイルワークショップは2種類あります。
まず一つ目が「アジャイル開発体験ワークショップ」。実際のアプリ開発をアジャイルで体験してもらうものとなります。アジャイル思考を理解してもらうだけではなく、様々な開発ツールの基本的な使い方を習得してもらう狙いがあります。
次に「アジャイル基礎粘土ワークショップ」。開発作業を紙粘土による動物園作成に置き換えたものとなり、開発経験がない人でもアジャイル体験をしやすくなるようカスタマイズしたワークショップとなります。前述のワークショップと比較すると、アジャイル思考を伝えることに重きを置いたワークショップと言えますね。詳細はこちらのQiitaを参考にしてください。
どちらのワークショップもアジャイル開発手法の一つである「スクラム」を利用しています。ワークショップにおける私たちのロールは、最初の方はSMロール、途中からSMロールを受講者にバトンタッチしPOロールとして立ち回りつつ、SMロールの動き方やアジャイルの回し方をアドバイスする、そんな役回りです。
2.伝え方
2.1 非エンジニア
特徴
アジャイルワークショップにおいては、まずウォータフォール開発とアジャイル開発の違いの説明から入りますが、そもそもエンジニア用語が伝わらないのでアジャイルのイメージを伝えるのが難しい点がネックとなります。現実で起こりうる場面では、システム開発にあまり携わらない上席の方にアジャイルのメリットを伝える場合に相当するでしょう。
アジャイルは端的に言えば要件定義からリリースまでの流れを短いスパンで行うものですが、非エンジニアからしたら「要件定義?リリース?何のこっちゃ?」となるわけです。
作戦
対策は意外と簡単でシステム用語を日常業務で使うような言葉に言い換えながら説明すればよいだけです。アジャイル思考とは単なるシステム開発手法というわけではなく働く上での考え方であるため、とにかくマインドを理解してもらうことが大切です。
アジャイル思考を伝達しそのメリットを理解してもらうことに重きを置いて、まずは考え方を伝えることを軸とし、アジャイル思考を理解する上で必要な用語については例えや言い換えを駆使しながら覚えてもらうとスムーズに話が進みます。例えば、「デイリースクラム」であれば「日次の進捗確認」と言えば伝わりますし、スプリントレビューは「成果報告」、レトロスペクティブは「PDCAサイクルでいうところのA、改善作業のようなもの」、といった感じに従来の業務で使われやすい用語とうまく置き換えながら話すと相手に理解してもらいやすいです。
非エンジニア向けアジャイル伝達法
アジャイルやスクラム用語は他の業務に例えながら説明すると内容を理解してもらいやすいです。また、アジャイルの考え方を伝える上では「チーム内のコミュニケーションを積極的に取り知識を平準化して縦割り業務を排する」「細かく振り返りを実施し常に業務環境の改善を目指す」といったアジャイル思考のメリットを強調して伝えると良いでしょう。
2.2 ウォーターフォール開発経験者
特徴
実は一番厄介なパターンがこのタイプとなります。ウォーターフォールとアジャイルの違いを説明するのは容易ですが、ウォータフォール思考に染まりきっているという点が最大の障害で、自分の業務範囲は自力で解決しよう、相談はせずに黙々と作業しようという思想が染み付いており、アジャイル思考とは逆方向に突っ走っている状態です。現実で起こりうる場面を考えるなら初めてアジャイルを導入しようとしているシステム会社の社員さんといったところでしょうか。
「アジャイル基礎粘土ワークショップ」は比較的しっかりと進行するのですが、一方「アジャイル開発体験ワークショップ」は場が膠着することが多かったため、ここでは「アジャイル開発体験ワークショップ」で取った対策について紹介したいと思います。
作戦1
ともかく手が止まったり悩んでそうな人を見つけたら即座にサポートへ入るのが有効でした。
これは私自身もウォータフォール開発からアジャイル開発に移った人間であるため、アジャイルチーム参画当初に陥ってしまった状態なのですが、自分の業務範囲は自分で解決する、といった考えに走りがちです。どうしても他の人に何かを聞くことに抵抗感を覚えてしまうのです。この抵抗感を拭い去るためには迷ったら有識者にすぐ聞いてしまうのが良い処方箋であることを理解してもらう必要があります。講師側から積極的に声掛けをすることで、質問を躊躇する必要のない雰囲気を作り上げることが肝要です。
作戦2
これまでの開発手法が通用しないこともあり、アプリの実装が滞ってしまい自信を失い、意見を出さなくなってしまうパターンがよくあります。この場合、小さな成功体験をさっさと獲得してもらい、士気を上げるのが有効です。細かくヒントを与え、まずは成果を1つ、目に見える形で仕上げてもらい、成功体験を与える。成功体験は自身の獲得に繋がります。精神論にはなりますが自信を持ってもらい引っ込み思案な部分を治療することで、意見発信が活発になり、自発的に知識を共有し始めるなど、スクラムらしい動きをしてくれるようになりました。
ウォーターフォール開発経験者向け伝達法
ウォーターフォール開発とアジャイル開発との違いに混乱している状態からのスタートであり、アジャイルにおいてはスタンドプレイよりチームプレイが大事であること理解してもらう必要があります。有識者へ知らないことをすぐに聞ける、成功体験を与えメンバー間の交流が活発化するような雰囲気作りを行うのが重要です。また、自信喪失により意見出しや交流が滞ることが多いため、自信を持ってもらうために成功体験を講師側が与えていくのが大切です。
2.3多少のアジャイル有識者
特徴
アジャイル思考がある程度身についているため、各スクラムイベントの目的は理解してくれていますし、アジャイルに関する踏み込んだ質問も積極的に投げてくれます。意見発信や質問を活発に行ってくれるためその点は楽ですが、発言が多すぎて話がまとまらずスクラムイベントやワークショップそのもののタイムボックスを守るのが困難となってしまうことが発生しがちです。スクラムチームに参加してある程度時間の経った方にイメージは近いです。
意見やアイディアは出るものの結論がまとまらない、いわば発散はするが収束しない状態に陥りがちです。
作戦
アジャイル思考の下地ができているため、意見出しや開発作業へ積極的に参加してくれますが、白熱し過ぎて時間が消し飛んでいるパターンが多いです。時間管理を緻密に行うようアクションとして提示すると良いです。
またもう少し踏み込んだワークショップ体験とするため、パッケージデザインを意識して開発をしてもらう、各スクラムイベントで重視すべきポイントを細かく説明すると、意見が収束しやすくなり本来の目的がブレることなくワークショップを進行することができます。
アジャイル開発有識者向け伝達法
かなり自発的に動いてくれますが、意見交換や質問に時間を使い過ぎてワークショップの時間を超過してしまうことがよく起こります。時間は有限なので時間管理の意識付けを講師側から提示することが大切です。また、受け付ける質問数を講師側からあらかじめ提示しておくとワークショップの進行が滞ることを防ぐことができます。
また、意見出しが多すぎるため結論を出すまで至らないケースが散見されました。ワークショップの題材では何を目標としているのかを適宜確認するよう促すと、意見が収束しやすくなります。
まとめ
ざっくりまとめると、以下のように対応するとうまい具合に運びました。
◆非エンジニア
・横文字は一般業務で使うような言葉に言い換えながら伝える
・アジャイル思考の利点をベースに説明する
◆ウォーターフォール開発経験者
・声掛けを積極的に行い相談をしやすい雰囲気を作り上げる
・成功体験を早めに獲得させ、自信をつけてもらって情報共有がしやすい環境を作る
◆アジャイル開発有識者
・時間を意識してもらう
・やろうとしていることの目的やゴールを適宜思い出してもらう
「組織にアジャイルな思考を浸透させたい」と考えている方はぜひ参考にしてみてください!