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#01 Distortion編―MATLAB & Simulinkでオーディオエフェクト

Last updated at Posted at 2021-01-02

#初めに
前回の記事でMATLAB Simulinkでの音声処理の基礎を述べた.今回からは,実際に様々なエフェクトをMATLAB Simulinkで実装していく.今回はDistortionを実装する.

#Distortionとは
Distortionとは音を歪ませるエフェクトである.エレキギターの派手な音は,この歪によるものである.

Distortionでは,入力を歪ませた音が出力されるわけであるが,具体的には入力を非線形の関数に通したものが出力されている(線形の関数を用いるなら,それは単なるGainである).この記事ではまず,Hard clipperとSoft clipperを実装する.これらのDistortionでは奇数倍音のみが生じるので,両者を実装した後に偶数倍音も生じさせるDistortionを作る.倍音については後述する.

#準備
以下のようなモデルを組む.入力のAudio Oscillatorでは40Hzのsin波を生成している.Audio Oscillatorの設定画面はダブルクリックで開ける.Audio Oscillatorが生成した音をdB Gain(これは前回作成したものではなく,標準で用意されたものである),MATLAB Function ブロックの順につなぎ,スピーカーから出力する.dB GainとMATLAB Function ブロックの出力はMatrix Concatenateで一つにまとめてTime ScopeとSpectrum Analyzerで可視化する.KnobはdB GainのGainと接続し,0 dBから24 dBの範囲で動かせるようにする.
image.png

#Hard clipper
まずはハードクリッパーを実装する.ハードクリッパーは以下の式で表せる.

f(x) = \left\{
\begin{array}{ll}
\,\,\,\,1 & (1 \leqq x) \\
\,\,\,\,x & (-1 \le x \le 1)\\
-1 & (x \leqq -1)
\end{array}
\right.

グラフの外形は以下のようになる.
image.png

これを実装するには,単純にif文で場合分けすればよい.注意すべきことは,Simulinkではある程度の長さを持った信号が扱われるということである.例えば,Audio Oscillatorのデフォルトの設定では,512サンプルがまとめて出力されている.そのため,for文を回して全要素に対して計算を行う.MATLAB Funcitonを以下のように書き換える.

function y = fcn(u)
    for i = 1:length(u)
        if (u(i) >= 1)
            u(i) = 1;
        elseif (-1 < u(i))
            u(i) = u(i);
        else
            u(i) = -1;
        end
    end
    y = u;

後は実行して,Gainをいじる.音と波形,スペクトルの変化に着目する.

入力のGainを上げると音が歪むのが分かる.また,波形も1以上と-1以下では真っ平にクリッピングされているのが分かる.スペクトルは,はじめは440Hz付近だけが盛り上がっていたが,Gainを上げるにしたがって440 Hz以外のピークが現れるのが分かる.

#Soft Clipper
つぎにSoft Clipperを実装する.Soft Clipperにはいくつか種類があるが,今回はCubic Nonlinear Distortionを実装する.このDistortionは以下の式で表せる.

f(x) = \left\{
\begin{array}{ll}
\,\,\,\,\displaystyle \frac{2}{3} & (1 \leqq x) \\
\,\,\,\,x-\displaystyle \frac{x^3}{2} & (-1 \le x \le 1)\\
-\displaystyle \frac{2}{3} & (x \leqq -1)
\end{array}
\right.

グラフの外形は以下のようになる
image.png
Hard clipper に比べると Softな見た目をしている.

これも先ほど同様に実装し,実行する.

function y = fcn(u)
    for i = 1:length(u)
        if (u(i) >= 1)
            u(i) = 2/3;
        elseif (-1 < u(i))
            u(i) = u(i)-u(i)^3/3;
        else
            u(i) = -2/3;
        end
    end
    y = u;

#倍音とは
倍音は,メインの周波数成分(基音)の整数倍の周波数の音のことである.sin波以外のすべての音は倍音成分を含んでいる.

#Distortionと倍音

さて,ここでHard clipperの倍音成分を確認してみる.Spectrum Analizerの設定で横軸を線形にし,拡大表示する.すると倍音成分は以下のグラフのようになっていることが分かる.
image.png
一番左の成分は440 kHz程度であり,基音である.その次のピークは1.3 kHz程度となっている.ここで,$440 \times 3 = 1320$なので,この成分は3倍音の成分であることが分かる.同様に,その次の成分は5倍音,さらにその次の成分は7倍音の成分である.このように,Hard clipperでは奇数倍音しか生じないことが分かる.

Soft clipperの倍音成分は以下に示す.これも奇数倍音の成分しか生じていない.
image.png

調べると,Distortionの関数が奇関数である場合には,奇数倍音しか生じないようである.尚,奇関数とは$f(x)=-f(-x)$となるような関数のことである.偶数倍音を生じさせるには,奇関数の対称性を無くせばよいらしい.そのための簡単な方法としては,Distortionを掛ける前に適当な0でない定数を足すことが挙げられる(参考文献ではほかの手法も紹介されている).

#偶数倍音が生じるDistiotionを作る
以下のようにブロックを組む.今までのモデルのOscillatorの後ろにAdd ブロックを置き,定数を加算する.その定数はKnobブロックで操作可能にする.GainのknobにはPre Gain,加算する定数のknobにはConstと名前を付けてある.
image.png
これを実行し,音と倍音構成の変化を確かめる.倍音構成は以下のようになる.
image.png
たしかに,今までは生じなかった偶数倍音が生じている.音も結構変わった.

#終わりに
今回はDistortionを作成した.次回はDelayを作成する.

#GitHub
以下で完成したオーディオエフェクトを公開している.
https://github.com/qwerty16180339/matlab_audio_effects

#参考文献

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