背景
最近「システム思考」という言葉が最熱してきた気がするので、自分の頭の整理を含めて説明をまとめてみます。
「システム思考」というのも、例えば「デザイン思考」とか「オブジェクト指向(シコウの字は違うけど)」とかみたいに大きな学問的な話です。全て学ぼうと思うとなかなかとっつきにくい雰囲気を受けますがそのエッセンスだけでも十分に利用価値はありますのでぜひみなさん触れてみて欲しいと思います。
まず「システム」とは?
「システム思考」で言うシステムとはいわゆるソフトウェアのシステムのことだけではありません。
ここでいう システム は日本語で言うと 系 です。
生態系 とか 銀河系 とか 循環系、力学系、あとは 人間関係 とか。つまりは「いくつかの要素が連携して何かしているもの」がシステムです。
例えば、商品を仕入れて販売して利益をだすのもシステムです。 心臓や肺や胃が連携して生命活動を行うのもシステムです。 ソフトウェア自体も多くのサブシステム/コンポーネント/API等から成り立つシステムですし、ソフトウェア開発プロセス自体も人や開発環境やインフラやが絡み合うシステムです。 世の中ほとんどすべてのモノがシステムだと思ってもらって大丈夫です。
JIS的には 「所定の任務を達成するために, 選定され, 配列され, 互いに連係して動作する一連のアイテム (ハードウェア, ソフトウェア, 人間要素) の組合せ.」 という定義があって、外部との境界がうんぬんとか細かいことも色々ありますが無視します!
なぜ「システム思考」なの?
世の中はシステムで成り立っているからです。
「複雑なものを複雑なままとらえる」という考え方があります。
例えば「ある商品が爆発的に売れている」という裏にはとても複雑なシステムがあります。これを極めて簡略化して理解したり、どこか1部分だけを取り出して理解するのも悪くはありません。それはそれで必要です。
ただそれだけだとやっぱりその事象の理解にはなりません。複雑な事象は複雑なものとして理解する必要があります。
そこでその複雑さに効果的に対応するために「システム思考」という考え方がでてきます。
本題の「システム思考」
前置きが長かったですが「システム思考」について話します。
と言ってもここでは「システム思考」の中心になる「ループ図」の説明しかしません。 多少乱暴ですが「ループ図」が書けてみんなでディスカッションできればまずまず「システム思考」の効果は得られるかと思います。
最初のループ図
説明もいらないくらい簡単です。
「Qiita記事を書く」⇒「いいねをもらう」⇒「モチベーションが上がる」⇒「さらにQiita記事を書く」⇒「さらにいいねをもらう」……
というループで、自己強化型ループと言います。 どんどん Qiitaの記事 を書きたくなってくるループです。
簡単ではありますが「ループ図」の書き方にはポイントがあります。
- 各要素には 変数 を書く。なんとなく動作にしがちですができるだけ変数を書きます。 「いいねをもらう」ではなく「いいね数」です。
- 変数は 計測はできなくてもいいので増減がわかるもの にする。 「モチベーション」は測るのは難しいですが、上がる、下がる、はなんとなくわかります。
- + の意味は増やすということではなく「正の相関」があるという意味です。 - は「負の相関」の意味です。
先ほどの図ですが、Qiita記事を書かなくなるとどうなるでしょうか。「+」の意味は「正の相関」ですので、元の変数が下がると矢印の先の変数も下がります。
つまり、
「Qiita記事を書かない」⇒「いいねが少なくなる」⇒「モチベーションが下がる」⇒「さらにQiita記事を書かなくなる」⇒「さらにいいねはなくなる」⇒「さらにモチベーションは下がる」……
という 負の自己強化ループ=ネガティブループ になります。
Qiitaの記事をたくさん書いている人がいるのはこのポジティブループのおかげだし、Qiita書き始めたけどやめてしまうのもこのネガティブループのせいと言えます。
より複雑なループ図
実際はバズるとよりたくさんの いいね がつきます。
先ほどのループの左下にもう1つループがついています。
「いいね」が増えると「トレンド」にのって「アクセス数」が増えてさらに「いいね」が増えるという仕組みです。この2つの自己強化型ループのおかげで爆発的に「モチベーション」もあがって「Qiita記事投稿数」も増えて「いいね」が増えていきます。
次にバランス型ループ図
このままだと延々と「Qiita記事」が量産されていく気がしますが実際はそうはいきません。
そんなに記事のネタもありませんし、たくさん書こうとすると1つの記事にかけられる時間が少なくなってきて質が下がってきます。ネタもなくなってきます。
それを表現してみたのがこの図です。「Qiita記事」が増えると「質やネタ」が下がっていくのを「負の相関」として マイナス で表現します。「記事の質やネタ」と「いいね」は「正の相関」です。「質やネタ」がよければ「いいね」は増えます。悪ければ「いいね」は減ります。
「Qiita記事が増える」⇒「(負の相関で)質も下がるしネタもなくなる」⇒「いいねが減る」⇒「モチベーションが下がる」⇒「Qiita記事が減る」⇒「(時間があくことで)記事の質やネタが増える」⇒「また いいね も増えだす」
どんどん増える(減る)方向に進む「自己強化型ループ」に対して、このようなそれを止めてバランスを保とうとするのが「バランス型ループ」です。
モノが売れすぎると供給量が間に合わない、とか、トレンドで流行りすぎるとアンチが出てくる、とか、新技術がコモディティ化する、とか。 この手のよくある現象は「バランス型ループ」で表現されます。
バランスか自己強化の見分け方は「マイナス」の数です。ループ内のマイナスの数が奇数ならバランスですし、偶数なら自己強化型です。
他にもループ図には「制約」とか「遅延」とか色々あるのですがそれはまたいつかどこかの機会で……。
最後にレバレッジ
なんとなく「ループ図」を書けましたが書いて終わりでは意味がありません(共通理解を得るという意味ではとても大事な意味がありますが)。せっかくなので活用したいです。
そこでこの「ループ図」をもとに改善点を探します。
どこに施策をうつことで打開できるか?という「レバレッジポイント」というのを探します。
例えば今回なら「記事の質・ネタ」が下がっていくことを回避したいのでそこに何かプラスのポイントをいれればいいことになります。 アドベントカレンダーみたいな企画はネタの提供という意味でここへの施策の1つと言えると思います。
たくさん Qiita記事 を書いても、質もネタも下がらないような施策がうてるならば良記事が量産されるということです。
ただもちろん記事が多くなりすぎると検索性が下がったり、駄文が多くなるとか、やはりそういうバランスループは発生してくると思います。必要に応じてそれらもこの「ループ図」に書き足していきます。
という感じで「ループ図」によってシステムをまとめていきます。
説明はここまで。
まとめ
特徴がいくつかあるのでまとめておきます。
- 複雑な事象が複雑に起きていることを理解できます。 上の例はシンプルなものですが複雑なものは何重ものループになります。
- ループ図を作る過程が大事です。 みんなで集まってホワイトボードなどで描いていくことで理解が深まります。
- ループ図を描いていくとある種のパターンに当たります。 それは「システム原型」として事例があるので解決策への近道になるかもしれません。
- 「動的」に時間の流れでシステムを捉えることができます。 一般的にシステム屋は「静的」な構造理解は得意ですが「動的」な理解はなかなかされないのでそこを補完できます。
- 応用範囲がかなり広いです。組織の問題。売り上げの問題。友達関係。生態系。ほぼなんでも。
そして今回説明していない「氷山モデル」。今回「ループ図」で描いたような構造がどうして起きているのか? どういうメンタルモデルで起きているかのか? というのを考えましょうということです。 (お金にもならないのに)なぜQiitaに記事を書くのか? というところを探ることで例えばさきほどのレバレッジポイントとかの施策も変わってきます。
よくある例は、ここで金銭的なインセンティブをいれることで自己強化型ループが崩壊する例です。金銭的なインセンティブはすぐに予算の制限がきますのでネガティブループに切り替わります。ぜひご自身で考えて書いてみるのをおすすめします。
という感じでさらっと実践可能なくらいに説明してみました。
です。