17日目:BERTとGPT!主要LLMモデルのアーキテクチャと特徴
皆さん、こんにちは!AI学習ロードマップ17日目を迎えました。昨日、LLMの心臓部であるTransformerの仕組みを深く掘り下げ、その革新性を理解しましたね。今日は、そのTransformerをベースに構築された、現代のLLMを代表する2つの主要なモデル、「BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)」と「GPT(Generative Pre-trained Transformer)」に焦点を当てていきます。
これらのモデルは、現在の自然言語処理(NLP)の進化を牽引しており、そのアーキテクチャと特徴を理解することは、現代のAIを深く理解する上で不可欠です。本日は、それぞれのモデルがどのような目的で設計され、どのように学習し、どのようなタスクに優れているのかを、分かりやすく解説していきます。
1. Transformerを基盤としたLLMの系譜
16日目で学んだように、Transformerは、RNNやLSTMが抱えていた長距離依存性の問題と並列処理の困難さを解決し、大規模な言語モデルの訓練を可能にしました。Transformerの登場後、研究者たちはこの画期的なアーキテクチャを様々な方法で応用し、事前学習(Pre-training) とファインチューニング(Fine-tuning) のパラダイムを確立しました。
- 事前学習 (Pre-training): 大量のテキストデータ(インターネット上のウェブページ、書籍など)を用いて、汎用的な言語理解能力をモデルに学習させます。この段階でモデルは、単語の出現パターン、文法構造、一般的な知識などを獲得します。
- ファインチューニング (Fine-tuning): 特定のタスク(例:感情分析、質問応答、要約など)に特化した少量のラベル付きデータを用いて、事前学習済みのモデルをさらに微調整します。これにより、モデルは特定のタスクに最適化され、高い性能を発揮できるようになります。
この事前学習とファインチューニングのパラダイムが、限られたタスク固有のデータしかなくても、非常に高性能なモデルを開発できる道を開きました。そして、このパラダイムの成功を決定づけたのが、次に紹介するBERTとGPTです。
2. BERT:文脈理解のスペシャリスト
2.1. BERTとは何か?
BERTは、Googleが2018年に発表したTransformerベースのモデルです。その最大の特徴は、「双方向(Bidirectional)」の文脈を学習することにあります。
従来の言語モデルは、左から右へ、または右から左へという一方向の文脈しか学習できませんでした。しかし、BERTは文章中の単語を理解する際に、その単語の「両側」の単語(つまり、過去と未来の単語)の情報を同時に考慮します。
2.2. BERTのアーキテクチャ:エンコーダーのみ
BERTは、Transformerのエンコーダー部分のみを大規模化したモデルです。エンコーダーは、入力された文章を読み込み、その意味を深く理解することに特化しています。そのため、BERTは文章理解系のタスク(質問応答、感情分析、テキスト分類など)に非常に強力です。
2.3. BERTの事前学習タスク
BERTは、双方向の文脈を学習するために、主に以下の2つの独自の事前学習タスクを使用します。
2.3.1. マスクド言語モデル (Masked Language Model / MLM)
- 文章中の単語の一部(例:15%)をランダムに「
[MASK]
」という特殊なトークンで隠し、そのマスクされた単語が何であったかを予測するタスクです。 - 例: 「私は[MASK]を食べた。」 → BERTは「リンゴ」「パン」「魚」などを予測しようとします。
- このタスクにより、BERTは、単語の文脈を双方向から深く理解する能力を身につけます。
2.3.2. 次文予測 (Next Sentence Prediction / NSP)
- 2つの文章(AとB)を与え、BがAの次の文章であるかどうかを予測するタスクです。
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例:
- A: 「今日は良い天気だ。」 B: 「外に出かけよう。」 → 「次文である」と予測。
- A: 「今日は良い天気だ。」 B: 「猫は魚を食べた。」 → 「次文ではない」と予測。
- このタスクにより、BERTは、文章間の関係性や文脈の一貫性を理解する能力を身につけます。
2.4. BERTの強みと用途
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強み:
- 文脈理解能力: 双方向の文脈を学習するため、単語の多義性や文全体の意味を非常に正確に捉えることができます。
- 汎用性: 事前学習済みのBERTモデルは、様々なNLPタスクにファインチューニングすることで高い性能を発揮します。
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主な用途:
- 検索: ユーザーの質問の意味を理解し、より関連性の高い情報を返す。
- 質問応答: 記事などから質問への回答を抽出する。
- テキスト分類: スパム検出、感情分析、ニュース記事のカテゴリ分類。
- 固有表現認識: 文中の人名、地名、組織名などを特定する。
3. GPT:文章生成のフロンティア
3.1. GPTとは何か?
GPT(Generative Pre-trained Transformer) は、OpenAIが開発したTransformerベースのモデルシリーズです(GPT-1, GPT-2, GPT-3, GPT-3.5, GPT-4など)。その名の通り、「生成(Generative)」に特化しており、人間が書いたかのような自然な文章を生成する能力に優れています。
3.2. GPTのアーキテクチャ:デコーダーのみ
GPTは、Transformerのデコーダー部分のみを大規模化したモデルです。デコーダーは、与えられた入力に続いて次の単語を順番に生成していくことに特化しています。
- 単方向の注意 (Unidirectional Attention) / マスク付きセルフアテンション: GPTのデコーダーは、将来の単語(まだ生成されていない単語)を見ることができません。これにより、モデルは人間が文章を書くように、単語を「左から右へ」あるいは「過去から未来へ」と予測して生成します。
3.3. GPTの事前学習タスク
GPTは、非常にシンプルな1つの事前学習タスクを使用します。
3.3.1. 次単語予測 (Next Token Prediction / Causal Language Modeling)
- 与えられた過去の単語列に基づいて、次にくる単語を予測するタスクです。
- 例: 「今日は[MASK]。」 → GPTは「良い天気だ。」「寒い。」「会議だ。」などを予測しようとします。
- このシンプルなタスクを膨大なデータで学習することで、GPTは単語の出現確率だけでなく、文法、構文、意味、そして一般的な知識を習得し、一貫性のある長文を生成する能力を獲得します。
3.4. GPTの強みと用途
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強み:
- 文章生成能力: 非常に流暢で、文脈に合った自然な文章を生成できます。
- 少量の学習 (Few-shot learning) / ゼロショット学習 (Zero-shot learning): 事前学習で幅広い知識を習得しているため、ごく少数の例(数個の指示)を与えるだけで、あるいは指示なしでも新しいタスクを実行できる能力があります。
- 多様なタスクへの応用: 質問応答、要約、翻訳、プログラミング、クリエイティブライティングなど、様々なタスクを「生成」という形で解決できます。
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主な用途:
- チャットボット/対話AI: ユーザーとの自然な会話、カスタマーサポート。
- コンテンツ生成: ブログ記事、マーケティングコピー、メール、SNS投稿。
- コード生成/支援: プログラミングコードの生成、デバッグ、説明。
- 要約/翻訳: 長文の要約、多言語間の翻訳。
- クリエイティブライティング: 詩、物語、脚本の作成。
4. BERTとGPTの比較と使い分け
BERTとGPTは、どちらもTransformerを基盤としていますが、そのアーキテクチャと事前学習タスクの違いにより、得意なタスクが異なります。
特徴 | BERT (Google) | GPT (OpenAI) |
---|---|---|
アーキテクチャ | Transformerのエンコーダーのみ | Transformerのデコーダーのみ |
学習方向 | 双方向 (単語の両側の文脈を考慮) | 単方向 (過去の単語のみを考慮) |
得意なタスク | 文章理解、既存テキストの分析 | 文章生成、対話 |
主な用途 | 検索、質問応答 (抽出型)、感情分析、テキスト分類 | チャットボット、コンテンツ生成、要約、翻訳、コード生成 |
事前学習タスク | マスクド言語モデル、次文予測 | 次単語予測 |
使い分けのガイドライン:
- 入力された文章の意味を深く理解したい、分析したい場合は、BERTが適しています。例えば、顧客レビューの感情分析、契約書からの情報抽出、検索クエリの意図理解など。
- 新しい文章を生成したい、対話したい場合は、GPTが適しています。例えば、ブログ記事の自動生成、カスタマーサポートのチャットボット、プログラミングコードの作成支援など。
最近では、エンコーダーとデコーダーの両方を持つ「Encoder-Decoder」型のTransformerモデル(例:T5、BART)も登場しており、翻訳や要約のような、入力と出力の両方がシーケンスであるタスクに優れています。
5. まとめと次へのステップ
本日は、AI学習ロードマップの17日目として、現代のLLMを代表するBERTとGPTという2つのモデルについて、そのアーキテクチャ、事前学習タスク、強み、そして主な用途を深く学びました。
- BERTはTransformerのエンコーダーをベースとし、双方向の文脈理解に優れ、文章理解系のタスクに強力です。
- GPTはTransformerのデコーダーをベースとし、単方向の文章生成に特化しており、流暢で自然なテキスト生成能力が特徴です。
- それぞれのモデルが異なる特性を持つため、解決したいタスクに応じて適切なモデルを選択することが重要です。
これらのモデルの理解は、今後のNLP分野の応用を学ぶ上で非常に重要な基盤となります。
明日からは、このBERTやGPTの知識も活用できる「自然言語処理(NLP)の具体的な応用」として、私たちの身近な課題である「感情分析」について、実践的なアプローチを学んでいきます。テキストデータがAIによってどのように分析され、感情を読み取るのかを、具体的なコード例を交えて見ていきましょう。
これらのモデルは、日進月歩で進化を続けています。最新の動向にも目を光らせながら、一緒に学習を進めていきましょう!