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【AWSプロフェッショナルへの道】現役エンジニアが贈るクラウド実践ガイド - 第26回 オブザーバビリティの実現!X-RayとOpenTelemetryで分散トレースを追う

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オブザーバビリティの実現!X-RayとOpenTelemetryで分散トレースを追う

こんにちは!現役クラウドエンジニアのAkrです。

【AWSプロフェッショナルへの道】現役クラウドエンジニアが贈る実践ガイド」の第26回をお届けします。前回は、AWSのコストを最適化するための鉄則について学び、効率的なクラウド運用の基礎を固めました。これまで、アプリケーションの構築から運用、そしてセキュリティまで幅広く学んできましたが、現代の複雑な分散システムでは、障害が発生した際に「何が原因か」を特定するのが非常に難しくなっています。

今回は、この課題を解決するための重要な概念、オブザーバビリティ(Observability) をテーマに、その中心的なサービスであるAWS X-Rayと、オープンソースの標準であるOpenTelemetryを徹底的に解説します。

「障害の原因がどこにあるか分からない...」「マイクロサービス間の通信でボトルネックが発生しているかも...」「特定のAPIのレイテンシーがなぜ高いのか知りたい」といった疑問を持つかもしれません。オブザーバビリティは、システム内部の状態を外部から推測するための能力です。本記事では、メトリクス、ログ、トレースという「オブザーバビリティの三本柱」を理解し、特に分散トレースに焦点を当てて、X-RayとOpenTelemetryを使った実践的な分析方法を学びます。


1. オブザーバビリティの三本柱:メトリクス、ログ、トレース

オブザーバビリティは、以下の3つのデータタイプを組み合わせて実現します。

  1. メトリクス (Metrics):

    • 何が起きたか?: システムのパフォーマンスを時間と共に追跡する数値データです(例: CPU使用率、リクエスト数)。
    • 特徴: 継続的な監視に適しており、システムの全体的な健全性を把握するのに役立ちます。CloudWatchがこれに該当します。
  2. ログ (Logs):

    • 何が原因か?: 特定のイベントやエラーの詳細な記録です(例: エラーメッセージ、スタックトレース)。
    • 特徴: 問題発生時に詳細な原因を究明するのに役立ちます。CloudWatch Logsがこれに該当します。
  3. トレース (Traces):

    • どうやって起きたか?: 分散システムにおけるリクエストのライフサイクルを追跡するデータです。複数のサービスやコンポーネントをまたいで、リクエストがどのように処理されたかを可視化します。
    • 特徴: マイクロサービスアーキテクチャのデバッグや、ボトルネックの特定に不可欠です。AWS X-Rayがこれに該当します。

CloudWatchが提供するメトリクスやログだけでは、複雑な分散システムを横断するリクエストの全体像を把握するのは困難です。ここでトレースが重要な役割を果たします。


2. AWS X-Ray: リクエストの旅路を追跡する

AWS X-Rayは、マイクロサービスアーキテクチャや分散アプリケーションのリクエストを追跡・分析するフルマネージドサービスです。X-Rayを使うと、リクエストが複数のサービスをどのように移動し、どこでボトルネックが発生しているかを視覚的に把握できます。

2.1. X-Rayの主要な機能

  • サービスマップ: アプリケーション内のサービス間の関係を視覚的に表示します。エラー率やレイテンシーが高いサービスを簡単に特定できます。
  • トレースリストとトレースビュー: 個々のリクエストの詳細な情報を表示します。リクエストがどのサービス、どのコンポーネントを通過し、それぞれの処理にどれだけの時間がかかったかを時系列で追跡できます。
  • セグメントとサブセグメント:
    • セグメント: 各サービスがリクエストを処理する際の作業単位です。
    • サブセグメント: セグメントをさらに詳細化したもので、AWSサービスへの呼び出しや、外部APIへの呼び出しなどを記録します。

2.2. 実践!X-RayでLambdaとDynamoDBの通信を可視化しよう

Web APIとして動作するLambda関数が、DynamoDBにアクセスする単純なアプリケーションを例に、X-Rayでトレースを有効にしてみましょう。

  1. X-Rayの有効化:

    • Lambda関数の設定画面で、「モニタリングおよび運用ツール」タブに移動します。
    • AWS X-Ray」の項目で、「アクティブトレース」を有効にします。
  2. X-Ray SDKの導入:

    • Lambda関数が実行されるアプリケーションコードに、X-Ray SDKを導入します。これにより、外部サービスへの呼び出し(DynamoDBなど)が自動的にトレースされます。
    import boto3
    from aws_xray_sdk.core import xray_recorder
    from aws_xray_sdk.core.exceptions.exceptions import SegmentNotFoundException
    
    # Lambdaのハンドラ関数
    def lambda_handler(event, context):
        try:
            xray_recorder.begin_segment('MyLambdaFunction')
            # DynamoDBへの呼び出し
            dynamodb = boto3.resource('dynamodb')
            table = dynamodb.Table('my-table')
            response = table.get_item(Key={'id': '1'})
            # ...
            xray_recorder.end_segment()
            return {
                'statusCode': 200,
                'body': 'Success'
            }
        except SegmentNotFoundException:
            pass # X-Rayが有効でない場合
    
  3. 動作確認:

    • Lambda関数を数回実行します。
    • X-Rayコンソールに移動し、「サービスマップ」を確認します。LambdaとDynamoDBの間の通信が可視化されているはずです。
    • トレース」リストを確認し、個々のリクエストのレイテンシーや、LambdaからDynamoDBへの呼び出しにどれだけの時間がかかったかを確認できます。

3. OpenTelemetry: オープンな標準でオブザーバビリティを統一する

X-RayはAWSサービスに特化していますが、アプリケーションはAWS以外のサービスやオンプレミスシステムとも連携します。そこで登場するのが、OpenTelemetryです。

3.1. OpenTelemetryとは?

  • OpenTelemetryは、メトリクス、ログ、トレースのデータを生成・収集するためのオープンソースの標準仕様とツール群です。
  • 言語に依存しないSDKとAPIを提供し、ベンダーに縛られないオブザーバビリティを実現します。
  • 収集したデータは、AWS X-RayやPrometheus、Grafanaなどの様々なバックエンドに送信できます。

3.2. OpenTelemetryの利点

  • ベンダーロックインの回避: 一度OpenTelemetryで計測を実装すれば、バックエンド(X-Ray, Datadogなど)を柔軟に変更できます。
  • 統一された計測: 複数のサービスやベンダーが混在する環境でも、統一された方法でオブザーバビリティデータを収集できます。
  • 充実したコミュニティ: 多くの言語でライブラリやツールが提供されており、コミュニティのサポートも充実しています。

3.3. 実践!OpenTelemetryでX-Rayにトレースを送る

ECS Fargateで動作するアプリケーションにOpenTelemetryを導入し、X-Rayにトレースデータを送信してみましょう。

  1. OpenTelemetry Collectorのデプロイ:

    • OpenTelemetry Collectorは、アプリケーションからトレースデータを受け取り、X-Rayに転送するプロキシのような役割を果たします。
    • ECSタスク定義にサイドカーコンテナとしてOpenTelemetry Collectorを追加します。
  2. アプリケーションの計測:

    • アプリケーションのコードに、OpenTelemetry SDKを導入します。
    • SDKを使って、トレースの開始・終了、スパン(処理の単位)の作成、カスタム属性の追加などを実装します。
    # PythonのOpenTelemetry SDKの例
    from opentelemetry import trace
    
    tracer = trace.get_tracer(__name__)
    
    def my_function():
        with tracer.start_as_current_span("my_function"):
            # 処理...
            span = trace.get_current_span()
            span.set_attribute("http.method", "GET")
            # 別の関数を呼び出す
            another_function()
    
  3. 動作確認:

    • アプリケーションが実行されると、OpenTelemetry Collectorがトレースデータを収集し、X-Rayに転送します。
    • X-Rayのサービスマップとトレースビューで、OpenTelemetryによって計測されたアプリケーションのデータが表示されることを確認します。

4. まとめ

今回は、現代の複雑なシステム運用に不可欠なオブザーバビリティという概念と、その実現に欠かせない分散トレースについて、AWS X-RayOpenTelemetryを交えて学びました。

  • オブザーバビリティは、メトリクス、ログ、トレースの三本柱で実現されることを理解しました。
  • AWS X-Rayは、AWSサービスに特化した分散トレースサービスであり、サービスマップを使ってリクエストの流れを視覚的に把握できることを学びました。
  • OpenTelemetryは、ベンダーに縛られないオープンソースの標準であり、X-Rayと組み合わせて利用することで、より柔軟で統一されたオブザーバビリティを実現できることを学びました。

これらの技術を習得することで、あなたはシステム障害の原因を迅速に特定し、アプリケーションのパフォーマンスを継続的に改善できるようになります。これは、信頼性の高いサービスを運用する上で最も重要なスキルの一つです。


この記事が皆さんのAWS学習の一助となれば幸いです。

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