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クラウド時代のデータ戦略:AWSデータベース・ストレージ完全攻略への道:Day 9 - RDS高可用性・スケーラビリティ:マルチAZとリードレプリカ

Last updated at Posted at 2025-07-28

Day 9: RDS高可用性・スケーラビリティ:マルチAZとリードレプリカ

皆さん、こんにちは!「AWSデータベース・ストレージ完全攻略」のDay 9へようこそ!

昨日のDay 8では、実際にAmazon RDSインスタンスを構築し、外部から接続する実践的な経験を積みました。これで、RDSの基本的な操作はマスターできたはずです。

今日のDay 9では、さらに一歩進んで、本番環境でRDSを利用する上で不可欠な概念である高可用性(High Availability: HA)とスケーラビリティ(Scalability)について深く掘り下げていきます。これらを実現するためのRDSの主要な機能であるマルチAZデプロイメントリードレプリカに焦点を当てて学びましょう。

Day 9_ RDS高可用性・スケーラビリティ:マルチAZとリードレプリカ - visual selection (1).png


1. 高可用性 (High Availability: HA) とは?

高可用性とは、システムが障害発生時にもサービスを継続し、ユーザーが利用できる状態を維持する能力のことです。データベースシステムにおいて、単一障害点(SPOF: Single Point Of Failure)をなくし、障害発生時のダウンタイムを最小限に抑えることが目標となります。

RDSでは、この高可用性を実現するためにマルチAZデプロイメントという強力な機能が提供されています。

マルチAZデプロイメントの仕組み

マルチAZデプロイメントは、DBインスタンスを異なるアベイラビリティゾーン (AZ) に分散配置することで、単一AZの障害からデータベースを保護します。

  1. 同期レプリケーション:
    • プライマリDBインスタンス(メインのデータベース)のデータは、異なるAZにあるスタンバイレプリカ同期的に複製されます。
    • これは、プライマリへの書き込みが完了する前に、スタンバイにもデータが書き込まれることを意味します。これにより、プライマリに障害が発生しても、スタンバイのデータは常に最新の状態に保たれ、データ損失のリスクが最小限に抑えられます。
  2. 自動フェイルオーバー:
    • プライマリDBインスタンスに障害が発生した場合(例: インスタンスの停止、AZ全体の障害、基盤インフラの障害など)、RDSは自動的にトラフィックをスタンバイレプリカに切り替えます。
    • この切り替え(フェイルオーバー)は通常、1分から数分程度で完了します。アプリケーションは同じDBエンドポイントを引き続き利用できるため、アプリケーション側の設定変更は不要です。
  3. 異なるAZへの配置:
    • スタンバイレプリカは、プライマリとは物理的に独立した異なるAZに配置されます。これにより、単一のデータセンター障害やネットワーク障害の影響を軽減できます。

マルチAZデプロイメントのメリット

  • 高可用性: プライマリDBインスタンスの障害発生時にもサービスを継続できます。
  • データ耐久性: 同期レプリケーションにより、データ損失のリスクが極めて低くなります。
  • メンテナンス時のダウンタイム短縮: 計画的なメンテナンス(例: OSパッチ適用、DBエンジンバージョンアップ)の際にも、フェイルオーバーを利用してダウンタイムを最小限に抑えることができます。
  • 運用の簡素化: AWSが自動的にフェイルオーバーを処理するため、手動での障害復旧作業が不要になります。

マルチAZデプロイメントの注意点

  • 読み込みパフォーマンスの向上には寄与しない: マルチAZはあくまで高可用性のためであり、読み込みトラフィックを分散する機能はありません。読み込み性能を向上させるには、後述のリードレプリカを使用します。
  • コストの増加: スタンバイインスタンスが常に稼働しているため、単一AZ構成と比較してコストが増加します。

2. スケーラビリティ (Scalability) とは?

スケーラビリティとは、システムがワークロードの増加に対応して、パフォーマンスを維持または向上させる能力のことです。データベースにおいては、特に読み込み処理の負荷が高まった際に、それを効率的に分散・処理できるかが重要になります。

RDSでは、このスケーラビリティ(特に読み込みスケーラビリティ)を実現するためにリードレプリカという機能が提供されています。

リードレプリカの仕組み

リードレプリカは、プライマリDBインスタンスの読み込み専用のコピーを作成し、読み込みトラフィックを分散させることで、データベース全体のパフォーマンスを向上させます。

  1. 非同期レプリケーション:
    • リードレプリカは、プライマリDBインスタンスのデータを非同期的に複製します。
    • これは、プライマリへの書き込みが完了した後、少し遅れてリードレプリカにデータが反映されることを意味します。そのため、プライマリとリードレプリカの間にはレプリケーションラグと呼ばれるデータ遅延が発生する可能性があります。
  2. 読み込みトラフィックのオフロード:
    • アプリケーションは、読み込みクエリをリードレプリカに対して発行し、書き込みクエリは引き続きプライマリDBインスタンスに対して発行します。
    • これにより、プライマリDBインスタンスの負荷が軽減され、全体の応答性が向上します。
  3. 異なるAZ/リージョンへの配置:
    • リードレプリカは、プライマリと同じAZ、異なるAZ、さらには異なるAWSリージョンに作成することも可能です。
    • 異なるリージョンにリードレプリカを作成することで、災害復旧(DR)戦略の一環として利用したり、地理的に分散したユーザーに低レイテンシーでデータを提供したりできます。

リードレプリカのメリット

  • 読み込みパフォーマンスの向上: 読み込み集中型ワークロードを分散し、プライマリDBインスタンスの負荷を軽減します。
  • スケーラビリティ: 読み込みトラフィックの増加に応じて、複数のリードレプリカを追加できます。
  • 災害復旧(DR): クロスリージョンリードレプリカは、プライマリリージョン全体が利用不能になった場合のDR戦略として利用できます。
  • 分析ワークロードの分離: OLTP(オンライントランザクション処理)のプライマリから、OLAP(オンライン分析処理)の読み込みワークロードを分離できます。

リードレプリカの注意点

  • レプリケーションラグ: 非同期レプリケーションのため、プライマリとリードレプリカの間にはデータ遅延が発生する可能性があります。リアルタイム性が厳密に求められる読み込みには注意が必要です。
  • 書き込み不可: リードレプリカは読み込み専用であり、書き込み操作はできません。
  • コストの増加: リードレプリカも独立したDBインスタンスとして稼働するため、コストが発生します。

3. マルチAZとリードレプリカの使い分け・組み合わせ

マルチAZとリードレプリカは、それぞれ異なる目的(高可用性と読み込みスケーラビリティ)のために設計されていますが、組み合わせて利用することで、より堅牢で高性能なデータベース環境を構築できます。

機能 目的 レプリケーション フェイルオーバー コスト影響
マルチAZ 高可用性、障害復旧 同期 自動 高い
リードレプリカ 読み込みスケーリング、DR 非同期 手動昇格(DR時) 中程度

典型的な組み合わせパターン

  1. マルチAZのみ:

    • 目的: 高可用性とデータ耐久性が最優先で、読み込み負荷はそれほど高くない場合。
    • 例: 小規模~中規模のWebアプリケーション、内部システムなど。
  2. リードレプリカのみ:

    • 目的: 読み込み負荷が高く、プライマリDBインスタンスの負荷軽減が主な目的の場合。高可用性は別途考慮が必要。
    • 例: 大量のレポート生成、分析クエリが頻繁に実行されるシステム。
  3. マルチAZ + リードレプリカ:

    • 目的: 高可用性と読み込みスケーラビリティの両方が求められる、最も一般的な本番環境の構成。
    • 構成: プライマリDBインスタンスをマルチAZでデプロイし、そのプライマリから1つ以上のリードレプリカを作成します。リードレプリカも必要に応じてマルチAZにすることも可能です(Auroraの場合)。
    • 例: 大規模なeコマースサイト、SaaSアプリケーション、高トラフィックのWebサービスなど。

4. RDSにおけるフェイルオーバーと昇格

  • フェイルオーバー (Failover):

    • マルチAZデプロイメントにおいて、プライマリDBインスタンスに障害が発生した際に、RDSが自動的にスタンバイレプリカに切り替えるプロセスです。
    • アプリケーションは同じエンドポイントを使用し続けるため、通常は接続文字列の変更は不要です。
  • 昇格 (Promotion):

    • リードレプリカを独立したプライマリDBインスタンスに変換するプロセスです。
    • これは通常、以下のようなシナリオで手動で行われます。
      • 災害復旧 (DR): プライマリDBインスタンスが完全に復旧不能になった場合、クロスリージョンリードレプリカを新しいプライマリとして昇格させ、サービスを再開します。
      • バージョンアップグレード: プライマリDBインスタンスのメジャーバージョンアップグレードを行う前に、リードレプリカを作成し、それを昇格させて新しいプライマリとすることで、ダウンタイムを最小限に抑える戦略。
      • シャーディング: 大規模なデータベースを分割する際に、リードレプリカを昇格させて新しいシャードのプライマリとする。

5. AI企業における高可用性・スケーラビリティの重要性

AI企業やML Opsの文脈においても、データベースの高可用性とスケーラビリティは極めて重要です。

  • ユーザー向けAIサービス:
    • ユーザー認証、パーソナライズされた設定、利用履歴などを管理するデータベースは、24時間365日の稼働が求められます。マルチAZは必須です。
    • ユーザー数や利用頻度の増加に対応するため、リードレプリカによる読み込みスケーリングも重要になります。
  • MLモデルのメタデータ管理:
    • 大規模なMLモデルの学習や推論を行う際、モデルのバージョン、ハイパーパラメータ、学習データセットのパス、評価指標などのメタデータをRDSで管理することがあります。
    • これらのメタデータはML Opsパイプラインの基盤となるため、高可用性が求められます。
  • データパイプラインの進行状況:
    • データの前処理、特徴量エンジニアリング、モデル学習、推論デプロイといった複雑なデータパイプラインの各ステップのステータスや結果をRDSに記録する場合、そのデータベースがボトルネックにならないようスケーラビリティが重要です。
  • リアルタイム推論の補助データ:
    • リアルタイム推論を行うAIサービスで、推論に必要な補助データ(例: ユーザープロファイル、商品マスタデータなど)をRDSに保存している場合、高速な読み込み応答が求められるため、リードレプリカが役立ちます。

まとめとDay 10への展望

今日のDay 9では、Amazon RDSの高可用性とスケーラビリティを実現する二つの主要な機能、マルチAZデプロイメントリードレプリカについて深く学びました。

  • マルチAZ: 異なるAZに同期スタンバイレプリカを配置し、自動フェイルオーバーにより高可用性とデータ耐久性を提供します。
  • リードレプリカ: 非同期レプリケーションにより読み込み専用のコピーを作成し、読み込みトラフィックを分散してスケーラビリティを向上させます。

これらは、本番環境で堅牢なデータベースシステムを構築するために不可欠な要素です。

明日のDay 10では、RDSの運用と監視に焦点を当てます。具体的には、RDSのモニタリング(CloudWatch、Enhanced Monitoring)メンテナンスウィンドウ、そしてイベントと通知について学び、データベースの健全性を維持し、問題発生時に迅速に対応するための知識を習得します。

それでは、また明日お会いしましょう!


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