更新情報
日本時間2020年8月10日(月)18時をもって本記事で紹介しているSpatialChatは,通信やサービスの品質向上のために5名以上の利用を有料プランとすることを決定しています.無料で利用できるのは1ワークスペースあたり同時に4名までとなりましたのでご注意ください.
コロナによる研究活動の停滞
緊急事態宣言という言葉が世間に現れ始めた4月上旬のある日「研究室に来れなくなるかもしれない」と聞かされた僕は「まさか〜」と呑気に考えていました.私の大学はその次の次の日から本当に入構禁止になりました.(情報系の学生のため)当時の僕は「ゼミがzoomで行われる」「研究室のパソコンでサーバにログインしていたのが,家のパソコンになる」程度で実害が少ない.加えて「毎日朝起きして髭剃って髪の毛セットしなくて楽だし睡眠時間増えた〜」と呑気に思っていました.
そんな感じでリモートで研究するメリットの方が多いと思っていたものの,実際に入構禁止が長期化するにつれてその弊害が出てきました.
- 気合が入らない(毎日研究室に行く準備・道のりといったルーティーンが気持ちのオンオフのスイッチになっていたと気づく)
- 寂しい(雑談のような研究活動・人間関係を円滑化するコミュニケーションが気軽に取れない)
- 研究室にいるときと違い,周りの人の雰囲気(研究の活動・進捗や就活の様子)が肌で感じ取れない
- 新配属の4年生が新配属生用の課題や研究でつまづいている所に気づいてあげれない
メールとSlack,ゼミのときに使うzoom以外コミュニケーションの手段がない状態の長期間の在宅の結果,大袈裟にいうと研究室の学生は以下のような感じになってしまいました.
やっぱり静かな家にずっと一人でいて作業するのはメンタルがやられますし「作業」「休憩」の切り替えが難しくなります.それだけなら本人の気持ちの持ち方の工夫でどうにかなるのですが,箇条書きの下3つはどうしようもなく,研究室全体でどうにかしないと...となりました.
現状打開に向けてTrial and Error
Twitterで色々調べると「ある研究室は毎朝全員Skypeで顔合わせをしている」などいくつか高い意識を維持している研究室があることを観測しました.しかし,私の所属する研究室には朝型・夜型の人がいますし,そもそもコアタイム等の縛りなく,必要な時までに必要な結果を出しましょうがスタンスです.そのため,そういった方針をそのまま適用しても合わないし,反発も多いだろうなと思いました.そこで,研究など作業を始める人が有志でZoomのMeeting Roomを開いてリンクをSlack上に流すことで,他の作業する人が一緒に部屋に集まって作業する取り組みを始めました.毎日専用のチャンネルに以下のようなメッセージを流す感じです.
しかし,Zoomは一人が「疲れた」といって話し始めると集中していた人の作業を妨害してしまう可能性があったり,ブレークアウトセッションをいちいち作るわずらさしさがありました.加えて,作業用のbgmなど適度な雑音・環境音も入れることができません.そこで,同じM2の学生がDiscordを導入し複数の音声チャットルーム(作業部屋,雑談部屋)を作り,Groovyを導入しましたがこれもいまいち上手くいきませんでした.
SpatialChatとの出会い
ある日「とりあえず飲み会でもして気分転換するか」という話になりました.そのときに画面上で距離の概念を導入できるSpatialChatなるサービスがあることをボスからの情報で知りました(そのときにこちらの記事を読みました).
詳しいことは元記事や公式を眺めていただきたいのですが,ざっくり特徴をまとめると
- 画面上で近い人の声は大きく,遠い人の声は小さく聞こえる仮想空間を提供するサービス
- ユーザ登録やアプリのダウンロードなど不要
- 1ワークスペースに最大50人まで同時アクセス可能
- 動画のリンク・画像・PC画面のシェアが空間内でできる
- テキストベースのコミュニケーション機能提供なし
- 認証などのプロセスがないのでセキュリティはガバガバ
といった感じで,要約すると現実世界の空間を上手くブラウザ上の2次元平面に再現することを思いついてとりあえず作ったサービスって感じ(?)です.
動作試験を兼ねた飲み会の実施
「研究室の人が一斉がアクセスしたら各自のパソコンが作業できないくらい重たくなったりしないか?」など複数疑問点がありました.そこで,SpatialChatに飲み会会場を設営し,好きなタイミングで出入りできる飲み会を実施しました.
背景が無機質だと虚しく雰囲気もでないので
- 居酒屋っぽい背景を適当に拾ってきて配置
- いらすとやさんから居酒屋の雰囲気を増やす素材を配置
- Youtubeにある居酒屋環境音をBGMとして流す(一番重要)
といった工夫をしました.
結論としては,残る人は夜中まで飲み続けるレベルにはいい感じに盛り上がって,とても評判がよかったです.全員がカメラを起動しなければ,高級でないパソコンでも問題なく動作することも確認できました.そして,あることを思いました.
「バーチャル居酒屋としてここに人が集まってコミュニケーションが取れるなら,上手くデザインしたらバーチャル研究室になるのでは...?」
バーチャル研究室のデザイン・運用と所感
飲み会が週末だったので次の月曜日から運用できるようにバタバタと布教用の資料とバーチャル研究室のレイアウトを作成しました.そのときの資料は以下のような感じです.
そして「作業するとき」「作業しようという気持ちがあるとき」はアクセスする,というZoomやDiscordと同様の制約で運用をしました.
(レイアウトの上半分だけですが)ある平日の昼はこんな感じでした.
運用してみて,個人的には現実の研究室を上手くブラウザ上に再現できていて面白いなと感じています.「SlackがみんなActiveになっているから頑張らないと...」ではなく, 毎日行く場所があって,そこに入るという動作で気持ちの切り替えができる のはメンタルに対してポジティブに働いています.さらに,人が話をしていてもZoomやDiscordのように部屋に留まる/部屋を出るの2値ではなく 距離を置くことができる のはとてもいい点だなと個人的に思っています.作業しながら少し周りの会話を耳に入れる,という現実世界で当たり前にやっていることを仮想空間上でも再現できるのはとても面白いです.集中したいときは孤立して,誰かと話をしたければ近づくといった,現実世界と同様にコミュニケーションの意思表示を移動というノンバーバルな情報で表現できるのは個人的に評価がとても高いです.
さいごに
いろんな方々が研究室運営に試行錯誤されているようで自分の研究室での取り組みについてもシェアできればと思い記事を書きました(皆さま本当にお疲れ様です...).バーチャル研究室を運用してまだ数日なのでこの取り組みにどれほどの効果が期待できるかわかりませんが,第一印象としては「ZoomやDiscordよりは雑談・議論がやりやすい」といった感じです.あとは,研究室に行くことで気持ちの切り替えを行っていたのが,家でもできるようになり少し楽になりました(アクセスして先生や他の学生がいるとモチベにもなります).私の所属研究室は当面の間テキストコミュニケーションとしてのメールとSlackに加えて,「SpatialChatによるバーチャル研究室」「Zoomによるバーチャルゼミ室」を運用するスタイルになりそうです.小規模の研究室で,かつSpatialChatはカジュアルな使い方をするだけと割り切ってセキュリティを重視していないからできるって感じだと思っています.他に何かいいリモートワークのサービスやアイデアがあればコメント欄に情報を書いていただけたらとても嬉しいです!
少し前にLAPRASさんの遊休資産化しているオフィスを売った話を見ました.冷静な現状分析の結果を反映する面白い取り組みだなと思いました.しかし,社員同士が集まれる場所が全くないのも辛いので,記事では今後は社員の方が集中したり・交流のためのスペースは別に用意するとおっしゃっていました.やはり強い人たちの集まりであっても,物理/仮想問わず人と集まって顔を合わせる空間は必要不可欠のようです.端末負荷少なめでセキュリティもある程度ちゃんとした仮想研究室・仮想オフィスを運用ができるようなサービスは今後のリモートワーク推進時代の新たなビジネスになるのかなー...とか妄想しています.もしかしたら知らないだけでもう既に開発・リリースの話があるのかもしれませんが.理想はやはりラブマシーンの現れないサマーウォーズのOZですかね...?(ピクシブさん頑張ってください!(他力本願))
新型コロナウイルスの影響で世の中・生活スタイルが大きく変わってきています.今まで通りの生活がいつ戻ってくるか見通しも立たず,この状況が長く続く可能性もありますが,皆さま物理的・精神的に体調を崩されませんようご自愛ください.ウイルスに負けずに無理ない範囲で頑張りましょう!
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この記事を執筆・公開後に少し調べると既に同じことを書かれていらっしゃる記事がありましたのでリスペクトを込めてリンクを貼らせていただきます.
【テレワークに神降臨】バーチャルチャット「SpatialChat」がすごい。会議も飲み会もOK!
その他サービス
さらに,SpatialChat以外にもこちらの記事でRemoというサービスがあることを知りました.同じことを考えて先にやってる人は研究の世界にもビジネスの世界にもいるんだなと改めて痛感しました...笑
更に調べると,クラウドオフィスというパワーワードまで生まれる時代になったようです...すごい...
仮想空間上のオフィスにアバターで出勤できるクラウドオフィス「RISA」β版事前登録開始
他にも,ICLR2020でも用いられたgather.townが運営するサービスでは2020年8月12日現在で1ワークスペース最大50名までの空間を無料で利用できます(伝わるかわかりませんがRPGツクールのようなデザインで愛着が湧きます).
Better spaces to gather online
最近新しく知ったサービスでPragliというものがあります.SpatialChat有料化後に一番代替となりそうなツールだと思いました.Discordの上位互換のようなサービスで,アバターやステータス(「今集中している」「疲れた」)など相手の様子がわかりやすく表示されるものになっています.加えて,SlackやGoogle Calendarなど外部サービスとの連携にも特化しているそうで,他のツールとの併用を考えた親和性特化のサービスだと思います.