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予防線

私は経済学についての講義を受けたり、独学で真面目に勉強したりしているわけではなく、耳学問でやっているだけなので、本記事については話半分で聞いてください。

はじめに

ブルックスの法則は、ブルックスの「人月の神話」で有名なものです。これを当然のものとして受け入れて、アンチパターンだからとにかく人を追加するのをやめよう、という発想になってしまったり、その発想をベースに人と話したりすることは、時として失敗や誤解を生みます。

人や資本を増やせば、ある程度は生産量が増大するのが一般であり、そうでないケースであることを示さなければいけません。さもなくば、良かれと思って人が追加されたり、開発は頑固だと思われて見放されたり、ということが起きるかも知れません。

企業は利潤を追求します。その利潤を追求するために、どう開発組織が手伝いができるのか、また、開発組織の手伝いの障害となるのか、これらを話しましょう。

そのために、より視野を広く取り、何が問題なのか、他に類似して考えられることはないか、というのを踏まえて、相手の文脈に沿って説明しなければなりません。

一般例; 限界効用の話

人や資本を倍にしても、倍の生産量にはならない、ということの感覚を掴んでもらうために、卑近な例を話します。

あなたは友人たちと一緒に、ボードゲームやTRPGをやろうとしました。

当初、「ELDEN RING TRPG」と「Dominion」とのいずれをやろうかと相談しました。

それぞれの効用(満足度)を比較し、「ELDEN RING TRPG」を選択し、5時間ほどセッションしました。

さて、この時、さらに追加で1時間「ELDEN RING TRPG」のセッションを継続することは、これまでの5時間で得られた効用(満足度)の5分の1以下になるでしょう。むしろ、当初候補から外れた「Dominion」を1時間追加でやるほうが効用が大きいでしょう。

このように、限界効用は逓減していきます。(ここでの「限界」は1単位、という意味で、捉えてください。)

収穫逓減

生産関数Fは、人(L)と資本(K)とを引数にとって、生産を出す関数とします。

この時、人(L)と資本(K)をλ倍した時(λは1より大きいとする)、生産量はどうなるでしょうか? 以下のように場合わけがされるでしょう。

  1. F(λL, λK) > λF(L, K)
  2. F(λL, λK) = λF(L, K)
  3. F(λL, λK) < λF(L, K)

それぞれ、次のような名称があります。

  • 1は、もとの生産量のλ倍より大きくなるので、収穫逓増。
  • 2は、もとの生産量のλ倍と等しいので、収穫一定。
  • 3は、もとの生産量のλ倍より小さくなるので、収穫逓減。

営業で考えると、人や資本が少ない状況だと、人を倍にしたり、資金を倍に投入して使えるツールを増やしたりすれば、倍以上の成果が得られる可能性があるでしょう(もちろん戦略や戦術やチームがうまく設定できているという強い前提ありきであるが)。

他方で、人や資本が十分にある状況で、さらに人や資金を追加をしても、結局未開拓の営業先がなくなったり商品の力が弱くなったりして、倍の結果は得られず、収穫は逓減することになるでしょう。

このように、状況によって収穫が逓増したり低減したりもしくは一定だったり、というのは発生するでしょう。

収穫逓減の一例としてのブルックスの法則という考え方

状況によって収穫が変わることは、一般にある現象と考えられます。

そこで、ブルックスの法則は、収穫逓減の一例と考えられます。そして、一般の収穫逓減よりもさらに強いことを言っています。つまり、

F(λL, λK) < F(L, K)

と、λ倍未満になるのではなく、倍増する前よりも低くなる事象を示していることになります。

単純作業ではないような、チームでの知識労働は、簡単に作業を分解できず、作業を進めるためにはコミュニケーションの量を増やさなければならないこと、これによってブルックスの法則が扱っている強い収穫逓減が起きてしまうのです。

そのため、人や資本を増やして、その上で、収穫を増やすためにはコミュニケーションのオーバーヘッドの増加への対処が求められます。結局は、チームを適切なサイズにしたり、自己組織化したり、チーム間でのコミュニケーションを円滑にしたり、かつ、組織全体をよくする他はないでしょう。

補足: 別に学ぶ必要はないが、相手のコンテキストに沿った文章を作る

経済学を学べ、みたいなことは言いません。

新たなことを学んだらそれを応用したくなる気持ちは分かりますし、ブルックスの法則も当然のものとしてそれを話の中で使いたくなるでしょう。

しかし、私達はプロダクトを開発しており、ユーザーやステークホルダーに価値を提供しています。ユーザーの使いやすさを踏まえたUIやUXを考えるのと同じように、ステークホルダーの文脈に合わせて組織や開発のことを話したほうがいいでしょう。

壁があるように感じるのなら、境界線を作るのではなく、こちらか歩み寄り、そして相手にも歩み寄ってもらいましょう。そのために、相手に近づく手法として最も使えるものを使っていきましょう。

なお、私の事例ではありますが、ミクロ経済学の勉強は歩み寄りにはあまり使えないような気がしました。

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