はじめに
こんにちは。Physics Lab宇宙班班長です。12月に入り日を追うごとに寒さが身にしみるようになってきましたね。
ところで冬といえばオリオン座。夜空を見上げると暗闇の中に煌々と輝くオリオン座の星々を見ることができます。ここ数千年の人類の文明の発展は凄まじく、地上は文明の証に覆い尽くされてしまいました。しかし見上げる星々は、大昔も、今も、変わりません。昔の人も同じ夜空を眺めていたのだなと思うと、悠久の時間の流れを感じることができますね12。星を眺めるということは、そんな非日常な経験をさせてくれるものかもしれません。
宇宙はこういったロマンに溢れていますが、なんと現代の人類は物理学という武器を用いて宇宙のことを調べることができるようになりました。これが宇宙物理学です。我々宇宙班はそんな魅力あふれる宇宙物理学について学んでいます。ここではその内容について触れた上で、最後に班として行っている活動についてご紹介しましょう。
そもそも宇宙って何なの?
宇宙物理学について語る前に、我々の住んでいる宇宙について知っておきましょう。
太陽系
まず我々は地球に住んでいます。地球の周りには月が回っていて、さらに地球は太陽の周りを一年かけて回っています。太陽系は、地球と同じように太陽を中心とした周回軌道を描く天体によって構成されています。ちなみに太陽系はどこまでを指すか知っていますか?一番外側の惑星は海王星ですが、実はその外側にも冥王星、エリスといった準惑星や多くの小惑星が存在し、これらを太陽系外縁天体と呼びます。太陽系外縁天体の遥か遠くにはオールトの雲3と言われる球殻状の天体群が存在すると考えられており、長周期彗星の起源とされています。ここまでは太陽の重力圏の中に存在しているので、太陽系と呼べるでしょう。
銀河系
さて、太陽系を飛び出してみましょう。一番近い恒星はどこでしょうか。それは太陽からの距離4.24光年のところに存在するプロキシマ・ケンタウリです4。太陽と同じような恒星はたくさん存在し、銀河系(天の川銀河)を形作っています5。銀河系の中心いて座A*には超大質量ブラックホールが存在しています6。銀河を形成する恒星や星間ガスは全体として渦を巻くように分布しており、太陽系はその腕の一つの端の方に存在しています。ちなみに太陽系は銀河の中では端の方にいます。銀河の質量は可視光による観測などから推定されたものより遥かに大きく、ダークマターが銀河の質量の大部分を担っていると考えられています。
大規模構造、そしてその先
これで終わりではありません。銀河系と同じように恒星などが重力によって集まった構造は多く存在し、銀河といいます。代表的なものにお隣の銀河のアンドロメダ銀河があります7。銀河は渦巻き銀河に限らず楕円銀河や不規則銀河も存在します。銀河が数百から数千個集まったものは銀河団と呼ばれます。銀河団よりもさらに大きな構造が、宇宙の大規模構造です。大規模構造は、銀河が集まった壁のような領域と銀河がほとんど存在しないボイドからなっており、ちょうど泡のような構造となっているため宇宙の泡構造とも呼ばれます。宇宙の地平面を超えてこの構造が続いていくと考えられています。
宇宙物理学は何を調べるの?
さて、地球から始まり、太陽系、銀河、銀河団、大規模構造と宇宙は圧倒的なスケールにわたる階層構造をもつことがわかりました。宇宙物理学はこのすべてを扱おうとしているのですから、その対象も方法も多岐にわたります。
研究対象
宇宙物理学で扱う研究対象は、主に以下のようなものがあります。
- 太陽・恒星
- コンパクト天体(ブラックホール・中性子星・白色矮星の総称)
- 銀河・銀河団
- 宇宙論
太陽・恒星では太陽については内部構造、磁場、太陽風など、恒星については質量光度関係の系統的な理解、誕生と進化の過程、核融合の仕組み、重力崩壊と超新星爆発などを扱います。
コンパクト天体では、中性子星の内部構造、磁気圏といった天体の物理にとどまらず、ブラックホール周囲に形成される降着円盤、コンパクト天体の連星、さらには銀河とブラックホールの共進化など、幅広いスケールの現象を扱います。
銀河・銀河団では、銀河の形成・進化、スターバースト、銀河風、活動銀河核といった銀河の活動現象、銀河とダークマターの関係などを扱います。
宇宙論では、この宇宙の進化の歴史や、宇宙全体に関わるスケールの現象を扱います。膨張宇宙の力学や初期宇宙、ダークマターとダークエネルギー、宇宙の大規模構造、宇宙マイクロ波背景放射などを扱います。
宇宙物理学は基礎的な物理のほとんどを必要とすることが特徴で、例えば宇宙はプラズマや流体でできているので流体力学、電磁波を扱うので電磁気学、初期宇宙の熱史を理解するために熱統計力学、宇宙の力学を知るために一般相対論、ダークマターの候補を調べるために素粒子物理学といったように扱う分野に応じて色々な物理を使います8。これもまた宇宙物理学の魅力の一つでしょう。
研究手法
宇宙物理学はさまざまな手法を用いて研究されています。およそ以下のいずれかに分けることができます。
- 観測・データ解析
- 実験・装置開発
- 数値計算
- 解析計算
観測・データ解析では、世界中に存在する地上望遠鏡や宇宙望遠鏡、宇宙線検出器などで得たデータを解析し、天体現象の分析や物理的背景の考察を行います。
実験・装置開発では、観測に用いる装置を設計・開発したり、天体現象に関連した実験を行ったりします。
数値計算では、物理理論を用いて第一原理から天体現象のシミュレーションを行います。
解析計算では、初期宇宙や宇宙論について一般相対論や素粒子物理学の基礎理論を駆使して観測事実を再現するモデルを提案したり、物理の基礎理論を宇宙を実験台として検証したりします。
現代はマルチメッセンジャー観測の時代で、電波・可視光・ガンマ線などに限らず、ニュートリノ、重力波なども相補的に用いて観測が進められています。また宇宙物理学では大規模なデータを扱うため情報科学と相性がよく、近年は量子コンピュータや機械学習も用いられるようになってきています。今後はますますこの傾向は強まっていくでしょう。
宇宙班の活動
最後に我々宇宙班の活動を紹介します。最初に輪読により基礎的な宇宙物理学の知識を身につけたのち、五月祭ではポスター発表及び企画展示を行います。
ポスター発表では、班員が各自の興味のあるテーマについて深掘りし、ポスターにまとめて発表します。過去のテーマには、中性子星の内部構造、地球磁場、天体ジェット、重力波、宇宙論などがありました。
また今年度は企画展示として宇宙物理学に関連した装置・望遠鏡を有志で製作、展示します。今のところ電波望遠鏡もしくはレーザー干渉計を製作する予定です。宇宙は一般の方でも興味を抱きやすい分野なので、子供から物理を知らない大人まで楽しめるような面白い展示にしようと思っています。ぜひご期待ください!
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古代ギリシャの哲学者、タレスは夜空を見上げて天文の観察に夢中になるあまり、井戸に落ちてしまったという逸話があります。そこまで熱中できることがあるといいですよね。 ↩
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井戸といえば、村上春樹の小説「ねじまき鳥クロニクル」では主人公がある晩に自ら井戸の中に入り、周りから隔絶された状況の中、深く思考を巡らせる場面があります。そこから見た月は、いつも半月です。ちなみに、地球から見た月はいつも同じ面です。物事はいつも見ている面が本質とは限らないのです。 ↩
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地球と太陽の距離の約1万から10万倍のところに位置すると考えられています。理論的にその存在が予想されていますが、地球から遠すぎて直接観測できないので、仮説となっています。 ↩
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光速で進めば4.24年で到着します。意外と近いような気もします。 ↩
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筆者は天の川銀河を肉眼で確認したいと兼ねてから思っています。長野の人里から離れたところに行けば見えるのでしょうか。 ↩
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2022年にイベントホライズンテレスコープによって直接観測に成功しました。これにより銀河系の中心部にブラックホールが存在することが確実になりました。ちなみに筆者はこの撮影画像のクリアファイルを国立天文台で購入して、いつも持ち歩いています。 ↩
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数十億年後には銀河系(我々のいる銀河)に衝突し、合体すると考えられています。銀河間の距離は思ったより小さく、例えば銀河系からアンドロメダ銀河までの距離は銀河系の大きさの23倍です。一方太陽とプロキシマ・ケンタウリの距離は太陽の大きさの3000万倍です。不思議です。 ↩
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と言ってもすべての物理理論を理解しないといけないわけではなく、単純に宇宙物理学が広すぎるため幅広い物理を必要とするだけです。必要に応じて学びます。ちなみに大学の先生は宇宙物理学は物理の総合格闘技だと言っていました ↩