【初級編; 2017年版】脳波からパソコンを操る!ブレインコンピュータインタフェース(BCI)って何?

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(DISCLAIMER: All the contents provided in the article are expressing my own opinions, experiences and suggestions, not claiming the perspective on my employer or organization.)

0, はじめに

はじめまして、Life is Tech!メンターのシャツインと申します。

Life is Tech!(ライフイズテック)は日本・シンガポール・オーストラリアをベースに、中高生向けのプログラミング教育を行う会社で、最近ではサッカー日本代表の本田圭佑選手から投資を受けたり、大人気マンガ『進撃の巨人』とのコラボ企画が始まったりと、何かと話題になっている会社でもあります。

今回はそんな会社で、プログラミング教育に携わってきた経験を活かし、Life is Tech!に伝わるメンターのエッセンス的なものを言語化できればなと思って(実は下書きも完成して)いたのですが、

同じLife is Tech! Advent Calendar 2016内にてメンターのアナザーが素晴らしい記事
(中高生500人以上にITやプログラミングを教えてみて、ワークショップというUXを本気で考えてみた)をアップロードしていたこともあり、トピックを変更して公開日前日に急遽筆を執っております😥

筆者は大学院の研究で、人間の『脳波』から『意思』を抽出する"ブレインコンピューターインタフェース(BCI)"というものを扱っており、
本アドベントカレンダーをご覧いただいている中高生・大学生の皆さんにも興味を持っていただければということで筆を執りました。

この記事は、以下の内容で構成されています:

1, BCIってなに?

BCIは、日本語名では『脳ーマシン(機械)ーインタフェース』とも言われ、
入力された人間の脳波を解析し、機械を使って何らかのフィードバック/動作を返してくれるインタフェースです。

脳波は、人間であれば、誰もが、頭皮から、常に、発している微弱な電気信号です。単位は、マイクロボルト(μV)で、例えば乾電池の100万分の1程度の大きさです。

BCIは、脳波を入力として動作に変換することの総称を言うため、実に様々なタイプがありますが、一番手間がかからない非侵襲型は、頭にキャップと小さな電極をつけるだけで脳波を計測することができます。シャツインが研究で使っているのもこのタイプです。

F_BCISpecification.png

図1: BCIの解説図です。例えば、ユーザが『目の前のロボットを左に動かしたい!』考えているとします。BCIは、ユーザの意思を特定するため、特定のタスクを与え、得られた脳波をもとに解析を行います。もしユーザの意思が脳波に反映され、BCIが正しく解析することができれば、ロボットは左方向に動きます。このロボットは、他にも車椅子や文字入力システムにも置き換えることができ、文字通り『脳波で動く車椅子』や『脳波で入力できるパソコン』を作ることができます[1]。

計測された脳波は、BCIの中で大きく分けて

  • 信号処理 - Signal Processing (脳波に入るノイズを抑えて解析をしやすいように準備)
  • 特徴抽出 - Feature Extraction (脳波の中で人間の意思が乗っている部分をうまく切り取る)
  • 機械学習 - Classification (切り取られた部分をもとに、人間の意思を判別する)

という3つのプロセスで解析が行われます(図1参照)。

最後の機械学習のパートでは、大量の脳波データを
『これは正解!』『これはハズレ!』
と振り分けながら識別を行うため、今話題の人工知能ともとることができます。

2, BCIは何に使われるの?

これらBCIの技術は、主に『体が動かせなくなった難病患者支援』のために研究開発されています。

世の中には、全身の筋肉が次第に硬直してしまう
ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経・筋難病患者さんが多数いらっしゃいます。
患者数は、日本だけでも1万人いると言われています。

彼らは、健常者と同様に意思や思考を持ちつつも、身体動作や発言を困難とするため
自らの意思を表現する手段に乏しく、生活上の決断の大半を介護者に任せざるを得ません。

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図2: ALSのような神経・筋難病患者さんは、他人に伝えたいことがあったり、体を動かしたくても、筋肉が硬直してしまっていることから、意思を伝えられず苦しい思いをしています。家族、そして介護者とコミュニケーションがとれない"閉じ込め状態"は彼らにとって非常に苦痛であるそうです。ALSは一度悪化すると薬でも回復することはないと言われ、BCIは彼らにとって希望の光となりえる新技術です[2]。

そこで、BCIは、入力に脳波のみを必要とし、ALSなどの難病患者さんにも扱えるため、
彼らにとって、他人とのコミュニケーションの代替手段になると考えられています。

もしBCIが正確にユーザの意思を読み取ることができれば、彼らはALSを患っていても自由に行動し、発言することができます。
まさに、科学技術の進歩が人々を救う世界!

また、アメリカでは、実業家のイーロン・マスク氏が、また違った視点からBCIを見つめています。

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[Youtubeより引用] Elon Musk elaborates on his A.I. concerns (2016.9.15)

彼は動画の中でBCIについて言及し、『人間が次なる世界に行くためには、脳とパソコンを直接結びつけ、既存のインタフェースの概念を打ち破ることが重要だ』と述べています。

脳でパソコンを操る!と聞くと少々近未来感を感じずにはいられませんが、
こういった技術はBCIとともに、もう現実に近づいてきているということですね。

3, BCIはどうやって人間の意思判別をするの?

現状のBCIの技術では、『脳波から人間の意思をスイスイ読み取る』ということは難しく、人間に対してある一定の課題(タスク)を与え、その反応から意思を抽出する、という手法がメジャーです。

BCIのタスクの中で有名な手法に、オドボール課題というものがあります。
これはP300型刺激駆動BCIとも呼ばれ[2]、人間の五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)に複数の刺激を与え、そのうちの1つにわざと特定の脳反応(P300反応)が発生するようにタスクを課す手法です。

専門用語が出てきて難しいと思いますので、以下の図3とキャプションを御覧ください。図3の例では、触覚を用いたオドボール課題の例を示しています。

Screen Shot 2016-12-19 at 00.20.44.png

図3: 触覚を用いたP300型刺激駆動BCIの解説図です。画像内の番号とともに、以下に手順を追って説明しますのでご覧ください。

  1. BCI実験を受けるユーザの左右両手に小さな振動子(バイブレータ)を付け、コンピュータ制御のもとランダムに10回ずつそれらを振動させるとします(振動刺激を与える、ともいいます)。この例では、左右両手の振動子に飲み物を関連付けています。Aの手はお茶、Bの手はオレンジジュースが関連付けられています。ここで、もしユーザがお茶を飲みたければAの手に意識を集中させ、振動した瞬間に「1, 2, 3…」と数をカウントします。一方でBの手が振動した際は、全く意識を向けず、数も数えないように指示します。脳波は、頭部に付けられた電極から常に記録され、特に振動刺激が与えられた瞬間の脳波データを蓄積していきます。
  2. 左右両手10回ずつ、計20回の刺激提示を終えた後、もしユーザがAの手に対して振動刺激が与えられた瞬間に集中することができていれば、また上手にカウントすることができていれば、図中グラフ内の紫色の線で示されているP300反応というものが計測されています。これはアハ反応とも呼ばれ、人間が期待している動作や事象が発生した際、脳内で複数のニューロンが同時発火し、脳活動の電位が一瞬だけ高まる現象です。一方でグラフ内水色の線は、Bの手に振動が与えられたときの脳反応です。こちらの振動刺激には意識を集中させておらず、また数も数えていないため、P300反応は計測されていません。このAの振動刺激に対する脳波とBに対する脳波の差分を用いて、ユーザがどちらの手に意識を集中させていたかを判別することができます。
  3. Aの手とBの手、ユーザがどちらに意識を向けていたか?の判別は、最終的に各脳波データを機械学習にかけることで行うことができます。実際の実験では、トレーニング実験(機械学習に正解データ、ハズレデータを覚えさせる)と評価用実験(それらデータをもとに、新たな脳波データを分類する)と2つに分けて行われます。機械学習は、Aの脳波とBの脳波を見比べ、どちらの振動刺激が与えられた時、P300反応が出現しているか?を解析します。機械学習にもさまざまなパターンがありますが、この例では、Aの振動刺激が与えられた際、P300反応が計測されている確率が92%、Bが43.3%という結果から、Aの振動刺激が与えられた際にP300反応が計測されている、つまり、ユーザは実験中Aの刺激に集中していた=>ユーザはお茶を飲みたかったと予測することができます。

図3のプロセスを経て、オドボール課題を用いたBCIは、会話や動作を必要とせずとも、脳波のみで人間の意思判別を行うことができます。

また、図3では、触覚を用いたオドボール課題、別名P300型触覚刺激駆動BCIの解説を行いましたが、これは1つの例に過ぎません。
先に、人間の五感に複数の刺激を与えると述べましたが、

  • 視覚を用いたBCI(コンピュータ画面に円形、三角形、四角形、様々な画像をランダム表示し、その中の1つの形に集中してもらう)や、
  • 聴覚を用いたBCI(イヤフォンからビッ、ブッ、ボッなど様々な音源をランダムに聞かせて、その中の1つの音に集中してもらう)

も存在します。

また本来であれば、オドボール課題は、6個や10個の刺激の中から1個に集中するというものなので、選択肢も2択ではなく、もっと多くの選択肢を用いて意思選択を行うことができます。

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[Youtubeより引用] Neurocommunicator (日本の研究所、産総研が研究開発しているBCIです)

更に、オドボール課題だけでなく、全く他の手法を用いたBCIも多数あります。

  • 定常刺激を与えて脳反応を誘発するBCI (SSVEP/SSSEP)
  • 事象関連同期を用いたBCI (ERD/ERS)
  • 運動想起を用いたBCI (Motor Imagery)

より専門的になってしまうため今回は割愛しますが、BCI研究の世界はどんどん広がっているということだけでも覚えておいてください。

4, BCIの実用例(Youtube)

シャツインが所属するBCI-Lab-Groupで開発した、いくつかのオドボール課題を用いたBCIと、その実用例をいくつか紹介させていただきます。
全てのBCIで、脳波を解析した後、ロボットや車椅子、文字入力などのアプリケーション応用を行っています。

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[Youtubeより引用] Tactile-body BCI-based NAO robot control
全身にバイブレータを配置し、振動刺激を与えることにより誘発した脳波から、人間型ロボットを操作します。ユーザは寝ながらの状態でも意思伝達を行うことができ、ALS患者などへの実利用を想定して開発されたBCIです。

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[Youtubeより引用] autdBCI and robot control (winner project of The BCI Annual Research Award 2014)
ユーザの手のひらに、超音波で生成される非接触型の触覚刺激を複数種類与えて脳波を誘発し、隣にあるロボットアームを操作します。ロボットアームが勝手に動いているようにも見えますが、操作をしているのは隣にいるユーザです。

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[Youtubeより引用] Wheelchair driving with tpBCI control by Kensuke & Tomek
こちらもユーザの手のひらに、ピンで押されたような接触型の触覚刺激を与えて、解析された脳波から車椅子を操作しています。まさに『脳波で動く車椅子』です。

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[Youtubeより引用] Chinese PinYin BCI speller • 基于声音听觉的BCI(脑机接口)拼音输入系统
ユーザに対して、様々な方向のスピーカーから中国語の音を与えて、入力したい文字の1つに集中してもらいます。BCIは、脳波解析の結果選択された音を画面に入力していきます。これは『脳波で入力できるキーボード』になり、意思疎通が難しい患者さんにとってコミュニケーションの手段となります。また、設計次第で他言語対応も可能だということをお分かりいただけたと思います。

これらの例のように、脳波を入力として、出力を自由自在に変えられるのはBCIの大きな魅力でもあります。

5, 2016年日本/世界のBCI研究開発事情

今もBCIの研究開発は世界中の研究者、研究室によって進められています。シャツインが所属するBCI-Lab-Group(筑波大学&東京大学のメンバーで構成)もそのうちの1つです。

ここ数年での人工知能の飛躍的な発展のおかげで、BCIの精度も徐々に高くなってはいますが、人間の脳波を扱うという特性から個人差が非常に大きいということもあり、最新の論文で報告されている手法でも万人に適用できるとは限りません。

また、『考えただけで言うことを聞いてくれるBCI』が実現にするのもずっと先のことでしょう。
当面は、今回紹介したような、様々なタスク/課題を解いてもらい、それによって誘発された脳波から意思を抽出するBCIがメジャーとなっていきます。

このBCIですが、2016年現在、日本と欧米でも大きく研究スタイルは異なります。以下は、シャツインが今年BCIの国際学会(BCI Meeting 2016)国内学会(第三回脳神経外科BMI懇話会)に参加して感じた所感です。

日本 欧米
BCIの目的ユーザ 臨床(医学応用/障害者支援)寄り 一般ユーザ寄り
使用BCIのタイプ 侵襲型(手術をして電極を埋め込む) 非侵襲型(頭蓋骨の外から脳波計測)
研究者のバックグラウンド 医学/ロボット分野 さまざま(コンピュータサイエンス/医神経工学)、研究者ではなく起業家のケースも
研究趣向 プロジェクト趣向(素晴らしい研究PJも単発で終わってしまう) オープンソース趣向(1つの技術を独立させず、コミュニティで開発に取り組む)
ビジネス転換 行いたいが、実行に移せていない 頻繁に行われる

BCI-Lab-Groupではヨーロッパ出身の先生が指導を行っているため、どちらかというと欧米寄りのスタイルをとっています。
世界では、BCIは一般ユーザをも対象とし、研究者に限らず様々なスタートアップが参入、非常にアツい分野になっています。
まだまだBCIや生体医工学の分野は確立されてから若い分野ということもありますが、国際学会に出ると世界を変えてやるぞ!という勢いを感じます。負けじと自分も研究に励みたいところです😎

6, おわりに 〜BCIについてもっと知りたい!〜

BCIについてざっと説明させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。
中高生や大学生の中にも、将来脳波やBCIを扱った研究をしたいという方々もいるかもしれません。参考になれば幸いです。

もしBCIについて研究したい、更に知りたい!という人がいらっしゃれば、

  • 英語で最新の文献を読み漁る
  • 国内でBCI関連の研究室にコンタクトし、先生や先輩に聞きまくる

の2つの方法をおすすめします。

まず、『英語で最新の文献を読み漁る』は、BCIが日々進化を遂げている分野であることと、日本で研究している人が多くはないことから、日本語の情報やブログはすでに一昔前のものが記載されている、ということが多々あります(もちろん、この記事に関しても有り得ることです)。

少々チャレンジすることが必要となりますが、変化の大きい研究分野であることは幸せことなので、是非チャレンジしてみてください。シャツインはGoogleアラートで『Brain-Computer Inteface』をワード登録し、気になる記事があればこまめに読んでいます。

2つめ、『国内でBCI関連の研究室にコンタクトし、先生や先輩に聞きまくる』は、もしその環境下にいれば最も有力な方法です。研究室には、脳波計などのデバイスが揃い、ソフトウェアなどの操作方法を知る先輩方もおり、何よりBCIに関するノウハウが多く溜まっています。

BCIのことを調べる際、日本語でのWeb上ではもちろんのこと、時に英語で調べても出てこない情報などがあり、そういった際にノウハウを持っていて、日本語で質問ができる、日本人の先輩/先生方は非常に貴重な存在です。自分が知る限りでは、慶應、東京農工大、電通大、豊橋技科大などに関連研究室はあります。身近にあれば是非尋ねてみるのも良いかもしれません。

もちろん、シャツインもできる限りのことなら答えられますので、気兼ねなくご連絡をください。
それではみなさん、良いクリスマスを!

参考文献

[1] Kodama T, Shimizu K, Makino S, Rutkowski TM. Full–body Tactile P300–based Brain–computer Interface Accuracy Refinement. In: Proceedings of the International Conference on Bio-engineering for Smart Technologies (BioSMART 2016). Dubai, UAE: IEEE Press; 2016. p. 19.
[2] Kodama T, Makino S, Rutkowski TM. Tactile Brain-Computer Interface Using Classification of P300 Responses Evoked by Full Body Spatial Vibrotactile Stimuli. In: Asia-Pacific Signal and Information Processing Association, 2016 Annual Summit and Conference (APSIPA ASC 2016). APSIPA. Jeju, Korea: IEEE Press; 2016. p. 176.

文責

筑波大学大学院 システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻 マルチメディア研究室 BCI-Lab-Group 兒玉拓巳/Takumi Kodama