当記事は以下の3本の連続記事の1本目です。
- Watson Content Hub = クラウド上のヘッドレスCMS + Watson + CDN
- ヘッドレスCMS = Watson Contents Hubを使ってみた~ 1.オーサリング編
- ヘッドレスCMS = Watson Contents Hubを使ってみた~ 2.アプリ開発編
- 執筆時点(2017/06)での情報です(WCHは機能追加がどんどん行われているので..)
Watson Content Hubって何?
Watson Content Hub( 以下WCH) はクラウド上で展開されているサービスで、要はWebやモバイル・アプリケーションの画像イメージや動画を一元管理する「コンテンツ管理システム(CMS)」です。
昨今のコンテンツ管理システム(CMS)のトレンドとして「ヘッドレスCMS」や「デカップルド・アーキテクチャ」がキーワードになりつつあります。( 既にDrupalなどの一部オープンソース製品はいち早くこのトレンドに対応しつつあるようです)従来のCMS製品はコンテンツを表示する「プレゼンテーション」とコンテンツを格納する「リポジトリー」が密接に結合していました。そのためWeb、モバイルなどのデリバリー・チャネルが増えるにつれ、様々なCMS製品が乱立し、近年は運用管理のコストや全体的なコンテンツ管理のやりづらさが課題になってきています。( カッコよくいえば「顧客に対して統一的な顧客体験が提供しずらい」状況と言えます)
ヘッドレスCMSのコンセプトは、この**「プレゼンテーション」と「リポジトリー」を分離してしまおう**、という考え方です。具体的にはコンテンツは1回だけつくって(create once)、APIを介してどこにでも公開(publish everywhere)してしまおう、リポジトリーとプレゼンテーションはREST APIを介した疎結合な形になるので、プレゼンテーション層の実装はお好きなテクノロジーを使ってご自由にどうぞ、ということです。
Watson Content Hubはこの「ヘッドレスCMS」をクラウド上のサービスとして提供すべく、一から作られました。IBMのCMSとしては従来からIBM Digital Experience Managerがありましたが、これとは(連携はできますが)全くの別物です。
Watson Content Hubの特長
-
統一された顧客体験
- 同じコンテンツをWeb/モバイル/タブレットなど異なるチャネルに統一感を持って表示でき、お客様に統一された顧客体験を提供できます
-
クラウド上のサービス
- 製品の導入や環境構築の手間が不要で、サインアップすればすぐ始められます
- AkamaiのCDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)と自動的に連携し、世界中のユーザーに性能良くコンテンツを配付できます
-
モダンUIフレームワークとの親和性
- ヘッドレスCMSなのでプレゼンテーション層を選びません
- コンテンツへはRESTでアクセスしますので、プレゼンテーション層の言語や実装も自由です
- 特にAngular,Backbone,Handlebarsなど動的にコンテンツを生成する昨今のモダンなUIフレームワークとの親和性に優れています
-
コグニティブ(Watson)
- Watson APIを使ってイメージ画像に自動的にタグ付けしてくれます
- PDFやWordなどの文書もタグ付けします
-
絶え間ない機能強化
- WCHは継続的デリバリーのモデルを採用しており、2016/11月のサービス開始以降、毎月のように機能強化がなされています
- 過去の新機能はここのNew Featuresから参照いただけます。
-
スモールスタート
- 月3万円くらいからスタートできます(コンテンツ量にもよりますが)
- 上記のWatsonやCDNの費用はサービス価格に含まれています
- 30日間の無料トライアル期間があります
補足
- 上記の利点はあるものの、既にCMS製品をご利用されている場合、それを別の製品サービスに移行するとクライアント側のHTMLページやロジックに手を入れることになりますので、手間も時間もコストもかかります。私見を述べるなら、WCHは新規のプロジェクトからスモールスタートでご利用頂くのがよいのかな~と思います。(コンテンツ自体の移行はAPIを介してアプリケーションやwchtoolsコマンドで実施できるので、一度にまとめて行うのも可能だと思いますが)
注目のコグニティブ・タギングとは?
コンテンツ管理で手間のかかる点としてイメージ画像のタグ付けがあります。WCHではイメージ画像をアップロードすると内部でWatson API( Visual Recognition)を呼び出して、映っているものを解釈の上、自動的にタグ付けを行ってくれます。これを「コグニティブ・タギング」と呼んでいます。
以下は実際にWCHのオーサリング画面でイメージ画像をアップした直後の画面です。Watsonによるイメージ画像の認識結果をもとに、自動的に様々なタグが付与されている様子がご覧いただけるかと思います。(人間が映っているので顔認識も行われ、性別や年代も付与されていますね)
- タグは一度にまとめて追加されますが、後から不要・不適なものは削除できます
- ご自身のタグを個別に入力できます
- タグは学習済のVisual Recognitionを使っています。残念ながらカスタマイズしたり画像を学習させることは(現時点では)できません
- 記事執筆時点(2017/6月)ではタグは英語ですが、近々日本語にも対応の予定と(非公式に)聞いています
- 静的なイメージ画像のみです。Watsonによる動画への自動タグ付けは残念ながらできません。(WatsonのVisual Recognition自身が現時点では動画に未対応なので)
なおイメージのみならず、Word/PDFドキュメントへもタグ付けできます。以下はpdf文書にタグを追加した例です(タグの分類のされ方から見て、内部的にはWatson APIのDocument ConversionやNatural Language Uunderstandingを使っているのかな?と想像)
YouTube動画-Cognitive tagging(0:57)
WCHの全体図(仕組み)
下記がWCHの全体図です。
大きくは自社のコンテンツを登録・オーサリングする「オーサリング環境」と、本番環境のCDNにパブリッシュしてコンテンツを呼び出す「デリバリー環境」に分かれ、各々にREST APIが提供されています。いずれもパブリック・クラウド上に展開されています。
【オーサリング環境】
- オーサリング環境にはブラウザー上のUIまたはREST APIを介してアクセス
- コンテンツを定義したりアセットを登録するためのオーサリング用画面(UI)
- コンテンツをまとめて登録したい場合などのためのコマンド・ツール(wchtools)
- オーサリング環境の機能・操作はすべてAPIとして実装されています。(ゆえに上記のオーサリング画面もAPIを用いたアプリケーションと言えます。ただしお客様が当該API群を用いて自社専用のオーサリング環境を一から作ることは想定していません)
【デリバリー環境】
- オーサリングが完了したコンテンツは自動的にAkamaiのCDNにパブリッシュされます
- お客様サイト側で稼働する本番アプリケーションはデリバリーAPIを呼び出してJSONの形式でコンテンツの情報を入手します。(APIの結果戻ってくるJSONデータを使ってHTML等に変換・表示するのはアプリケーション側の責務になります)
- デリバリーAPIはREST/JSON形式であり、呼び出し側の言語・実装は自由です
今後のロードマップ/計画
ブログ記事 The year ahead – What’s coming for Watson Content Hub in 2017に2017年を通してこんなことをやっていくよ、との記載があります。ブログなので「ビジネス上の判断」で変更されることもありますが、ご参考までに項目だけ抜き書きしておきますね。
- コンテンツおよびアセット管理機能の更なる強化
- コグニティブ機能の更なる強化 - インサイトとリコメンドを提供
- (IT専門家ではない) ビジネス・ユーザー向けのツールを提供
- サイトの管理 - ウェブサイトの管理ツールを提供
- インフラストラクチャ&セキュリティ - より多くのデータセンターに展開
- 拡張性 - 開発者がWatson Content Hubの機能を簡単に拡張できるように
- IBMの既存製品サービスとの統合
- Watson Campaign Automation(旧名 IBM Marketing Cloud )
- Watson Digital Commerce(旧名 IBM Commerce) ..etc
リソース/文献
Watson Content Hub製品ページ - トライアルはこちらから
マニュアル(Knowledge Center)
デベロッパー向けサイト
デベロッパー向けドキュメント
各種サンプル
Github
API
dW Answers(forum)