この記事について
「いいね」追加による Qiita の仕様変更について、溜飲が下がる膝を打つような記事が見当たらなかったのでまとめることにした。
特にアドベントカレンダー用に起こした記事ではないが、「Qiita改善案 Advent Calendar 2016」があったので4日目の記事として乗らせていただくことに。
なお、記事タイトルは『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』1 のパロディである。
Qiita に対して非常に批判的な記事であるが、改善を願ってのものと解釈されたい。
また、本記事は共感および評価を期待するものであり、数字に表れなくなってしまった「ストック」ではなく、必ずしも押す必要性のない「いいね」が押下されることを強く希望する。
今北産業
- いきなり切り替えとか、なにやってんの!
- 誰得なのか目的が見えない
- 「いいね」は違う、そうじゃない
Qiita の仕様変更
今回の仕様変更について公式に述べられている見解は以下の通りである。
投稿記事やコメントに「いいね」できるようになりました(Contributionの算定基準も変わります) - Qiita Blog
Qiitaでは現在、投稿記事に対して「ストック」することができます。この機能は「今は忙しいから後で読もう」といったときに使うことができますが、一方で「素晴らしい記事を見つけた」という時にも使うことができ、実質的に記事へのフィードバックとしても機能していました。 その結果、「投稿記事を保存する」というアクションと「投稿記事を気に入った」というアクションが混在し、記事への評価が分かりにくくなっていました。
今回の「いいね」の導入により、ストックは 純粋に投稿記事を保存するという役割だけを担当し、今後**「この記事はいい記事だ」というフィードバック**は、「いいね」によって表現できるようになります。
※太字は引用者による
言及している記事まとめ
まずはすでに表明されている今回の変更への反応を見てみよう。以下引用者によるピックアップ。
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Qiita > 「いいね」機能についての要望 11/16 16:27
- 「いいね」した記事の検索は用意されていない
- 「ストック」タブ押下時に表示されるアイコンは「いいね」のものです (ストックではありません)。
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Qiita 見出し欄の表示に対する改善要望 11/17 00:48
- 見出し欄の表示方法が下記の画像のように変わってしまいました。
- 11月29日21時45分時点で修正が確認されました。
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Qiita の「いいね」ボタンの位置は間違っている 11/17 15:29
- まだ「はじめに」しか見えていないのに、「この記事いいね!気に入ったよ!投稿者さんありがとう!」という気持ちになれるでしょうか?
- 解決方法は簡単です。右上の「いいね」ボタンをなくすだけです。
- 記事下部の「いいね」ボタンをさらに目立たせるとより良いかもしれません。
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「ストック」ボタンを救済して 11/17 17:41
- そもそも Contribution という名前が紛らわしいのだが。誰に何に対する寄与? Qiita に対して?
- 別に Qiita でその辺の雑談系 SNS のごとく「だよね」「そうだよね」と馴れ合いたいわけじゃない。
- 自身に有用な記事をピックアップしてマークを付けておければそれでいいのよ。それが「ストック」の意味の筈。
- 今の UI は「ストック」ボタンが冷遇されすぎていて辛い
- ストックするときって「いいね」しなきゃいけないような強迫観念を感じてしまって...
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「ストック」と「いいね!」ボタンの既視感 11/17 20:29
- 結局どうすればいいのかわからないから、全部押してしまう。
- いくらストックの存在感を薄めたところで、今までのストックの重要性が薄まるわけではない
- いいね!しあって馴れ合いたいわけじゃないから、シンプルに情報整理という意味でストックでいいのではないか
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Qiitaの「いいね」について思うこと 11/18 15:36
- Twitterアンケート見る限り、「いいね」をこれまでのストックの位置を置き換えてまで導入する必要があったのかな?と疑問に思いました。
- 混在したままでも特に問題無かったのでは?
- 「ストック」はそのままで「いいね」を添える方が自然では?
- ストックがContributionへの影響度ゼロというのは違和感あります。
- 今まで「Thank」がContributionに換算されず不満だったのが変わったのは良かった
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UI考:Qiita と QiitaTeam 11/21 16:58
- 何よりダメなのは、仕様変更のあった Qiita において、かつて「ストック」があった場所に同じ見た目で「いいね」が配置されているところ
- Qiita 記事の下部は何だかごちゃごちゃした印象が拭えないので、もう少しすっきり綺麗にしてもらいたいなあと思います。
- 検索結果に検索窓が二つ存在するのも謎
- 「ストック済み」のほか、「いいね済み」、「自分が投稿した記事(限定共有・下書き含む)」でも絞り込めたら一層便利
- キーワード検索で辿り着くのは一苦労
- 「ストック」「自分の投稿」内での検索がまた違った体験になってしまっているところが、改善の余地がありそう
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Qiitaの「いいね」について思った事 11/21 19:23
- 良い記事だからこそストックしておいて、いつでも読めるようにするものだという考えだった
- ストック数 = 記事の評価で問題無かった
- ストックする程では無いけれど、一読したよ的な意味も混めて「いいね」みたいな機能があれば良いなとは前々から思っていました。
- ストックしてもらえたのに貢献した事にならない事にすごく違和感を覚えました。
- 違和感を感じたのがストック数が表示されない事
- せめて いいね と ストック数 は両方とも値を表示するべきでは無いでしょうか?
- 「投稿記事を保存する」 イコール 「投稿記事を気に入った」 で 良かった
- 救済としてストック数だけは表示するようにしてほしい
- Qiitaの「いいね」追加でUIの難しさを感じた 11/22 14:02
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「いいね」が実装されたので「ストック」を厳選したい 11/27 10:52
- 一覧からストック解除できなくて面倒!!!!最悪!!!!
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【注意!】Qiitaの「いいね」ボタンを押しただけだと記事はストックされませんよ! 11/30 01:49
- デザイン的にほぼ変わらないので、ストックボタンの代わりにいいねボタンを押していました。
- 「いいね」ボタンを押したら、感覚としては当然ストックされているつもりでいた
- 「いいね」した記事を後からフィルタリングすることもできない
- あまりの絶望に、「いいね」ボタンを、ストックボタンで覆い隠すChromeの拡張を勢いで書き上げ使用しています。
- 同じところに同じデザインのボタンがあったら、機能が違うなんて気がつかない。
- ストックボタンは従来のまま変更せずに、現状のストックボタンをいいねボタンにするのがよかったんじゃないか
- ストックするってことがそもそも最大の賞賛、役にたったよ!ありがとう!という意味なんじゃなかろうか。
- 少なくとも1ユーザーから見たら、言葉は悪いが改悪だよなと感じた。
- 気がついたときには読んでいますが、必ず目を通せるわけではないので、もう少しわかりやすくお知らせいただければな、と思います。ボタン付近に機能が変わったと明示するなど。
- 特に今回のようなユーザー影響の大きい修正は、告知の仕方を考慮していただきたかったなと思います。
- 言い方は悪いですが、今回の変更は罠です。
戦略上の不備
「ストック」が Qiita における根幹的な概念であることは疑いがないだろう。この重要概念を変更するに当たって、テスト公開を実施せずに(あるいは特定対象者に限定してテスト公開したのかもしれないが)いきなりアナウンスなしで切り替えてしまう感覚にはドン引きである。
テスト公開を実施していない前提での話であるが、今回のようなサービスの根幹的な概念を変更するのは、これまでのユーザーが離れていくリスクが非常に高いことは想像に難くなく、当然ながら限定されたユーザーに対して、限定された機能で検証するのが至極当然のことと思われる。
それを何を思ったのかいきなりフルスロットルで「ストックをいいねに変えまぁす」とされては「なにやってんの!」2 と言いたくもなるものである。
改修を外部に漏らしたくないという戦略上の理由があれば致し方ないことであるが、残念なことに今回の内容ではそのような理由は見いだせない。
せめてものブログ等でそれとなく匂わせて反応を見るなどの慎重さは欲しかった。ユーザーがあってこそのソーシャルナレッジサイトである。
常識的な戦略としては、例えば(当然限定されたユーザーに対するテスト公開で)まずはコメント欄で「いいね」を導入し、そこでの「いいね」の使われ方を検証して、Qiitaにおける「いいね」の概念の評価のされ方を分析してから、拡大適用すべきだろう。
ポイント
- 重要概念の変更は慎重に
- アナウンスは事前に
- 実施後のアナウンスも丁寧に
概念と仕様の変更目的が不明瞭
そもそもの話として、なぜ「ストック」を「いいね」で代替し、「ストック」が担っていたと思われる役割の一部をわざわざ分離する必要があったのだろうか。
今回の「いいね」の導入により、ストックは 純粋に投稿記事を保存するという役割だけを担当し、今後「この記事はいい記事だ」というフィードバックは、「いいね」によって表現できるようになります。
これがブログで高らかに宣言されている内容であるわけだが、これによって得をするのは果たして誰なのだろうか。これによっていったいどのような効果が得られるというのだろうか。
プログラマ向けWebサービス「Qiita」の企画・開発・運営を行うIncrements株式会社は営利企業であり、彼らが行う事業活動は会社に利益をもたらすものでなくてはならない。仮にユーザーにとって利益にならなくても戦略上会社にとって利益になるようなケースがあるのであればよい。
しかし残念ながら私の限られた想像力では思い当たる節がなく、会社にとってもユーザーにとっても「記事の保存と評価のアクションを分けられてスッキリ!」という自己満足以外に得られるものがないようにしか思われない。分かりやすく言えば「いいね」を押す「メリット」がないのである。
もちろん、この「スッキリ!」に共感する人間が多く存在し、「いいね」を押下することで多大なカタルシスを得られるというメリットがあり、それによって Qiita が高く評価されるようであればまったくもって問題ないわけであるが、果たして結果はどうなのか、Increments のみぞ知るというところである。
なお、はてなブックマークのコメントでは比較的評価するコメントも多いようで、コメントの25%程度がポジティブな評価となっている。3
ただし、この評価はあくまで「いいね」の導入に対してであって、「ストック」の概念分離を評価したものはないと思われる。
ポイント
- 事業活動は利益のため
- 誰がどのように利するのかを明確に
- システムは自己満足にならないように
ストックという概念の理解不足
今回の「いいね」の導入により、ストックは 純粋に投稿記事を保存するという役割だけを担当し、今後「この記事はいい記事だ」というフィードバックは、「いいね」によって表現できるようになります。
違う、そうじゃない。 4
どうも Increments は「いいね」をなぜか「評価指標」と勘違いしているようだが、その大前提がそもそもの誤りである。
Facebook の「いいね」はどのような動機付けで行われるのかを考えてみよう。果たして彼らは「友達」の投稿を「評価」して「いいね」を押しているのだろうか。
もちろん上から目線で「なかなか価値のある投稿じゃないか、評価してやろう」と純粋な動機から「いいね」を押す人もいるかもしれない。
しかし Facebook は基本的にソーシャルネットワークであり、「友達」に対して「いいね」を押すことにより「私はあなたの投稿に共感しましたよ。仲間ですね。」という表明、コミュニケーションすることがその本質である。 Good ではなく Like なのである。
すなわち、Facebook の「いいね」は結果ではなく手段なのだ。手段としての数値を評価指標に使うなど愚の骨頂である。
別の言い方をすれば、Facebook には「いいね」を押す動機、あるいはメリットがきちんとあると言える。「いいね」を押すことによって共感を表明することで相手とコミュニケーションを行い、相手とのつながりを求めているのである。いわばあいさつや会話の相づちのようなものだ。
翻って Qiita ではどうだろうか。技術文書に相づちを打つだろうか。前述の言及記事にもある通り、我々は Qiita で馴れ合いたい訳ではない。単純に、役立つ記事を効率的に入手、管理したいだけである。
冷静になって考えて欲しい。「ストック」は必要があって押すが、「いいね」はどうだろうか。必要性がないものに強制力は働かない。これが答えである。
「いいね」は押さなくても困らないという点で任意性が高すぎて評価指標としての価値はなく、客観的評価であった「ストック」の件数表示を取りやめてしまったことによりユーザーの記事投稿意欲は大幅に低減することになる。
動機付けという観点が欠落した今回の仕様変更は、さながら理想だけに先走ってインセンティブを考慮せずに制度設計に失敗する日本国政府のようである。
あるいは「はてなブックマーク」のスターと考え違いしているのかもしれないが、残念ながら的外れである。はてブとは違うのだよ、はてブとは!5 あれはいわば「ボケて」のようなネタ投稿に対して評価を送る仕組みであり、面白かったから、共感したから、という情動的な理由で評価を与えるものである。人はどのようなときに「ブラボー!」と言うのか想像してみれば分かるだろう。情動的な共感があって初めて能動的に賞賛という評価行動を取るわけであって、技術文書に対して情動的な共感はしない。
百歩譲って、おめでたい性善説の立場に立って「いいね」を「フィードバック」として積極的に押すユーザーだらけだと仮定してみよう。「いいね」を押して対象を「この記事はいい記事だ」と評価するということは、そこに書かれた内容を評価できるだけの知識が必要になる。この時点で「いいね」を押すユーザー数が明らかに減ることは考えるまでもなく分かることだろう。「ストック」は対象を理解していなくても「後で読もう」と思えば押すことが出来るが、「いいね」はそうはいかない。
Qiita としては理解していない人間の「ストック」が評価指標に影響するのが「気持ち悪かった」のかもしれないが、では「いいね」を押すユーザーの「フィードバック」とやらが果たして適切なのだろうか。検索エンジンやクチコミ評価サイトを引き合いに出すまでもなく、情報を評価するという行為は評価者の能力に依存する。任意性にまみれた能力不明な人間による「いいね」と、客観的な情報の需要を表す「ストック」と、果たしてどちらが妥当な数値なのかは言わずとも分かるだろう。はてブで「あのサイトには「ひどいね」ボタンが必要」6 などとコメントされる理由をよくよく考えてみるべきである。
Facebook とは逆に mixi の「足あと」はその本質が評価指標であり、「足あと」を制限して衰退してしまった mixi についてはしくじり先生 7 としてよくよく鑑みるべきであり、先達と同じような悲しい末路を辿ることのないように切に願うばかりである。
ポイント
- 「いいね」は評価ではなく共感
- 「ストック」は必然性があるが「いいね」にはない
- 仕組みを考えるときはユーザーの動機付けを考慮しよう
どうすればよかったのか
終わったことをどうすればよかったのかとグダグダと述べてみたいと思う。
アナウンス
-
事前に告知を行うべきだった
- 何の前触れもなくいきなり重要概念が変更となり、「ストック」の再整理に追われる人や、「いいね」した記事が見つからなくなってしまう人が続出してしまった。ユーザーを大切に思うのであれば事前に充分告知するべきであった。
-
変更後もよく周知するべきだった
- 変更箇所にバルーンやリンクを表示するなどして、どのような変更があったのかを。
いいね
-
段階的に検証するべきだった
- 前述の通り、限られたユーザーのなかで検証するべきであった。
-
ストックと置き換えるようなアホなことはするべきでなかった
- 追加にするべきであって置換するべきではなかった。
ストック
-
UIを変更すべきでなかった
- UIの変更により混乱を招いた。
- 本来の機能をなるべく変更すべきでなかった
-
Contributionの計算を変更すべきでなかった
- 新たに「いいね」用の評価値を新設するべきだった。
今後どうすればよいのか
とはいえ変えてしまったものは仕方がない。未来志向で今後どのようにするべきか考えてみよう。
いいね
- ストックと同格以下に下げる
- 「いいね」は挨拶や相づちなのだ。
- 具体的には、「ストック」と「いいね」は並列させるか、「ストック」を優先させるべき。
- マイナス評価軸を設ける
- Stack Overflow や Teratail のように + / - 評価軸を設けるべきで、はてブのコメントにもあったように「ひどいね」とでもするといい。6
- 「いいね」は任意性が高すぎて評価指標としての価値がないが、マイナス評価は能動的な動機付けがあり意味がある。
- これを導入できるかどうかが Qiita が今後さらなる発展を見込めるかどうかの分水嶺になるだろう。
ストック
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ストックの利便性を向上させる
- Qiita の価値は本質的に「ストック」であり、それ以上でもそれ以下でもない。
- 本来のブックマークとしての価値を見いだすためには、いかに後から参照しやすくするかに注力すべきである。
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ストック数をContributionに換算させる
- ストック数がContributionに影響しないのはおかしい。
- 旧Contributionなどとして復活させてもいいかもしれない。
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ストック数を表示させる
- 必要だから「ストック」とされたという数の方が評価として信頼に足る。
- 「ストック」とだけされて「いいね」されないってなんかむかつく。
-
ストックをユーザー単位でカテゴライズできるようにする
- 結局「いいね」の一覧も追加開発する羽目になっており、「ストック」との違いが曖昧になってきている。
- タグでの検索は一応できるが、この指定は執筆者に依存しており、ストックしたユーザー自身が記事をカテゴライズできるようにすべきである。
参照文献
-
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A7%81%E3%81%8C%E3%83%A2%E3%83%86%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%AE%E3%81%AF%E3%81%A9%E3%81%86%E8%80%83%E3%81%88%E3%81%A6%E3%82%82%E3%81%8A%E5%89%8D%E3%82%89%E3%81%8C%E6%82%AA%E3%81%84! ↩
-
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A4%CA%A4%CB%A4%E4%A4%C3%A4%C6%A4%F3%A4%CE ↩
-
http://b.hatena.ne.jp/entry/blog.qiita.com/post/153200849029/qiita-like-button ↩
-
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%95%E3%81%86%E3%80%81%E3%81%9D%E3%81%86%E3%81%98%E3%82%83%E3%81%AA%E3%81%84/%E6%B8%8B%E8%B0%B7%E3%81%A75%E6%99%82 ↩
-
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%97%E3%81%8F%E3%81%98%E3%82%8A%E5%85%88%E7%94%9F_%E4%BF%BA%E3%81%BF%E3%81%9F%E3%81%84%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%81%AA%21%21 ↩