794
658

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

More than 5 years have passed since last update.

『エンジニアよ、大志を抱け』~まずスキルを磨き、ビジネスを覚え、そしてユーザー企業で活躍しよう

Last updated at Posted at 2019-10-14

エンジニアの諸君、いま日本のIT事情はかなり厳しいことになっているのはご存じだろうか。日本は経済規模で中国に抜かれて久しく、様々な経済指標を見てももはや先進国とは言えない1状況になっているが、ITの状況を見ても、欧米諸国や、実はアジア諸国と比べても惨憺たる状況なのである。

日本の惨憺たるIT事情

日本では昔からITを戦略的投資と考えずに「ITはしょせん道具だ」ととらえてコストとみなし、まるまるアウトソースをしたり、社内異動で移ってきた専門家でない人間に任せていたりしていた。エンジニアの給料も他国と比べるとひどいもので、日本の平均は米国の平均の約半分2である。社内異動で移ってきた人間なので、あと2-3年すればまた別の部門に異動するため、学習意欲も低い3。社内でも、使えるパソコンは10年くらい前のスペックで、スマホで仕事をしたほうが早いのではないかと思うくらいのブツしか配布されない。

そして、現在の日本で叫ばれているのが以下の状況である。

  • 日本は世界でも最もデジタルトランスフォーメーションが遅れている4。特に「組織内のスキル/ノウハウ」「リーダーシップ」「戦略とビジョン」が不足しているという。
  • AIは他国に周回遅れ5。AIは20代半ばから30代前半の若い世代が活躍する分野だが、日本企業の多くは、20代や30代には発言権が全くなく、彼らがどんなに素晴らしいアイデアや技術を持っていても、意志決定をするのは50~60代という発想の古い世代であることが大きな原因だという。
  • 日本発のパッケージソフト/サービスで日本以外で通用しているものは殆どない。世界の時価総額上位には、GAFAをはじめ世界でパッケージソフト/サービスの普及に成功した企業が多く名を連ねるが、日本からは上位に名を連ねている企業はほとんどなく、あっても自動車など従来産業の企業である。

つまり、次の時代を創っていく、「ITの力を使った新しいビジネスモデル (第四次産業革命のビジネスモデル)」が日本から殆ど生まれていないのである。

何がいけなかったのか?

つまるところ、日本ではITを使った新しいビジネスモデルの開発に若者の力を使えなかった、ということだろう。日本がかつて戦後復興の中で成功した自動車やエレクトロニクス分野の発展を支えた、比較的若い経営陣による迅速な意思決定、人がやったことがないことをやろうという精神が、IT勃興の時代には残念ながら生かされなかったのである。特に、ビジネスモデルの変革で「リーダーシップ」「戦略とビジョン」の不足という面が大きいであろう。

日本はIT人材が不足しているのか?

では、日本ではITの人材が不足しているのだろうか。よく『日本のITエンジニアはウン十万人不足している6という記事や広告を目にする。日本の労働人口に占める情報処理・通信に携わる人材の割合は1.5%6で、米国2.6%、英国2.5%、ドイツ2.7%などと比べると確かに低い。米国はGAFAなどの巨大IT企業があるのでそうかなと思うが、製造業従事者の割合が高いドイツでも米国と同程度の割合の人材がIT関連に勤めていることを考えると、日本はIT人材にあまり投資ができていないと考えられる。また、同時に単純な数だけの問題ではなく、人材不足の問題は①適切なスキルを持った人材 (適材)が、②適切な場所 (適所)にいない、ということでもあるため、数だけでなく適材適所の問題ももっと強調すべきであろう。

①については、「いま求められているIT技術に対応できる人材」の課題である。古くはCOBOLを使って銀行の勘定系システムを作ることもITであったが、いまや銀行のATMは統合が進み、年間総額2兆円のATM産業は今後どんどん縮小して行くため、このような「古いIT技術」しかできない人材は活躍の場所がなくなる。その替わり、AIエンジニア、データサイエンティストといった最先端のビジネスを作るのに必要な人材が育っていないことになる。これらに限らず、IT技術の進歩は日進月歩であるため、古いIT技術しかできない人材に新しいIT技術を学ばせて転換をしていく人材育成が必要になってくる(ここで、既出の学ぶ意欲の低さも問題になってくる)。

IT人材の所在が問題!

また、①に比べると取りざたされる機会が少ないが、日本の場合は②にも構造上大きな課題がある。総務省の『令和元年版 情報通信白書』とIPAの『IT人材白書』からいくつか引用すると、まず、日本はIT人材がユーザー企業にいる割合が極端に少なく約30%弱であるのに対し、欧米諸国は概ね50-60%以上がユーザー企業に所属している。
image.png

これは、欧米諸国でユーザー企業のIT部門で行っているITシステムの構築を、日本においてはIT企業にアウトソースしているという産業構造に起因するのであるが、第四次産業革命が叫ばれ、デジタルトランスフォーメーション (DX) を行い自社のビジネスモデルを変革する段階においては、これが大きな差となって効いてくる。なぜなら、以下の図が示すように、DXは自社のIT知識とビジネスモデルを融合させる必要があるからだ。このコアの部分の一部をアウトソースしていては、永遠に「IT」と「ビジネスモデル」は融合しないのである。

image.png

DXの時代には、すべての人材が基本的なIT知識、パソコン操作といった表面的なスキルだけではなく特にプログラミングなどの、ITの仕組みに踏み込んだ知識が不可欠となる。ただ、ようやく学校でも「プログラミング教育」が始まったばかりなので、それを学んだ人材が社会に入ってくるのは、まだ当分先のことである。

エンジニアのキャリアはどうすればいいのか?

まずは基本、若いうちは客観的に振り返りながら視野を広く、そして尖った技術スキルを磨こう

さて、ここでようやくエンジニアのキャリアの話になるわけだが、昔エンジニアをやっていた筆者の経験から、取り組み方について考えてみることにする。最初は自分の業務の周辺技術から着々と学んでいくことになる。そこで実務経験と周りの人間よりも深い知識をまず身に着けよう。

もし貴方がプログラマーであれば、仕事で使う基本的なプログラミング言語をまず習得して、周りよりも深い知識を身に着けよう。加えて、Python、JavaScript、PHPなどQiitaでも盛り上がっている人気のある言語や、C/C++/C#、Java、SQLなどの汎用的な言語を3つくらい習得してみることをお勧めする。いくつかのプログラミング言語を覚えることで、言語ごとの癖 (メリット、デメリット)がわかってくるのと、プログラミング言語によらない汎用性のある知識が身につくからだ。

もし貴方がインフラ系のエンジニアであれば、仕事で使う基本的な知識に加えてクラウドコンピューティング、ネットワーク、仮想化、コンテナーなど今理解しておくべきインフラのキーワードを押さえておこう。また、基本的なプログラミングも1つの言語くらいは押さえておくことをお勧めする。プログラミングを行うことで、コンピューターがどのように動いているのかを表面的ではなく深く理解するきっかけになるからだ。

どちらの場合も、Windows APIの仕組み、.NET Frameworkの仕組みなどOSの動く仕組みや、オブジェクト指向、テスト方法、デザインパターン、正規表現、XML/HTML/CSSなどのプログラミング言語によらないフレームワークの理解もしておいたほうが良い。

一般的な常識を広く浅く身に着けつつ、どれかひとつは10人にひとりくらいの腕前になるように磨きをかけよう。たとえて言うと、大文字のティー ("T")のように、横に広く、縦に1つ深い分野を作るイメージである。また、常に勉強する癖をつけ、学んだことはきちんとアウトプットしてみて (サンプルを作る、ブログを作ってみる、GitHubで公開してみる、プレゼンしてみる、など)習得できているかを客観的に見れる環境を作ろう。将来的には、最初に学んだプログラミング言語や実装環境は廃れてしまう可能性もあるが、仮にそのようなことがあっても、汎用的な知識を元に次の領域に入っていけるための基礎体力を養うのも重要である。

専門職で通すか、横に手を伸ばすか?

ある分野である程度熟練して来たら、次にどうするかを一度考えてみたほうが良いだろう。このまま同じ専門でキャリアを深堀する手もあれば、少し隣の分野にずれてみて、基礎から学びなおす手段もある。筆者のおすすめは、若いうちにいくつかの専門分野を経験することである。いくつか分野を経験するほうが視野も広がるし、自分の得意、不得意分野も客観的に理解できるようになってくるだろう。加えて、10人にひとりくらいの腕前になってから100人にひとり、1000人にひとりの腕前にレベルアップしていくのはそれなりに時間と才能を注ぎ込むことになる。必ずしも常に前進できるとも限らない。

翻って、複数の専門スキルを付ける方法、たとえて言うと、下駄を横から見たように "TT" 、横に広く、縦に2つ以上深い分野を作るイメージ、であれば、両方の分野で10人にひとりくらいの腕前になれば 1/10 x 1/10 = 100人にひとりくらいのレアな人材になることができるのである。また、この2つのスキルの組み合わせがレアであればあるほど、よりレアな人材、うまくいけば日本でひとり、世界でひとりの人材になることも夢ではない。つまり、1つのスキルだけで日本一、世界一になるのは天才でないと難しいが、複数のスキルの組み合わせであれば凡人であっても日本一、世界一になることも夢ではないのである。また、この変化の激しい時代に、変化に対応するための保険にもなる。ダーウィンの進化論と同様、「生き残るのは、優れたスキルを持った人材ではなく、変化に適用できた人材」なのである。

ビジネスを覚えてユーザー企業で働く手も

さらに、冒頭で触れた日本のITの現状を考えたときに、ある程度のスキルを付けたのなら、ビジネス部門側に回って業務を覚えてみるのもありかもしれない。なぜなら、スキルの組み合わせがよりレアになる確率があがるからである。IT知識をもったビジネス部門の人間というのは日本ではレアな存在である。筆者もこの道を歩んだ一人である。

ユーザー企業に転職すると、その企業のビジネスをITで最新化するプロジェクトにかかわることもできる可能性がある。某自動車メーカーが首都圏の南武線沿いのIT企業向けに広告を出して転職を促したといった話も最近は聞こえてくるようになってきた。IT企業でずっと働くよりも高給で転職していくこともめずらしくないのである。いまや「すべての企業はソフトウェア企業である」といわれるくらい、第四次産業革命の中ではどのユーザー企業もIT化することで生き残りをかけているのである。

現業部門とエンジニアのコラボレーションは成り立つのか?

とはいえ、日本のユーザー企業はまだまだITリテラシーが低く、せっかくIT企業から転職しても、転職先の人々と話が通じず活躍できないのでは!?といった不安の声も聞かれる。そのような場合、Chief Digital Officier (CDO、最高デジタル責任者)を設置しているような企業を転職先に選ぶとよいだろう。CDOは米国で数年前から設置され始めている役職で、日本ではまだ設置企業は1%に留まるが、米国では2019年までには90%の大企業が設置するといわれている役職である。日本でCDOが設置されているということは、その企業はDXへの関心と取り組みが具体的に進んでいることを意味している。日本でCDOを設置している主要企業の一覧もあるので、このような企業に転職するのもよいだろう。

さあ、今こそ大志を抱こう!

以上のように、エンジニアのキャリアもいろいろあるものの、知識は広く、いくつかのレアな専門性の組み合わせを身に着けることで日本一、世界一の人材になることも可能であるし、日本では給料が高くないといわれるエンジニアの世界でもうまくキャリアパスを選ぶことにより高給路線を歩むことも可能である。可能性は貴方次第、さあ今こそ大志を抱こう!

  1. いろいろな記事が出ているが、たとえば『日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう~Newsweek経済ニュースの文脈を読むコラム by 加谷珪一

  2. IT人材に関する各国比較調査 - 経済産業省 (2016)

  3. 絶句… “意識低い系国家ニッポン”の実態、14カ国比較調査の衝撃的な内容とは?~経済評論家 加谷珪一

  4. たとえば『日本はデジタルシフトが遅れてる? ~デルテクノロジーズが42の国と地域で企業のデジタル化の進捗状況を調査』『日本における「デジタルトランスフォーメーション」推進の重要性~マイクロソフトによるアジア地域における調査から、他地域との傾向の違いが明確に』など様々なレポートが出ている

  5. 日本企業がAIで周回遅れになった理由~日経ビジネス

  6. もともとは『IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果 (経済産業省)』で言われているようであるが、真相は、たとえば『本当の問題は量よりも質…IT人材白書「エンジニア不足」の真相』などでコメントされているように、量より質の問題に帰結する。 2

794
658
13

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
794
658

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?